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第三章 女王ゆえの傲慢
第11話 彼の本性(4)
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最初に行ったのは、予定していたアスターレンの首都ジリアンへの転移だった。
街の裏路地に現れ、足元で驚いているノラ猫にウィンクをひとつ。とても機嫌がよかった。鼻歌を歌いながら、この地点に転移させた筈のルリアージェの魔力を探る。
近くではないが、この都から出てもいない。
長い黒髪の先を、指でくるくる回しながら歩き出した。
しかし、機嫌が良かったのはそこまで……。
レンガに似た赤茶の屋根が続く街の先、青い屋根の王宮に目をやる。ルリアージェの魔力は王宮から感じられた。
信じられない思いで目を見開く。もう一度探っても、確かに王宮の中だった。彼女はあの青い屋根の下にいるのだ。
追われる身のルリアージェが、自ら王宮へ向かう理由はない。シグラ国境の街に寄ったときも、警備兵の姿に慌てて身を隠した。
手配されている自覚があるからだ……なのに、王宮?
――彼女は囚われたのか?
「へえ、人間風情がいい度胸してるじゃないか」
オレのルリアージェに手を出すなんて……な。
あの女の檻の中で共有した痛みは、右手。ルリアージェの利き手であり、魔力を制御する杖を持つ腕だ。つまり彼女は攻撃を受け、魔術で対応した。
急な攻撃ならば、杖を呼び出す間はなかった。ゆえに彼女は杖なしで魔術を発動し、その身を傷つけた可能性が高いのだ。
路地の空気が変わった。ぶぎゃ……奇妙な声を上げてノラ猫は全力で逃げる。本能が告げるまま、ネズミや虫ですら逃げ出した。
ふわり、温い風が起きる。ジルの足元に吹く風が渦を巻き、彼の身を持ち上げた。小型の竜巻に乗る形でジルは右手を正面に差し出す。
≪我が命に従え。背に翼を持つモノが命じる――主の下へ我を運べ≫
魔術と呼ばれる力ではなかった。魔術ならば術の名称がある。感情のままに精霊を従わせる命令を放つ使役術は、失われし神の御技と伝えられていた。
秘された力を、ジルは惜しみなく使う。
アティン帝国が滅びる少し前に、神の一族は滅亡したと伝えられる。彼らが使ったのは『霊力による使役』だった。世界に満ちる精霊たちを、己の手足のように使役する。強大な力と驚くほどの長寿を誇る種族だった。
彼らが喪われ、失われた力を振りかざす。
右手を取り巻く風を上に掲げ、一気に振り下ろした。埃が巻き起こり、爆音と悲鳴が街を包む。いくつかの爆発、そしてジルの前の建物が消えた。
崩れた瓦礫が積み重なる足元を一瞥し、興味なさそうにジルは視線を王宮に戻す。
「ふん……まだ『戻らない』か」
封印された力はまだ回復していない。それでもアティン帝国より小さな国の首都ならば、さほど時間をかけずに滅ぼせるだろう。
にやりと口角を上げる。
あと2発もあれば、王宮まで届く。避けて道を行く、転移で彼女の元に行く――被害を生まない解決方法をあえて切り捨てた。
彼女は傷つけられたのだ。ならば、代償が必要だろう?
街の裏路地に現れ、足元で驚いているノラ猫にウィンクをひとつ。とても機嫌がよかった。鼻歌を歌いながら、この地点に転移させた筈のルリアージェの魔力を探る。
近くではないが、この都から出てもいない。
長い黒髪の先を、指でくるくる回しながら歩き出した。
しかし、機嫌が良かったのはそこまで……。
レンガに似た赤茶の屋根が続く街の先、青い屋根の王宮に目をやる。ルリアージェの魔力は王宮から感じられた。
信じられない思いで目を見開く。もう一度探っても、確かに王宮の中だった。彼女はあの青い屋根の下にいるのだ。
追われる身のルリアージェが、自ら王宮へ向かう理由はない。シグラ国境の街に寄ったときも、警備兵の姿に慌てて身を隠した。
手配されている自覚があるからだ……なのに、王宮?
――彼女は囚われたのか?
「へえ、人間風情がいい度胸してるじゃないか」
オレのルリアージェに手を出すなんて……な。
あの女の檻の中で共有した痛みは、右手。ルリアージェの利き手であり、魔力を制御する杖を持つ腕だ。つまり彼女は攻撃を受け、魔術で対応した。
急な攻撃ならば、杖を呼び出す間はなかった。ゆえに彼女は杖なしで魔術を発動し、その身を傷つけた可能性が高いのだ。
路地の空気が変わった。ぶぎゃ……奇妙な声を上げてノラ猫は全力で逃げる。本能が告げるまま、ネズミや虫ですら逃げ出した。
ふわり、温い風が起きる。ジルの足元に吹く風が渦を巻き、彼の身を持ち上げた。小型の竜巻に乗る形でジルは右手を正面に差し出す。
≪我が命に従え。背に翼を持つモノが命じる――主の下へ我を運べ≫
魔術と呼ばれる力ではなかった。魔術ならば術の名称がある。感情のままに精霊を従わせる命令を放つ使役術は、失われし神の御技と伝えられていた。
秘された力を、ジルは惜しみなく使う。
アティン帝国が滅びる少し前に、神の一族は滅亡したと伝えられる。彼らが使ったのは『霊力による使役』だった。世界に満ちる精霊たちを、己の手足のように使役する。強大な力と驚くほどの長寿を誇る種族だった。
彼らが喪われ、失われた力を振りかざす。
右手を取り巻く風を上に掲げ、一気に振り下ろした。埃が巻き起こり、爆音と悲鳴が街を包む。いくつかの爆発、そしてジルの前の建物が消えた。
崩れた瓦礫が積み重なる足元を一瞥し、興味なさそうにジルは視線を王宮に戻す。
「ふん……まだ『戻らない』か」
封印された力はまだ回復していない。それでもアティン帝国より小さな国の首都ならば、さほど時間をかけずに滅ぼせるだろう。
にやりと口角を上げる。
あと2発もあれば、王宮まで届く。避けて道を行く、転移で彼女の元に行く――被害を生まない解決方法をあえて切り捨てた。
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