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05.人違いですわ、魔王様
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王太子殿下のヘンリー様は、婚約者のソフィア様と腕を組んで入場なさった。つまり浮気されていません。それにヘンリー様は賢い方ですもの……どなたかと違って。
上級生で私と同じように入れ違いで卒業したため、接点が直接なかったのも幸いしました。その皺寄せが、ペンフォード公爵令嬢であるソフィア様に行ったのかも知れません。私の不在もありましたし。原作を大きく変えた弊害でしょうね。
「イアン王太子殿下はご無事でしたの?」
「ああ、追い回されてたね。人払いを命じて、テラスの西部屋に篭ってたよ」
授業以外は外に出ない。それを徹底したらしい。侍従と騎士を常に連れ歩き、物々しい雰囲気だったとか。それは……隣国まで留学にいらしたのに気の毒でしたこと。私に求婚なんて余計なことなさらなければ、もっと同情して差し上げましたのにね。
「イアン殿の気持ちは本物みたいだぞ」
「まさか……セラは嫁いだりしない、よね?」
アル兄様が興味半分で煽ると、お兄様が不安そうに眉尻を下げます。揶揄うのはおよしなさい。あとでシバきますよ。ぷくっと頬を膨らませる所作に、アル兄様は身震いして「ごめん」と謝りました。
子供の頃の躾は、いまも効果的に作用しているみたい。うふふ、やはり生まれながらに記憶があったことで先手を打てたのが、今回の勝因でしょう。
これで私は自由――傷心で療養中と広めてもらい、しばらく領地でのんびりしましょう。
「お兄様、私は領地で傷心の痛手を癒してまいりますわ。あの馬……失礼。アーサー王子殿下はともかく、人前であんなことを言われて、私」
うるうるっと涙ぐむ。白けた顔で「お前の本性は知っている」と告げるアル兄様に効果はないですが、お兄様は妹の私を溺愛しています。そして今も溺れておりました。
「もちろん! 婚約の申し出が山積みだが、あんなもの薪にすればいい」
山積み、なんですの? 崩れない程度に片付けてくださいね。
「ありがとうございます、お兄様。夜会は私のせいで中止になってしまったのでしょうか」
どうしましょう。そんな雰囲気を作る。王族主催の夜会なので、公爵令嬢が倒れる事態は騒ぎになったはず。そう匂わせると、お兄様は肩を竦めて胸元から手紙を取り出しました。封蝋は王妃殿下の印ですね。
「私にですか?」
「そうだ。夜会は中断したが、今朝一番で王妃殿下より届けられた」
開いて中の便箋にびっくりします。見舞いに使う厚手のカードが入っていると思ったのですが、驚く枚数の便箋でした。ずらりと並んだ文字は美しく、ところどころが滲んでいます。内容を読んで納得しました。
次男がしでかした騒動の詫びがひたすら並び、2枚分。次の2枚は体調を気遣い、いつでも力になると励ましのお手紙。最後に4枚に渡り、次男の愚痴に涙の跡……最後の1枚に予定する処罰の内容が1行だけ。
王家からの追放――王位継承権の剥奪程度かと思っていました。いくらぼんくら……中身の足りない王子でも使い道はあると思ったのですが、王妃様は許せなかったようです。4枚の愚痴には、娘として迎えた後の私と仲良く過ごす計画や予定がびっしりでしたから。
落胆させてしまい、申し訳ないですわ。
「お兄様、王妃殿下にお返事をか……」
「其方が『紫水晶の乙女』か! 探したぞ!」
勢いよく窓から乱入した男が、仁王立ちで偉そうに顎を逸らします。
「人違いですわ」
即答しました。そう、紫水晶の乙女は『贄として捨てられましたが、魔王に溺愛されて幸せです~紫水晶の瞳は幸運の証~』というラノベの主人公ですのよ! 私ではありません!!
上級生で私と同じように入れ違いで卒業したため、接点が直接なかったのも幸いしました。その皺寄せが、ペンフォード公爵令嬢であるソフィア様に行ったのかも知れません。私の不在もありましたし。原作を大きく変えた弊害でしょうね。
「イアン王太子殿下はご無事でしたの?」
「ああ、追い回されてたね。人払いを命じて、テラスの西部屋に篭ってたよ」
授業以外は外に出ない。それを徹底したらしい。侍従と騎士を常に連れ歩き、物々しい雰囲気だったとか。それは……隣国まで留学にいらしたのに気の毒でしたこと。私に求婚なんて余計なことなさらなければ、もっと同情して差し上げましたのにね。
「イアン殿の気持ちは本物みたいだぞ」
「まさか……セラは嫁いだりしない、よね?」
アル兄様が興味半分で煽ると、お兄様が不安そうに眉尻を下げます。揶揄うのはおよしなさい。あとでシバきますよ。ぷくっと頬を膨らませる所作に、アル兄様は身震いして「ごめん」と謝りました。
子供の頃の躾は、いまも効果的に作用しているみたい。うふふ、やはり生まれながらに記憶があったことで先手を打てたのが、今回の勝因でしょう。
これで私は自由――傷心で療養中と広めてもらい、しばらく領地でのんびりしましょう。
「お兄様、私は領地で傷心の痛手を癒してまいりますわ。あの馬……失礼。アーサー王子殿下はともかく、人前であんなことを言われて、私」
うるうるっと涙ぐむ。白けた顔で「お前の本性は知っている」と告げるアル兄様に効果はないですが、お兄様は妹の私を溺愛しています。そして今も溺れておりました。
「もちろん! 婚約の申し出が山積みだが、あんなもの薪にすればいい」
山積み、なんですの? 崩れない程度に片付けてくださいね。
「ありがとうございます、お兄様。夜会は私のせいで中止になってしまったのでしょうか」
どうしましょう。そんな雰囲気を作る。王族主催の夜会なので、公爵令嬢が倒れる事態は騒ぎになったはず。そう匂わせると、お兄様は肩を竦めて胸元から手紙を取り出しました。封蝋は王妃殿下の印ですね。
「私にですか?」
「そうだ。夜会は中断したが、今朝一番で王妃殿下より届けられた」
開いて中の便箋にびっくりします。見舞いに使う厚手のカードが入っていると思ったのですが、驚く枚数の便箋でした。ずらりと並んだ文字は美しく、ところどころが滲んでいます。内容を読んで納得しました。
次男がしでかした騒動の詫びがひたすら並び、2枚分。次の2枚は体調を気遣い、いつでも力になると励ましのお手紙。最後に4枚に渡り、次男の愚痴に涙の跡……最後の1枚に予定する処罰の内容が1行だけ。
王家からの追放――王位継承権の剥奪程度かと思っていました。いくらぼんくら……中身の足りない王子でも使い道はあると思ったのですが、王妃様は許せなかったようです。4枚の愚痴には、娘として迎えた後の私と仲良く過ごす計画や予定がびっしりでしたから。
落胆させてしまい、申し訳ないですわ。
「お兄様、王妃殿下にお返事をか……」
「其方が『紫水晶の乙女』か! 探したぞ!」
勢いよく窓から乱入した男が、仁王立ちで偉そうに顎を逸らします。
「人違いですわ」
即答しました。そう、紫水晶の乙女は『贄として捨てられましたが、魔王に溺愛されて幸せです~紫水晶の瞳は幸運の証~』というラノベの主人公ですのよ! 私ではありません!!
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