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13.魔王陛下から片付けましょう

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 お父様がぴたりと動きを止めたところに、来客の報せに走る侍従が一礼します。

「魔王陛下のお越しです」

「「そっちが先だ(ね)」」

 お父様とお母様が仲良く頷き、さっとエスコートの手を出したお父様に、お母様の手が重ねられます。気合を入れたお母様のお姿は完璧で、王家の晩餐会より豪華な仕様でした。

 お兄様にお手をお借りして、私も足早に部屋を出ようとしましたが、思い出して振り返りました。危ない、忘れておりましたわ。

「第二王子殿下は、王宮へ返却して頂戴。くれぐれも、客間を汚す行動は禁止よ」

「「かしこまりました」」

 なぜか室内の侍従だけじゃなく、外の庭師も一礼してますが……まあ、いいでしょう。大急ぎで部屋を出る背中に、悲鳴や怒号が飛んできましたが時間がありません。多少息を切らしながら、別の客間に到着しました。

「ふぅ、行きましょう」

 大きく息を吐いてから顔を上げて入室します。魔王陛下はすでに通されて、奥の椅子に腰掛けておられました。私の入室に合わせて立ち上がり、挨拶の手を伸ばしてお待ちです。淑女の礼儀として、その手に重ねた指先へキスをいただきました。ここまではご挨拶です。

 客人である魔王陛下の着席をもって、お父様から順番に腰掛けます。面倒ですが、こういった作法が山積みなのが貴族なので仕方ありません。幼い頃からひとつずつ身に付けたマナーなので、自然と全員がこなしました。

「ご用件をお伺いしましょう」

 お母様が尋ね、お父様は無言で腕を組みます。それ、失礼ですわよ。まあ娘に求婚しにきた殿方相手と考えれば、気持ち的には理解できます。一応、よその作品の方ですが「陛下」ですのよ。

「セラフィーナ嬢との婚姻の許可を頂きたい。魔王である私を救うのは、紫水晶の乙女である彼女だけだ」

「セラはどうなの?」

 話を向けたお母様に頷き、魔王陛下にきっちり言い渡します。

「まず前提が間違っております。私は紫の瞳ですが、生贄にされて奈落の底に落とされる乙女ではありません。今頃、別の乙女が落ちてきていると思いますので、そちらを回収なさってください」

 よくわからない話に、お父様とお母様は顔を見合わせます。お兄様はなぜか隣で嬉しそうに頷きました。おそらく私が魔王陛下を振ったのが嬉しいのでしょうね。

「どういう話だ」

 眉を寄せたお父様達は、私が前世の記憶を持っていると伝えています。この家族に隠し事はありませんから。うっかり前世の話をしそうになって、言葉を飲み込んだ幼女を逆さにして「吐きなさい」と迫ったのはお母様です。お陰で全部話す羽目になりました。あれは中身年齢17歳プラス4歳でも耐えられません。

 全部話したお陰で、5歳にして英才教育を始めることができたので、結果オーライです。学院への入学も卒業も最年少記録でした。ヒロインと会わなくて済んで、家族全員で胸を撫で下ろし、軽くガーデンパーティをしたのは懐かしいですね。

「私が知る世界観では、魔王陛下は別の物語ですわ。つまりヒロインは別にいます」

 他にも言葉を添えて説明し、聞いていた魔王陛下は唸って考え込んでしまいました。頭は良い方なので、すこし整理すれば追いついてきそうです。質問があるたびに丁寧に答え、諦めてもらうよう誘導しました。

「つまり、本来は私とそなたは出会うはずがないのだな?」

「そうですわ」

 ご理解いただけたようで何より。早く奈落の底で、落下する乙女待ちをされた方がよろしくてよ。
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