49 / 128
49.正反対な友人候補と顔合わせ
しおりを挟む
シェンやベリアルの画策通りに終了した祝賀会の後、予想外の申し出があった。エリュと交友関係を築きたいと、人間の王子から面会希望が届いたのだ。その話を聞きつけ、妖精族も王の姪を呼び寄せた。
少し考えた後、ベリアルは断ろうと言い出した。危険すぎるのだ。エリュ自身は身を守る魔法も使えない。他種族に傷付けられたら取り返しがつかない、と。今後の外交にも影響するだろう。
「いや、会わせておいた方がいいよ」
シェンは逆だった。国外に顔見知りを作ることは、エリュの足下を固める上で有効だ。ましてや王族やその縁戚ならば、友人関係を築くことで有利になる。そういった面を除いても……エリュに友人を増やしてやりたかった。
あと数年すれば、国内から遊びや学びを通じて側近候補が選出される。だが、彼や彼女らは友人ではない。対等な関係を築けるのは、そういった利害関係が育つ前だろう。シェンはエリュの未来に、幅広い選択を与えたかった。
「シェン様の仰ることも理解できます。ですが」
言葉の暴力で、取り返しのつかない傷を負うのではないか。幼い主君を心配するベリアルの心配も尤もだった。互いに膠着状態に陥る前に、リリンは思わぬ指摘をした。
「アドラメレク陛下やフルーレティ様なら、なんて仰るかしら」
容易に想像がついた。エリュが可愛いが故に心配性で、一緒についていくと言い出すアドラメレク。フルーレティは傷つくのも経験と笑って送り出すだろう。
「わかりました」
折れたのはベリアルだった。今回がチャンスなのは彼も理解しているし、シェンという最高の護衛が一緒なのだ。決まった話をエリュに伝えた。大きな目がさらに大きく見開かれる。
「お友達、増えるの?」
「そうなるといいね。魔族以外のお友達になったら素敵だよ」
「うん!」
当初は意気込んだエリュだが、顔合わせの部屋に近づくと足取りが重くなった。怖いのだ。違う種族の子は、私を見て嫌ったりしないかな。不安を読み取り、シェンはエリュの背を押した。
「僕はエリュの味方で、一緒でしょ? 怖くないよ」
無言で頷き、シェンと繋いだ手を確認する。それから勢い込んで頷いた。頑張ろう。エリュの気持ちが整ったのを確認したシェンが扉を開いた。
「皇帝陛下にお初にお目にかかる。妖精族のリンカです」
きびきびとした口調で、はっきりと挨拶したのは、妖精王の姪リンカだった。横に広い耳と緑の髪を持つ少女だ。年齢は5歳前後に見えるが、実年齢はその数倍だろう。活発そうなリンカはエリュに微笑んだ。顔立ちが整った妖精の王族とあって美人だった。
「綺麗な子……」
思わず漏れたエリュの感想に、リンカが「ありがとう」と笑う。第一印象は互いに好感触だった。だが……雰囲気が壊れる。
「皇帝陛下? この子が? ……僕の妹より下じゃないか」
むすっとした口調で吐き捨てた響きに、エリュはびくりと竦んだ。あえて動かないシェンが見守る先で、少年は近づいて乱暴に手を伸ばした。触れる直前で、シェンが弾く。
「っ!」
「無礼すぎるよ、エリュは皇帝で……君はただの王子だ」
先に名乗ってから、許可を得て触れるべきだろう? 諭すシェンを睨み、少年は大きな溜め息を吐いた。
少し考えた後、ベリアルは断ろうと言い出した。危険すぎるのだ。エリュ自身は身を守る魔法も使えない。他種族に傷付けられたら取り返しがつかない、と。今後の外交にも影響するだろう。
「いや、会わせておいた方がいいよ」
シェンは逆だった。国外に顔見知りを作ることは、エリュの足下を固める上で有効だ。ましてや王族やその縁戚ならば、友人関係を築くことで有利になる。そういった面を除いても……エリュに友人を増やしてやりたかった。
あと数年すれば、国内から遊びや学びを通じて側近候補が選出される。だが、彼や彼女らは友人ではない。対等な関係を築けるのは、そういった利害関係が育つ前だろう。シェンはエリュの未来に、幅広い選択を与えたかった。
「シェン様の仰ることも理解できます。ですが」
言葉の暴力で、取り返しのつかない傷を負うのではないか。幼い主君を心配するベリアルの心配も尤もだった。互いに膠着状態に陥る前に、リリンは思わぬ指摘をした。
「アドラメレク陛下やフルーレティ様なら、なんて仰るかしら」
容易に想像がついた。エリュが可愛いが故に心配性で、一緒についていくと言い出すアドラメレク。フルーレティは傷つくのも経験と笑って送り出すだろう。
「わかりました」
折れたのはベリアルだった。今回がチャンスなのは彼も理解しているし、シェンという最高の護衛が一緒なのだ。決まった話をエリュに伝えた。大きな目がさらに大きく見開かれる。
「お友達、増えるの?」
「そうなるといいね。魔族以外のお友達になったら素敵だよ」
「うん!」
当初は意気込んだエリュだが、顔合わせの部屋に近づくと足取りが重くなった。怖いのだ。違う種族の子は、私を見て嫌ったりしないかな。不安を読み取り、シェンはエリュの背を押した。
「僕はエリュの味方で、一緒でしょ? 怖くないよ」
無言で頷き、シェンと繋いだ手を確認する。それから勢い込んで頷いた。頑張ろう。エリュの気持ちが整ったのを確認したシェンが扉を開いた。
「皇帝陛下にお初にお目にかかる。妖精族のリンカです」
きびきびとした口調で、はっきりと挨拶したのは、妖精王の姪リンカだった。横に広い耳と緑の髪を持つ少女だ。年齢は5歳前後に見えるが、実年齢はその数倍だろう。活発そうなリンカはエリュに微笑んだ。顔立ちが整った妖精の王族とあって美人だった。
「綺麗な子……」
思わず漏れたエリュの感想に、リンカが「ありがとう」と笑う。第一印象は互いに好感触だった。だが……雰囲気が壊れる。
「皇帝陛下? この子が? ……僕の妹より下じゃないか」
むすっとした口調で吐き捨てた響きに、エリュはびくりと竦んだ。あえて動かないシェンが見守る先で、少年は近づいて乱暴に手を伸ばした。触れる直前で、シェンが弾く。
「っ!」
「無礼すぎるよ、エリュは皇帝で……君はただの王子だ」
先に名乗ってから、許可を得て触れるべきだろう? 諭すシェンを睨み、少年は大きな溜め息を吐いた。
31
お気に入りに追加
940
あなたにおすすめの小説

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき@バカふり200万部突破
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる