101 / 128
101.実践で覚えるマナー
しおりを挟む
夜会は昼間の祝賀会より豪華な食事が並ぶ。種族ごとに食べられるものが違うこともあり、料理の種類は多種多様だった。卵料理だけでも16種類ある。
壁際はびっしりと料理の机が並んだ。中央はダンス用のスペースではなく、料理を食べるための机や椅子が置かれている。夜会というより、どこかの広場の屋台村に近かった。
「魔族は料理を重視するんだよね。もてなしといえば料理」
飲み物や酒も重要だが、まずは食べ物だ。きちんと種族特性を理解して料理を用意する、その気持ちが重要視されてきた。ふむふむと頷くナイジェルは、国に話を持ち帰って利用すると言う。魔族の貴族と交易があるので、彼の国は他国より一歩抜きん出た対応と評価されるだろう。
友人にこういった話をして優遇しても、特に問題視されないのが魔族だ。基本的に大らかで己と違う外見や能力の種族を尊ぶ。人族や妖精族にはない気質に、リンカも感心した様子だった。
「リンカ様にはこちらを」
ベリアルが侍女に用意させたのは、希少な葡萄や木の実であるナッツの盛り合わせだ。妖精族が好む通り、加工をせず並べていた。
「ありがとう」
礼を言って受け取ったリンカは、すぐに葡萄を口に入れた。これは妖精族の特徴で、嬉しいと示すために行われる返礼のひとつだ。ベリアルは外交も担当するため、リンカに一礼して感謝を示した。
互いの風習を理解しているだけで、外交はこんなにスムーズに行うことが出来る。ベリアルは身をもって、主君であるエウリュアレに教えるつもりだった。
「ナイジェル様はこちらにご用意しました」
リリンが運ばせたのは、柔らかな白パンに挟んだ肉料理だ。野菜と肉を香辛料で炒め、甘辛くしてパンに挟む。食べやすいよう数カ所にナイフを入れてあった。
「うわっ! もう懐かしく感じる。ご馳走だな。気遣いに感謝する。ありがとう」
受け取ったナイジェルは、口頭で礼を伝えた。リリンが目を伏せて下がるのを待って、パンを齧る。もらってすぐ人前で食べるのは、人族では卑しいとされてきた。この習慣も知っていれば、人族が喜んでいないと勘違いするミスを防げる。食べるのを期待して見守れば、相手が口を付けられないと理解することも大切だった。
二人の行動の違いに、エリュは素直に質問した。リンカやナイジェルも隠すことなく答える。逆に魔族について質問され、エリュは胸を張っていくつか説明した。この交流を見守る貴族の目は優しく、まるで孫や娘を見守る家族のようだ。
穏やかに過ごす夜会は、エリュにとって貴重な体験となった。眠くなり目を擦るまで、自ら帰ると言い出さないほどに。楽しい経験をさせてもらったようだ。満足げなシェンは、集まった貴族達に小さな加護を与えた。
帰るまで事故や病に苦しまぬよう。それは小さな小さな期限付きの加護だが、遠くから来た貴族は感激して深く頭を下げた。子ども達が部屋に戻れば、再び宴会が始まる。隠していた酒が大盤振る舞いされ、盛り上がった数人の貴族が窓を割って叱られた。
そんな大騒動を知らず、青宮殿へ帰った子ども達はベッドに潜り込む。明日から通常に戻る時間が、少しだけ遅く来るよう願いながら。
壁際はびっしりと料理の机が並んだ。中央はダンス用のスペースではなく、料理を食べるための机や椅子が置かれている。夜会というより、どこかの広場の屋台村に近かった。
「魔族は料理を重視するんだよね。もてなしといえば料理」
飲み物や酒も重要だが、まずは食べ物だ。きちんと種族特性を理解して料理を用意する、その気持ちが重要視されてきた。ふむふむと頷くナイジェルは、国に話を持ち帰って利用すると言う。魔族の貴族と交易があるので、彼の国は他国より一歩抜きん出た対応と評価されるだろう。
友人にこういった話をして優遇しても、特に問題視されないのが魔族だ。基本的に大らかで己と違う外見や能力の種族を尊ぶ。人族や妖精族にはない気質に、リンカも感心した様子だった。
「リンカ様にはこちらを」
ベリアルが侍女に用意させたのは、希少な葡萄や木の実であるナッツの盛り合わせだ。妖精族が好む通り、加工をせず並べていた。
「ありがとう」
礼を言って受け取ったリンカは、すぐに葡萄を口に入れた。これは妖精族の特徴で、嬉しいと示すために行われる返礼のひとつだ。ベリアルは外交も担当するため、リンカに一礼して感謝を示した。
互いの風習を理解しているだけで、外交はこんなにスムーズに行うことが出来る。ベリアルは身をもって、主君であるエウリュアレに教えるつもりだった。
「ナイジェル様はこちらにご用意しました」
リリンが運ばせたのは、柔らかな白パンに挟んだ肉料理だ。野菜と肉を香辛料で炒め、甘辛くしてパンに挟む。食べやすいよう数カ所にナイフを入れてあった。
「うわっ! もう懐かしく感じる。ご馳走だな。気遣いに感謝する。ありがとう」
受け取ったナイジェルは、口頭で礼を伝えた。リリンが目を伏せて下がるのを待って、パンを齧る。もらってすぐ人前で食べるのは、人族では卑しいとされてきた。この習慣も知っていれば、人族が喜んでいないと勘違いするミスを防げる。食べるのを期待して見守れば、相手が口を付けられないと理解することも大切だった。
二人の行動の違いに、エリュは素直に質問した。リンカやナイジェルも隠すことなく答える。逆に魔族について質問され、エリュは胸を張っていくつか説明した。この交流を見守る貴族の目は優しく、まるで孫や娘を見守る家族のようだ。
穏やかに過ごす夜会は、エリュにとって貴重な体験となった。眠くなり目を擦るまで、自ら帰ると言い出さないほどに。楽しい経験をさせてもらったようだ。満足げなシェンは、集まった貴族達に小さな加護を与えた。
帰るまで事故や病に苦しまぬよう。それは小さな小さな期限付きの加護だが、遠くから来た貴族は感激して深く頭を下げた。子ども達が部屋に戻れば、再び宴会が始まる。隠していた酒が大盤振る舞いされ、盛り上がった数人の貴族が窓を割って叱られた。
そんな大騒動を知らず、青宮殿へ帰った子ども達はベッドに潜り込む。明日から通常に戻る時間が、少しだけ遅く来るよう願いながら。
21
お気に入りに追加
940
あなたにおすすめの小説
【完結】君を愛することはないと言われた侯爵令嬢が猫ちゃんを拾ったら~義母と義妹の策略でいわれなき冤罪に苦しむ私が幸せな王太子妃になるまで~
綾森れん
ファンタジー
侯爵令嬢ロミルダは王太子と婚約している。王太子は容姿こそ美しいが冷徹な青年。
ロミルダは茶会の折り王太子から、
「君を愛することはない」
と宣言されてしまう。
だが王太子は、悪い魔女の魔法で猫の姿にされてしまった。
義母と義妹の策略で、ロミルダにはいわれなき冤罪がかけられる。国王からの沙汰を待つ間、ロミルダは一匹の猫(実は王太子)を拾った。
優しい猫好き令嬢ロミルダは、猫になった王太子を彼とは知らずにかわいがる。
ロミルダの愛情にふれて心の厚い氷が解けた王太子は、ロミルダに夢中になっていく。
魔法が解けた王太子は、義母と義妹の処罰を決定すると共に、ロミルダを溺愛する。
これは「愛することはない」と宣言された令嬢が、持ち前の前向きさと心優しさで婚約者を虜にし、愛されて幸せになる物語である。
【第16回恋愛小説大賞参加中です。投票で作品を応援お願いします!】
※他サイトでも『猫殿下とおっとり令嬢 ~君を愛することはないなんて嘘であった~ 冤罪に陥れられた侯爵令嬢が猫ちゃんを拾ったら幸せな王太子妃になりました!?』のタイトルで掲載しています。
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき@バカふり200万部突破
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです
珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。
そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。
日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる