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第7章 吸血鬼の集う城
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大まかな経緯を説明されたアイザックの脳裏に、暗赤と黒を纏う美女の姿が思い浮かんだ。シリルに対して異常なまでの執着を見せ、己こそがシリルに相応しいと勘違いしている。選ぶ権利は彼女ではなくシリル側にあり、彼がライアン以外を選ぶなど有り得ないのに。
たとえ、ライアンがシリルに血を与えなかったとしても、2人の間の絆は切れないだろう。
「あの女に唆されて、お前とライアンを疑ってしまった……俺は未熟だ」
彼女を責めるより、唆された己の弱さを嘲笑うリスキアの言葉に、アイザックの口元に笑みが浮かんだ。
「まさか、リスキアが嫉妬してくれるとは……」
「違うっ、心配しただけだ」
嫉妬ではないと否定する恋人だが、首筋や耳が真っ赤に染まっていた。色っぽい肌に誘われて、耳の下に唇を押し当てる。ぴくり、震えた肌に痕を残す。
「おれがライアンと一緒に行くと思ったのだろう?」
「……」
責められていると思ったのか。リスキアが俯く。その旋毛にキスを落とした。
「嫉妬してくれたなら、嬉しいのだが?」
違うのか……残念そうに呟けば、リスキアが意外そうな顔で見上げてくる。天邪鬼な唇より、表情の些細な変化や瞳の方が雄弁に心情を語るのは、リスキアもシリルも同じだった。長く生きる間に感情を殺すことを覚える吸血鬼ならではの特徴だろう。
「嫉妬、した……お前をライアンに取られると思った」
血が薄まったのは先の争いが原因で、その時も今も苦しむ恋人を助けられなかった。救う術を持たない自分より、同族のライアンを選ぶ筈だ。そう考えることさえ嫌なのに、どうしても脳裏から消えなかった。
そんな感情の揺らぎを、カヨコに見透かされたのだろう。
ぎゅっとシーツを掴んだリスキアの指を、アイザックの手が上から包み込む。その手は温かかった。ライアンが血を与えるまで、冷たくなっていた肌は普段の体温に戻っている。リスキアより温かくて、大らかな優しさを感じさせる恋人の手に、掴んでいたシーツを離して指を絡めた。
「ひとつ教えておこう、リスキア。おれは常に嫉妬し続けている」
魅力的な恋人を持った宿命だと笑い飛ばすアイザックに、リスキアの顔に普段の強気な色が戻ってきた。
たとえ、ライアンがシリルに血を与えなかったとしても、2人の間の絆は切れないだろう。
「あの女に唆されて、お前とライアンを疑ってしまった……俺は未熟だ」
彼女を責めるより、唆された己の弱さを嘲笑うリスキアの言葉に、アイザックの口元に笑みが浮かんだ。
「まさか、リスキアが嫉妬してくれるとは……」
「違うっ、心配しただけだ」
嫉妬ではないと否定する恋人だが、首筋や耳が真っ赤に染まっていた。色っぽい肌に誘われて、耳の下に唇を押し当てる。ぴくり、震えた肌に痕を残す。
「おれがライアンと一緒に行くと思ったのだろう?」
「……」
責められていると思ったのか。リスキアが俯く。その旋毛にキスを落とした。
「嫉妬してくれたなら、嬉しいのだが?」
違うのか……残念そうに呟けば、リスキアが意外そうな顔で見上げてくる。天邪鬼な唇より、表情の些細な変化や瞳の方が雄弁に心情を語るのは、リスキアもシリルも同じだった。長く生きる間に感情を殺すことを覚える吸血鬼ならではの特徴だろう。
「嫉妬、した……お前をライアンに取られると思った」
血が薄まったのは先の争いが原因で、その時も今も苦しむ恋人を助けられなかった。救う術を持たない自分より、同族のライアンを選ぶ筈だ。そう考えることさえ嫌なのに、どうしても脳裏から消えなかった。
そんな感情の揺らぎを、カヨコに見透かされたのだろう。
ぎゅっとシーツを掴んだリスキアの指を、アイザックの手が上から包み込む。その手は温かかった。ライアンが血を与えるまで、冷たくなっていた肌は普段の体温に戻っている。リスキアより温かくて、大らかな優しさを感じさせる恋人の手に、掴んでいたシーツを離して指を絡めた。
「ひとつ教えておこう、リスキア。おれは常に嫉妬し続けている」
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