【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
14 / 92
第2章 呼ばれざる客の訪問

14

しおりを挟む
「……そういうことか」

 自分の失態だ。この城で痕跡を消したから、最高のハンターを滅ぼした純血種がいると、情報を撒いてしまった。

 後ろからシリルが袖を引く。そっと後ろから顔を出したシリルの指が、幼い仕草で三つ編みの先を握った。シリルの些細な所作に、心は乱れる。失いたくない存在なのだ、シリルなしで生きるなど考えられないから……3ヶ月前の心臓が凍るような痛みを、再び味わいたくなかった。

「大丈夫だ」

 囁き、そっとシリルの手に触れる。

 ライアンは振り返らない、だから知らなかった。そのときに浮かべたシリルの満足そうな微笑の意味と、残酷な色を刷いた口元を。

「ライアン……」
 ゆっくりとシリルの手がライアンの首に絡みつき、首筋に唇を押し当てる。僅かなキスの間に流れ込んだ甘い血を、ごくりと喉を鳴らして飲み下した。紅い眼差しは色を濃くし、まるで闇色だ。

 少し見つめあった後、ライアンはくしゃっと黒髪を撫でた。

「その子供は……まさか?!」

「ライアン、あんたっ」

 人間を裏切るのか?!

 叫んだ2人は顔を見合わせると、一瞬で戦闘態勢を整えた。抜いたナイフは綺麗に磨かれており、三日月の僅かな月光に鈍く輝く。

 時間の流れから隔離されているシリルには、あまりにゆっくりとしたスローモーションのような動きに見えた。人間の動きなど、いかに素早くても高が知れている。自分が敵わないスピードと能力を誇るのは、ライアン1人だけだった。

「だったら?」

 肯定する響きを持たせた問いかけに、ハンターの目が厳しくなる。愛用のナイフを左手で抜いて、現れた銀色の輝きに舌を這わせた。久しぶりの興奮が体を支配する。

 戦場の緊迫した空気が、ライアンは好きだった。ぴりぴりする緊張感も、ぞくぞくする殺気の鋭さも、この身を楽しませてくれる。

 殺しさえしなければ、シリルに記憶を消してもらうことも可能だ。相手の能力を推し量りながら、ゆっくりと1歩踏み出した。その直後に叩きつけられる敵意に目を伏せ、自嘲する。

 人間じゃない、と思い知らされる瞬間だった。

「シリル、下ってろ」

 お前を守るのはオレだと、暗に含ませた言葉に頷く気配がした。三つ編みの先を引っ張っていた指が離され、ライアンはさらに足を進める。

 躊躇う仕草はなく、目に映る敵のナイフも目に入っていない様子で、軽い足取りで絨毯を踏みしめた。しなやかな足取りは音を立てず、猫科の猛獣に似た所作が、彼の瞬発力と殺傷能力の高さを物語る。

「吸血鬼に誑かされたのか!」

 にっと口元に笑みを浮かべ、ライアンは一気にハンターとの距離を詰めた。一呼吸で目の前に立つ青年に手出しできぬまま、短髪の男が床に沈む。

 本来、ライアンの身体能力は吸血鬼のそれを遥かに凌ぐ。人間など相手になる筈もなかった。

「……あんたが……裏切る、なんて」

 掠れた声と震えるナイフ、青ざめた顔が印象的だ。肩の力を抜いたライアンは、笑顔でナイフを突きつけた。

「裏切る? 人聞き悪いこと言うなよ」

 オレは最初から人間じゃない、味方なんかじゃなかった。吸血鬼に襲われる人間を助けようなんて、考えたこともない。自分の成長が止まった理由を知りたくて、そのために長寿の吸血鬼に答えを求めただけなのだ。

 そして――答えと、生涯の伴侶を得た。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

【完結】うたかたの夢

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。  ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全33話、2019/11/27完

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...