18 / 92
第3章 守護者の見極めと嫉妬
18
しおりを挟む
「へぇ、やれるんならやってみろ」
ライアンに気圧されることなく、少年は三日月型の刃を持つ剣を取り出す。それが青龍刀と呼ばれるものだと知らないライアンは、すっと目を眇めて間合いを計った。
一瞬で跳躍した少年が切りかかるのを、ナイフで弾く。かなり硬い金属で鍛えたナイフが、キンと乾いた音を立てた。腕に痺れがくる程の振り下ろしに、口元の笑みが深まる。
本当に楽しめそうだ。
手ごたえのない相手にウンザリしていたライアンの表情が一変し、弾いたナイフを突き出す。ふわっと軽い所作で避けられ、続いて蹴りを放った。しゃがみこんで躱した少年の青龍刀が下から繰り出され、咄嗟に身を捩る。ギリギリの位置を抜けた刃が、三つ編みを掠めた。
「……っぶね!」
思わず呟いたライアンの背に、解けた髪が散らばる。光を弾く金髪は肩のあたりで斬りおとされ、波打って広がった。鬱陶しそうにライアンが掻き上げた。
「避けきるとは……大したものだ」
感心しているのか、バカにしているのか。紙一重の賞賛に、ライアンはぺろりと唇を舐める。
「そっちもなッ!」
叫んだ声が余韻を引くまま、予備動作なく跳躍したライアンがナイフを左手に持ち替えて薙いだ。ふわっと髪が視界を遮り、次の瞬間かすかな血の臭いが広まる。
「……っ……」
息を呑んだ声と血の臭いに、仕掛けたライアンの口元が歪められた。
「貴様っ!」
叫んだ少年の右腕を掠めた傷は、表面を切り裂いただけに過ぎない。もう少し深く抉ったつもりのライアンにしてみれば不満だが、相手にしてみれば屈辱でさえあるのだろう。
かなり自信家のようだった。
「リスキア」
加勢せずに見つめていた青年が近づき、少年の名を呼ぶ。不思議な響きは、彼の衣装と同じく異国のものらしい。
そっと差し伸べた手で傷を確認し始めた。どこかで見たような風景に、ライアンは眉を顰める。既視感を振り切り、たいした傷でもないのに確認する青年の行為を見守った。
「大丈夫だ、アイザック」
苛立ちに絞り出すような声が響き、少年は青龍刀をライアンの方へ突きつける。自分の血を左手の指先で掬い取り、青龍刀の表面へ走らせた。
ぼうっと光る刃に、ライアンは不吉な予感を覚えて、一歩下る。
あれは危険だ!
警告する本能に従い、さらに後退った。
目を凝らさねば気づかないほどの輝きは、やがて少しずつ明るさを増す。その光ごと振り下ろそうと構えたリスキアは、突然動きを止めた。
「……シリル?!」
リスキアを挟んだ向こう側、城の廊下へ続くドアに寄りかかって立つシリルに気づいて、ライアンが叫んだ。咄嗟に床を蹴り、転がり込むようにしてシリルとリスキアの間に立つ。
「ライアン、リスキアは一族だ。心配は要らない」
緊張しているライアンの腕にぽんと手を当て、少し押しのけるようにして前に出る。
一族……つまり、彼も吸血鬼なのだと聞き、ライアンは溜め息をついた。
ライアンに気圧されることなく、少年は三日月型の刃を持つ剣を取り出す。それが青龍刀と呼ばれるものだと知らないライアンは、すっと目を眇めて間合いを計った。
一瞬で跳躍した少年が切りかかるのを、ナイフで弾く。かなり硬い金属で鍛えたナイフが、キンと乾いた音を立てた。腕に痺れがくる程の振り下ろしに、口元の笑みが深まる。
本当に楽しめそうだ。
手ごたえのない相手にウンザリしていたライアンの表情が一変し、弾いたナイフを突き出す。ふわっと軽い所作で避けられ、続いて蹴りを放った。しゃがみこんで躱した少年の青龍刀が下から繰り出され、咄嗟に身を捩る。ギリギリの位置を抜けた刃が、三つ編みを掠めた。
「……っぶね!」
思わず呟いたライアンの背に、解けた髪が散らばる。光を弾く金髪は肩のあたりで斬りおとされ、波打って広がった。鬱陶しそうにライアンが掻き上げた。
「避けきるとは……大したものだ」
感心しているのか、バカにしているのか。紙一重の賞賛に、ライアンはぺろりと唇を舐める。
「そっちもなッ!」
叫んだ声が余韻を引くまま、予備動作なく跳躍したライアンがナイフを左手に持ち替えて薙いだ。ふわっと髪が視界を遮り、次の瞬間かすかな血の臭いが広まる。
「……っ……」
息を呑んだ声と血の臭いに、仕掛けたライアンの口元が歪められた。
「貴様っ!」
叫んだ少年の右腕を掠めた傷は、表面を切り裂いただけに過ぎない。もう少し深く抉ったつもりのライアンにしてみれば不満だが、相手にしてみれば屈辱でさえあるのだろう。
かなり自信家のようだった。
「リスキア」
加勢せずに見つめていた青年が近づき、少年の名を呼ぶ。不思議な響きは、彼の衣装と同じく異国のものらしい。
そっと差し伸べた手で傷を確認し始めた。どこかで見たような風景に、ライアンは眉を顰める。既視感を振り切り、たいした傷でもないのに確認する青年の行為を見守った。
「大丈夫だ、アイザック」
苛立ちに絞り出すような声が響き、少年は青龍刀をライアンの方へ突きつける。自分の血を左手の指先で掬い取り、青龍刀の表面へ走らせた。
ぼうっと光る刃に、ライアンは不吉な予感を覚えて、一歩下る。
あれは危険だ!
警告する本能に従い、さらに後退った。
目を凝らさねば気づかないほどの輝きは、やがて少しずつ明るさを増す。その光ごと振り下ろそうと構えたリスキアは、突然動きを止めた。
「……シリル?!」
リスキアを挟んだ向こう側、城の廊下へ続くドアに寄りかかって立つシリルに気づいて、ライアンが叫んだ。咄嗟に床を蹴り、転がり込むようにしてシリルとリスキアの間に立つ。
「ライアン、リスキアは一族だ。心配は要らない」
緊張しているライアンの腕にぽんと手を当て、少し押しのけるようにして前に出る。
一族……つまり、彼も吸血鬼なのだと聞き、ライアンは溜め息をついた。
0
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
【完結】うたかたの夢
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。
ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全33話、2019/11/27完
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
偏食の吸血鬼は人狼の血を好む
琥狗ハヤテ
BL
人類が未曽有の大災害により絶滅に瀕したとき救済の手を差し伸べたのは、不老不死として人間の文明の影で生きていた吸血鬼の一族だった。その現筆頭である吸血鬼の真祖・レオニス。彼は生き残った人類と協力し、長い時間をかけて文明の再建を果たした。
そして新たな世界を築き上げた頃、レオニスにはひとつ大きな悩みが生まれていた。
【吸血鬼であるのに、人の血にアレルギー反応を引き起こすということ】
そんな彼の前に、とても「美味しそうな」男が現れて―――…?!
【孤独でニヒルな(絶滅一歩手前)の人狼×紳士でちょっと天然(?)な吸血鬼】
◆ダブル主人公・人狼と吸血鬼の一人称視点で交互に物語が進んでゆきます。
◆現在・毎日17時頃更新。
◆閲覧ありがとうございます。小説投稿は初めてですがのんびりと完結まで書いてゆけたらと思います。「pixiv」にも同時連載中。
◆未来、エチエチシーンは部分的に挿絵や漫画で描けたらなと考えています☺
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる