39 / 92
第5章 悪魔は女神を踊らせる
39
しおりを挟む
お茶を用意し、とりあえず茶菓子もつけて差し出す。
「ありがとうございます」
にっこり微笑むリンカティーナは、むっとしているシリルを気にした様子もなく、紅茶のカップを口元へ運んだ。
「あら、アッサムかしら」
躊躇う仕草もない彼女は、ある意味『強者』である。キツいシリルの視線を無視しながら、笑顔で焼きたてスコーンを味わっていた。
「シリル、機嫌直せよ」
困ったと顔に書いたライアンの声色に、シリルの怒りは恋人へ向かう。
「お前が連れてきた客だ。俺は知らない」
我が侭に言い切った恋人が立ち上がり、部屋を出て行くのをライアンは溜め息で見送った。
「悪ぃな」
「いえ、私が原因でしょう?」
申し訳ないわと謝罪されてしまえば、ライアンも苦笑するしかない。すぐに機嫌を直す方法は知っているが、だからといって女性をいきなり森の奥に放置もできなかった。
構えば構うほど、シリルの機嫌が悪くなるんだけど……しょうがない。
「ところで、リンカティーナさんは」
「リンカティーナで結構ですわ」
「あっそ、じゃあリンカティーナは何故こんな森の中にいたの?」
「……実は、ニクスとはぐれてしまいましたの」
聞き慣れない名前に、宙を睨む。結局首を傾げたライアンは、素直に目の前の栗毛美女に聞くことにした。
「ニクスって?」
「彼女ですわ」
指差された先で空中に浮いている銀髪女性に、ライアンは顔を引き攣らせる。シリルと一緒に暮らして早十数年、いまさら超常現象に驚くほどウブじゃないが……突然現れた侵入者に溜め息をついて手を差し伸べた。
「とりあえず、地上に降りてお茶にしません?」
当然とばかり手を取ってエスコートされたニクスは、すぐにリンカティーナの足元に駆け寄って膝をついた。気の強そうな美女だと思っていたので、跪く姿はライアンにとって意外で……。
「ああ、リンカティーナ様。ご無事でよかった。どれほど心配したか」
「ごめんなさい。ニクス」
会話にさらに驚いた。シリルの結界を無視して乱入したニクスが何の種族なのか知らないが、人間じゃないのは確実だ。その彼女が膝を折って『様』付けするってことは
―――リンカティーナも人間じゃない?!
「ありがとうございます」
にっこり微笑むリンカティーナは、むっとしているシリルを気にした様子もなく、紅茶のカップを口元へ運んだ。
「あら、アッサムかしら」
躊躇う仕草もない彼女は、ある意味『強者』である。キツいシリルの視線を無視しながら、笑顔で焼きたてスコーンを味わっていた。
「シリル、機嫌直せよ」
困ったと顔に書いたライアンの声色に、シリルの怒りは恋人へ向かう。
「お前が連れてきた客だ。俺は知らない」
我が侭に言い切った恋人が立ち上がり、部屋を出て行くのをライアンは溜め息で見送った。
「悪ぃな」
「いえ、私が原因でしょう?」
申し訳ないわと謝罪されてしまえば、ライアンも苦笑するしかない。すぐに機嫌を直す方法は知っているが、だからといって女性をいきなり森の奥に放置もできなかった。
構えば構うほど、シリルの機嫌が悪くなるんだけど……しょうがない。
「ところで、リンカティーナさんは」
「リンカティーナで結構ですわ」
「あっそ、じゃあリンカティーナは何故こんな森の中にいたの?」
「……実は、ニクスとはぐれてしまいましたの」
聞き慣れない名前に、宙を睨む。結局首を傾げたライアンは、素直に目の前の栗毛美女に聞くことにした。
「ニクスって?」
「彼女ですわ」
指差された先で空中に浮いている銀髪女性に、ライアンは顔を引き攣らせる。シリルと一緒に暮らして早十数年、いまさら超常現象に驚くほどウブじゃないが……突然現れた侵入者に溜め息をついて手を差し伸べた。
「とりあえず、地上に降りてお茶にしません?」
当然とばかり手を取ってエスコートされたニクスは、すぐにリンカティーナの足元に駆け寄って膝をついた。気の強そうな美女だと思っていたので、跪く姿はライアンにとって意外で……。
「ああ、リンカティーナ様。ご無事でよかった。どれほど心配したか」
「ごめんなさい。ニクス」
会話にさらに驚いた。シリルの結界を無視して乱入したニクスが何の種族なのか知らないが、人間じゃないのは確実だ。その彼女が膝を折って『様』付けするってことは
―――リンカティーナも人間じゃない?!
0
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
【完結】うたかたの夢
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。
ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全33話、2019/11/27完
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
偏食の吸血鬼は人狼の血を好む
琥狗ハヤテ
BL
人類が未曽有の大災害により絶滅に瀕したとき救済の手を差し伸べたのは、不老不死として人間の文明の影で生きていた吸血鬼の一族だった。その現筆頭である吸血鬼の真祖・レオニス。彼は生き残った人類と協力し、長い時間をかけて文明の再建を果たした。
そして新たな世界を築き上げた頃、レオニスにはひとつ大きな悩みが生まれていた。
【吸血鬼であるのに、人の血にアレルギー反応を引き起こすということ】
そんな彼の前に、とても「美味しそうな」男が現れて―――…?!
【孤独でニヒルな(絶滅一歩手前)の人狼×紳士でちょっと天然(?)な吸血鬼】
◆ダブル主人公・人狼と吸血鬼の一人称視点で交互に物語が進んでゆきます。
◆現在・毎日17時頃更新。
◆閲覧ありがとうございます。小説投稿は初めてですがのんびりと完結まで書いてゆけたらと思います。「pixiv」にも同時連載中。
◆未来、エチエチシーンは部分的に挿絵や漫画で描けたらなと考えています☺

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる