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第7章 吸血鬼の集う城
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愛する恋人がいて、ヴェネゲルの美味なる血を与えられ、類稀なる能力で守護されている。カヨコがライアン以上の物を与えたとしても、彼女を選ぶことはないのだと……どうして気づかないのか。
緩やかに身を起こすと、シリルは溜め息をつく。
「シリル、もう帰る?」
背後から聞こえた恋人の声に、少しだけ口元を緩めて頷いた。
「ああ、疲れた……」
「おいで」
抱き上げて欲しいと強請るシリルの所作に、ライアンは力技で小柄な恋人を抱き寄せる。拳を握り締めるカヨコに一瞬だけ視線を落としたライアンだが、三つ編みを掴んで促すシリルの我が侭に苦笑して背を向けた。暗赤の瞳が殺気を帯びて輝く。
逃げ惑う美女の叫びと、青年の断末魔にも、彼らは振り返らなかった。
「リスキア様、お話がございます」
暗赤の美女に呼び止められ、不機嫌な顔で立ち止まる。長老たる地位を継いだリスキアであっても、一族の中で上位の血筋を誇る彼女を無視は出来ない。またライアンに対する苦情だろうとアタリをつけて、小さく溜め息をついた。
「……こちらへ」
通された部屋で、勧められるまま椅子に腰掛ける。ピンと背筋を伸ばした姿勢の良さは、武道を嗜むリスキアらしい心意気を感じさせた。洒落たテーブル越しに座ったカヨコが、そっと紅茶を差し出す。湯気を立てるカップには目もくれず、リスキアはカヨコが話を切り出すのを待った。
「お話は、アイザック様のことですわ。シリル様がお連れになったヴェネゲルの方、ライアン様とおっしゃられたかしら? 彼とアイザック様の間でなされていた複雑なお話を……私、聞いてしまいましたの」
リスキアの眉がぴくりと動く。
2人の間の会話が気になっているのは、リスキアも同じだった。ただ、恋人であるアイザックはもちろん、友人と認めたライアンも信じているから尋ねないだけ。
それ以上の反応を見せないリスキアに、カヨコは砂糖をひとつ入れたカップをスプーンでかき回す。もったいぶる彼女の態度に、内心苛立ちを隠せないリスキアが先を促した。
「何を聞いた?」
「……いえ、きっと私の勘違いだと思うのですけれど……」
話があると誘った癖に、今更の言い回しで目を伏せる。カヨコの演技に舌打ちしたリスキアが立ち上がろうとすると、彼女はゆっくり口を開いた。
「ライアン様はヴェネゲルの純血種でいらっしゃいますでしょう?」
頷くリスキアに我が意を得たりと微笑んだカヨコは、赤く染めた爪でカップの縁に触れた。なぞる仕草の後、静かに続ける。
「己の血を使って、一族を復興させると……」
緩やかに身を起こすと、シリルは溜め息をつく。
「シリル、もう帰る?」
背後から聞こえた恋人の声に、少しだけ口元を緩めて頷いた。
「ああ、疲れた……」
「おいで」
抱き上げて欲しいと強請るシリルの所作に、ライアンは力技で小柄な恋人を抱き寄せる。拳を握り締めるカヨコに一瞬だけ視線を落としたライアンだが、三つ編みを掴んで促すシリルの我が侭に苦笑して背を向けた。暗赤の瞳が殺気を帯びて輝く。
逃げ惑う美女の叫びと、青年の断末魔にも、彼らは振り返らなかった。
「リスキア様、お話がございます」
暗赤の美女に呼び止められ、不機嫌な顔で立ち止まる。長老たる地位を継いだリスキアであっても、一族の中で上位の血筋を誇る彼女を無視は出来ない。またライアンに対する苦情だろうとアタリをつけて、小さく溜め息をついた。
「……こちらへ」
通された部屋で、勧められるまま椅子に腰掛ける。ピンと背筋を伸ばした姿勢の良さは、武道を嗜むリスキアらしい心意気を感じさせた。洒落たテーブル越しに座ったカヨコが、そっと紅茶を差し出す。湯気を立てるカップには目もくれず、リスキアはカヨコが話を切り出すのを待った。
「お話は、アイザック様のことですわ。シリル様がお連れになったヴェネゲルの方、ライアン様とおっしゃられたかしら? 彼とアイザック様の間でなされていた複雑なお話を……私、聞いてしまいましたの」
リスキアの眉がぴくりと動く。
2人の間の会話が気になっているのは、リスキアも同じだった。ただ、恋人であるアイザックはもちろん、友人と認めたライアンも信じているから尋ねないだけ。
それ以上の反応を見せないリスキアに、カヨコは砂糖をひとつ入れたカップをスプーンでかき回す。もったいぶる彼女の態度に、内心苛立ちを隠せないリスキアが先を促した。
「何を聞いた?」
「……いえ、きっと私の勘違いだと思うのですけれど……」
話があると誘った癖に、今更の言い回しで目を伏せる。カヨコの演技に舌打ちしたリスキアが立ち上がろうとすると、彼女はゆっくり口を開いた。
「ライアン様はヴェネゲルの純血種でいらっしゃいますでしょう?」
頷くリスキアに我が意を得たりと微笑んだカヨコは、赤く染めた爪でカップの縁に触れた。なぞる仕草の後、静かに続ける。
「己の血を使って、一族を復興させると……」
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