【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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89.特殊な本屋への道

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 ナイジェルの話にエリュは感動したらしい。嬉しいとしきりに何度も口にした。ベリアルは微笑ましい光景に、口元を緩めっぱなしだ。普段の厳しい宰相姿しか知らない文官が見たら、腰を抜かすだろう。

 と思っていたら、休暇を楽しむ文官と遭遇してしまった。腰を抜かすどころか二度見した後、すごい勢いで物陰に隠れる。そこからじっくり観察し、やがて固まって動かなくなった。

「ベリアル、あれは大丈夫か?」

「私の姿が見えなくなれば溶けるでしょう」

 凍ったわけではないと思うが、上司がそう言うなら、その通りなのだろう。シェンはあっさりと納得し、楽しそうなエリュ達に合流した。パワーストーンの販売をしている出店のようだ。本店が近くにあるため、安い品は路上で売り、高額品を求める客は店に誘導する仕組みらしい。

 小ぶりで手の上にちょこんと載る水晶や瑪瑙などは、どれも綺麗に磨かれている。ナイジェルは迷ったが購入をやめた。リンカは興味深そうに眺めるが手を出さない。逆にエリュは興味津々だった。

「これ、何の石?」

「それは虎の目だな。お金が貯まるぞ」

「ふーん、こっちの緑のは?」

「翡翠か。成功だったっけ」

 パワーストーンそのものに興味があるというより、その意味が気になるようだ。それならば水晶や翡翠そのものより、そういった話を集めた本の方がいい。

「エリュ、内容が書いてある本を買おうよ。それから気に入った石を買ったら?」

 店の人の手前、ほとんどのパワーストーンは宮殿にあると言えない。もっと高額でパワーの強い宝石類が山ほど保管されているはずだった。濁して提案すると、エリュは素直に頷いた。

「うん、また来ます。教えてくれてありがとう」

 お店の人にお礼を言って、にこやかに手を振って別れる。シェンが手を繋いだエリュは本屋さんを探し始めた。

「本屋なら、この先にありますよ」

 ベリアルがお勧めする本屋なら安心だ。そう考えて、彼の案内について路地を曲がった。右、右、左、右……気のせい? ぐるりと回っただけのような気がする。シェンの疑問に答えるように、ベリアルが説明した。

「この本屋は、一定の手順を踏んだ客しか受け入れません。無駄に見えますが、必要なのです」

 看板がない木の扉は古い。そこを押して入るベリアルは、頭をぶつけないよう屈んでいた。高さも幅も狭い扉だ。続いてリンカ、エリュ、ナイジェルと吸い込まれた。最後に通ったシェンは、肌の上をなぞる感覚に目を細める。

 これは結界? ただの本屋にこんな仕掛けが必要か。その思いは、すぐに霧散した。

 壁一面が本棚になっており、見上げた先は螺旋状の階段に沿って本が並んでいる。筒の中に本が詰め込まれたような空間だった。外から見た店の大きさと違うのは、結界のせいだ。どこか別の空間と繋がっていた。

「すごい!」

「うわぁ! この本、装丁が本物の竜革だぞ」

 言葉を無くしたリンカの後ろで、ナイジェルが「こんなの王宮でも1冊しかない」と騒いでいる。竜革の見分けがついたのは、彼の国に似た装丁の本があったようだ。さすがのシェンも驚いてぐるりと見回し、エリュに強請られて我に返った。

「シェン、本探すの手伝って!」
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