46 / 92
第5章 悪魔は女神を踊らせる
46
しおりを挟む
※吸血行為があります。
***************************************
「オレの事、好き?」
だから方法を変えてみた。
こくんと頷いた素直なシリルに、ご褒美のキスを降らせて強く抱き締める。
はだけたシャツの襟から覗く白い肌に、シリルの喉が鳴る。まだ体は血を求めているけれど、これ以上ライアンの体に負担を掛けたなくなかった。言葉にして求めたら、きっと彼は与えようとするから。
そんなシリルの様子に、ライアンはとっくに気づいていた。いや、わざと首筋を晒しているのだ。恋人を救おうとしたシリルが失った血は多く、まだ体調が万全でないのは一目瞭然。
「オレも大好きだ。愛してるぜ。だから、遠慮されると悲しい……」
声に感情を込めて告げる。
一定量の血を流し切ると、吸血鬼は滅びる。魂は光に透けて消え、美しい姿は灰になって遺体すら残さなかった。そんな彼らにとって、出血は僅かな量でも『死』を意識させるアイテムで、失う恐怖は計り知れない。
シリルがライアンの為に流した血は、1度ではない。もちろん、ライアンが命を賭けて助けたこともあるけれど……。
「俺はお前を傷つける。縛りたくなるんだ」
他の奴と接して欲しくない。俺以外の誰にも微笑みかけず、話しかけずに居て欲しいと――その為ならライアンの命を奪ってしまうかも知れない。こんな愛情は間違っていて、ライアンを苦しめるだけなのだ。
「……」
シリルの告白に目を見開いて、何度も瞬きを繰り返す。意味を噛み締めて、ゆっくりと消化していく間、目の前の恋人は悲しそうに紅い瞳を伏せていた。
「オレ、嬉しい」
ぽつりと呟かれて、怪訝そうな表情を浮かべたシリルへ最高の笑顔を向けた。困惑気味の吸血鬼は小首を傾げている。
「最高だ! 愛してるぜ、シリル」
なんだか状況が理解できないシリルに、ライアンは根気強く説明を始めた。孤独が長すぎて1人に慣れてしまった吸血鬼は、自分の独占欲が醜い感情だと考えているのだ。
それは誤解だった。
「シリルはオレを誰にも見せたくないんだろう? それってオレが普段考えてるのと同じだ。お互いを縛りたい、他人に優しくして欲しくないってのは、当然なんだよ」
「……そうなのか?」
「もっと我が侭言って、オレを困らせるくらいでいいんだぜ」
ようやくシリルの表情が和らぐ。
間違っていると思っていた感情を肯定されて、しかもライアンも同じ気持ちだったと聞かされたことで、心の鉛が溶けていくようだった。
手を伸ばしてライアンの首に手を回す。
当然とばかり抱き寄せたライアンが首筋を晒し、そっと接吻けた。
牙を使わない吸血行為は痛みがない。こくんと動くシリルの喉だけが、行為の内容を示す動きで……ほんのりと赤く染めた頬で、シリルがうっとりと目を閉じる。
満足したのか、首から唇を離した恋人にキスを贈り、ライアンは艶やかな黒髪に指を絡めた。
***************************************
「オレの事、好き?」
だから方法を変えてみた。
こくんと頷いた素直なシリルに、ご褒美のキスを降らせて強く抱き締める。
はだけたシャツの襟から覗く白い肌に、シリルの喉が鳴る。まだ体は血を求めているけれど、これ以上ライアンの体に負担を掛けたなくなかった。言葉にして求めたら、きっと彼は与えようとするから。
そんなシリルの様子に、ライアンはとっくに気づいていた。いや、わざと首筋を晒しているのだ。恋人を救おうとしたシリルが失った血は多く、まだ体調が万全でないのは一目瞭然。
「オレも大好きだ。愛してるぜ。だから、遠慮されると悲しい……」
声に感情を込めて告げる。
一定量の血を流し切ると、吸血鬼は滅びる。魂は光に透けて消え、美しい姿は灰になって遺体すら残さなかった。そんな彼らにとって、出血は僅かな量でも『死』を意識させるアイテムで、失う恐怖は計り知れない。
シリルがライアンの為に流した血は、1度ではない。もちろん、ライアンが命を賭けて助けたこともあるけれど……。
「俺はお前を傷つける。縛りたくなるんだ」
他の奴と接して欲しくない。俺以外の誰にも微笑みかけず、話しかけずに居て欲しいと――その為ならライアンの命を奪ってしまうかも知れない。こんな愛情は間違っていて、ライアンを苦しめるだけなのだ。
「……」
シリルの告白に目を見開いて、何度も瞬きを繰り返す。意味を噛み締めて、ゆっくりと消化していく間、目の前の恋人は悲しそうに紅い瞳を伏せていた。
「オレ、嬉しい」
ぽつりと呟かれて、怪訝そうな表情を浮かべたシリルへ最高の笑顔を向けた。困惑気味の吸血鬼は小首を傾げている。
「最高だ! 愛してるぜ、シリル」
なんだか状況が理解できないシリルに、ライアンは根気強く説明を始めた。孤独が長すぎて1人に慣れてしまった吸血鬼は、自分の独占欲が醜い感情だと考えているのだ。
それは誤解だった。
「シリルはオレを誰にも見せたくないんだろう? それってオレが普段考えてるのと同じだ。お互いを縛りたい、他人に優しくして欲しくないってのは、当然なんだよ」
「……そうなのか?」
「もっと我が侭言って、オレを困らせるくらいでいいんだぜ」
ようやくシリルの表情が和らぐ。
間違っていると思っていた感情を肯定されて、しかもライアンも同じ気持ちだったと聞かされたことで、心の鉛が溶けていくようだった。
手を伸ばしてライアンの首に手を回す。
当然とばかり抱き寄せたライアンが首筋を晒し、そっと接吻けた。
牙を使わない吸血行為は痛みがない。こくんと動くシリルの喉だけが、行為の内容を示す動きで……ほんのりと赤く染めた頬で、シリルがうっとりと目を閉じる。
満足したのか、首から唇を離した恋人にキスを贈り、ライアンは艶やかな黒髪に指を絡めた。
0
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
【完結】うたかたの夢
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。
ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全33話、2019/11/27完
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
偏食の吸血鬼は人狼の血を好む
琥狗ハヤテ
BL
人類が未曽有の大災害により絶滅に瀕したとき救済の手を差し伸べたのは、不老不死として人間の文明の影で生きていた吸血鬼の一族だった。その現筆頭である吸血鬼の真祖・レオニス。彼は生き残った人類と協力し、長い時間をかけて文明の再建を果たした。
そして新たな世界を築き上げた頃、レオニスにはひとつ大きな悩みが生まれていた。
【吸血鬼であるのに、人の血にアレルギー反応を引き起こすということ】
そんな彼の前に、とても「美味しそうな」男が現れて―――…?!
【孤独でニヒルな(絶滅一歩手前)の人狼×紳士でちょっと天然(?)な吸血鬼】
◆ダブル主人公・人狼と吸血鬼の一人称視点で交互に物語が進んでゆきます。
◆現在・毎日17時頃更新。
◆閲覧ありがとうございます。小説投稿は初めてですがのんびりと完結まで書いてゆけたらと思います。「pixiv」にも同時連載中。
◆未来、エチエチシーンは部分的に挿絵や漫画で描けたらなと考えています☺
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる