89 / 128
89.特殊な本屋への道
しおりを挟む
ナイジェルの話にエリュは感動したらしい。嬉しいとしきりに何度も口にした。ベリアルは微笑ましい光景に、口元を緩めっぱなしだ。普段の厳しい宰相姿しか知らない文官が見たら、腰を抜かすだろう。
と思っていたら、休暇を楽しむ文官と遭遇してしまった。腰を抜かすどころか二度見した後、すごい勢いで物陰に隠れる。そこからじっくり観察し、やがて固まって動かなくなった。
「ベリアル、あれは大丈夫か?」
「私の姿が見えなくなれば溶けるでしょう」
凍ったわけではないと思うが、上司がそう言うなら、その通りなのだろう。シェンはあっさりと納得し、楽しそうなエリュ達に合流した。パワーストーンの販売をしている出店のようだ。本店が近くにあるため、安い品は路上で売り、高額品を求める客は店に誘導する仕組みらしい。
小ぶりで手の上にちょこんと載る水晶や瑪瑙などは、どれも綺麗に磨かれている。ナイジェルは迷ったが購入をやめた。リンカは興味深そうに眺めるが手を出さない。逆にエリュは興味津々だった。
「これ、何の石?」
「それは虎の目だな。お金が貯まるぞ」
「ふーん、こっちの緑のは?」
「翡翠か。成功だったっけ」
パワーストーンそのものに興味があるというより、その意味が気になるようだ。それならば水晶や翡翠そのものより、そういった話を集めた本の方がいい。
「エリュ、内容が書いてある本を買おうよ。それから気に入った石を買ったら?」
店の人の手前、ほとんどのパワーストーンは宮殿にあると言えない。もっと高額でパワーの強い宝石類が山ほど保管されているはずだった。濁して提案すると、エリュは素直に頷いた。
「うん、また来ます。教えてくれてありがとう」
お店の人にお礼を言って、にこやかに手を振って別れる。シェンが手を繋いだエリュは本屋さんを探し始めた。
「本屋なら、この先にありますよ」
ベリアルがお勧めする本屋なら安心だ。そう考えて、彼の案内について路地を曲がった。右、右、左、右……気のせい? ぐるりと回っただけのような気がする。シェンの疑問に答えるように、ベリアルが説明した。
「この本屋は、一定の手順を踏んだ客しか受け入れません。無駄に見えますが、必要なのです」
看板がない木の扉は古い。そこを押して入るベリアルは、頭をぶつけないよう屈んでいた。高さも幅も狭い扉だ。続いてリンカ、エリュ、ナイジェルと吸い込まれた。最後に通ったシェンは、肌の上をなぞる感覚に目を細める。
これは結界? ただの本屋にこんな仕掛けが必要か。その思いは、すぐに霧散した。
壁一面が本棚になっており、見上げた先は螺旋状の階段に沿って本が並んでいる。筒の中に本が詰め込まれたような空間だった。外から見た店の大きさと違うのは、結界のせいだ。どこか別の空間と繋がっていた。
「すごい!」
「うわぁ! この本、装丁が本物の竜革だぞ」
言葉を無くしたリンカの後ろで、ナイジェルが「こんなの王宮でも1冊しかない」と騒いでいる。竜革の見分けがついたのは、彼の国に似た装丁の本があったようだ。さすがのシェンも驚いてぐるりと見回し、エリュに強請られて我に返った。
「シェン、本探すの手伝って!」
と思っていたら、休暇を楽しむ文官と遭遇してしまった。腰を抜かすどころか二度見した後、すごい勢いで物陰に隠れる。そこからじっくり観察し、やがて固まって動かなくなった。
「ベリアル、あれは大丈夫か?」
「私の姿が見えなくなれば溶けるでしょう」
凍ったわけではないと思うが、上司がそう言うなら、その通りなのだろう。シェンはあっさりと納得し、楽しそうなエリュ達に合流した。パワーストーンの販売をしている出店のようだ。本店が近くにあるため、安い品は路上で売り、高額品を求める客は店に誘導する仕組みらしい。
小ぶりで手の上にちょこんと載る水晶や瑪瑙などは、どれも綺麗に磨かれている。ナイジェルは迷ったが購入をやめた。リンカは興味深そうに眺めるが手を出さない。逆にエリュは興味津々だった。
「これ、何の石?」
「それは虎の目だな。お金が貯まるぞ」
「ふーん、こっちの緑のは?」
「翡翠か。成功だったっけ」
パワーストーンそのものに興味があるというより、その意味が気になるようだ。それならば水晶や翡翠そのものより、そういった話を集めた本の方がいい。
「エリュ、内容が書いてある本を買おうよ。それから気に入った石を買ったら?」
店の人の手前、ほとんどのパワーストーンは宮殿にあると言えない。もっと高額でパワーの強い宝石類が山ほど保管されているはずだった。濁して提案すると、エリュは素直に頷いた。
「うん、また来ます。教えてくれてありがとう」
お店の人にお礼を言って、にこやかに手を振って別れる。シェンが手を繋いだエリュは本屋さんを探し始めた。
「本屋なら、この先にありますよ」
ベリアルがお勧めする本屋なら安心だ。そう考えて、彼の案内について路地を曲がった。右、右、左、右……気のせい? ぐるりと回っただけのような気がする。シェンの疑問に答えるように、ベリアルが説明した。
「この本屋は、一定の手順を踏んだ客しか受け入れません。無駄に見えますが、必要なのです」
看板がない木の扉は古い。そこを押して入るベリアルは、頭をぶつけないよう屈んでいた。高さも幅も狭い扉だ。続いてリンカ、エリュ、ナイジェルと吸い込まれた。最後に通ったシェンは、肌の上をなぞる感覚に目を細める。
これは結界? ただの本屋にこんな仕掛けが必要か。その思いは、すぐに霧散した。
壁一面が本棚になっており、見上げた先は螺旋状の階段に沿って本が並んでいる。筒の中に本が詰め込まれたような空間だった。外から見た店の大きさと違うのは、結界のせいだ。どこか別の空間と繋がっていた。
「すごい!」
「うわぁ! この本、装丁が本物の竜革だぞ」
言葉を無くしたリンカの後ろで、ナイジェルが「こんなの王宮でも1冊しかない」と騒いでいる。竜革の見分けがついたのは、彼の国に似た装丁の本があったようだ。さすがのシェンも驚いてぐるりと見回し、エリュに強請られて我に返った。
「シェン、本探すの手伝って!」
11
お気に入りに追加
940
あなたにおすすめの小説
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき@バカふり200万部突破
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる