40 / 128
40.拉致された先でピクニックを
しおりを挟む
愚か者はどの時代にもいるのだな。シェンはそんな感想を抱きながら、拘束に甘んじていた。前回の計画的な行動と違い、今回は予定外の拉致だ。幸いなのは、エリュが怖がっていないこと。自分も一緒だったことと笑った。
蛇神であるシェンが同行している以上、どこへ連れて行かれても一瞬で帰る方法がある。その上、危害を加えられないよう結界を張ることも可能だった。前回のなんたら侯爵と一味は捕まえたので、今回は別件だろう。
すでにベリアルとリリンへ通報は済んでいる。彼らも騎士を揃えて合図を待っているはず。さて、救出の機会を与えずに自力で逃げてしまったら、彼らの面目を潰してしまうか、どうか。
放り込まれたのは、地下牢。前回もそうだが、他に選択肢がないのだろうか。呆れながら暗い部屋に転がった。エリュはきょとんとした顔でシェンを見ている。扉が閉まって足音が遠ざかると、シェンに尋ねた。
「これ、訓練のお勉強?」
「残念ながら本番だよ。僕のあげたロケットはつけてる?」
「うん。取られなかった」
ポシェットにも魔法陣や仕掛けが入っていたが、捕まってすぐに奪われてしまった。兎のポシェットがお気に入りのエリュは頬を膨らませてぼやく。手首を結んだ縄を解いて、エリュも自由にする。それからポシェットは取り返してあげると約束した。
薄暗い中でもシェンは見えるが、エリュはそうもいかない。柔らかな光を作り出した。魔法で作られた光は、エリュの顔を照らし出す。
「本当? 返ってくる?」
「僕は嘘を言わないよ。エリュは怖くないかい」
「怖くないけど、お腹すいた」
両手でお腹を押さえる。おやつを入れたポシェットがないので、しょんぼりとしたエリュの前に、収納から取り出したおやつを並べた。
「お茶もあるよ」
「ピクニックみたいだね」
無邪気に笑うエリュは、慣れてしまったらしい。攫われても騒ぐと危険、の言い聞かせを忠実に守っていた。一緒にシェンがいるから平気と口にする。
「手を洗おう」
水魔法で水の塊を作り、手を突っ込んで洗う。その後柔らかなタオルでよく拭いた。浄化でも手は綺麗になるが、こういう時は柔らかな毛布やタオルが気持ちを落ち着ける。冷える石の地下牢とは思えない、分厚い絨毯を敷いた。その上に靴を脱いで座り、お菓子やお茶を乗せたトレーを置く。
完全にピクニックの様相を呈していた。助けが来るまでお茶を飲んで待つのも、悪くないな。ふかふかの毛布を取り出して被り、寝転がって焼き菓子を頬張る。
「いいのかな」
「一緒に怒られてあげる」
行儀が悪いと叱られるよ。そう心配するエリュに約束をして、子ども達は寝転んだ。お菓子を溢しても、寝転んで齧っても誰も叱らない。だんだん楽しくなってきて、二人は食べ終わると目を閉じた。
互いの指を絡めて眠りの中に落ちていく。エリュが完全に眠ったのを確かめ、シェンは結界を張った。その上でリリン達への合図を送る。救出まで1時間以内。食後のお昼寝にはちょうどいい。
エリュの肩を滑り落ちた毛布を掴み、しっかり首まで覆った。
「もうすぐお迎えが来るからね」
攫われる前に逃げる手もあるけど、相手を特定して排除するのも大切だ。何度も襲わせてあげる気はないからね。年長者故の狡さを滲ませ、蛇神はにたりと笑った。
蛇神であるシェンが同行している以上、どこへ連れて行かれても一瞬で帰る方法がある。その上、危害を加えられないよう結界を張ることも可能だった。前回のなんたら侯爵と一味は捕まえたので、今回は別件だろう。
すでにベリアルとリリンへ通報は済んでいる。彼らも騎士を揃えて合図を待っているはず。さて、救出の機会を与えずに自力で逃げてしまったら、彼らの面目を潰してしまうか、どうか。
放り込まれたのは、地下牢。前回もそうだが、他に選択肢がないのだろうか。呆れながら暗い部屋に転がった。エリュはきょとんとした顔でシェンを見ている。扉が閉まって足音が遠ざかると、シェンに尋ねた。
「これ、訓練のお勉強?」
「残念ながら本番だよ。僕のあげたロケットはつけてる?」
「うん。取られなかった」
ポシェットにも魔法陣や仕掛けが入っていたが、捕まってすぐに奪われてしまった。兎のポシェットがお気に入りのエリュは頬を膨らませてぼやく。手首を結んだ縄を解いて、エリュも自由にする。それからポシェットは取り返してあげると約束した。
薄暗い中でもシェンは見えるが、エリュはそうもいかない。柔らかな光を作り出した。魔法で作られた光は、エリュの顔を照らし出す。
「本当? 返ってくる?」
「僕は嘘を言わないよ。エリュは怖くないかい」
「怖くないけど、お腹すいた」
両手でお腹を押さえる。おやつを入れたポシェットがないので、しょんぼりとしたエリュの前に、収納から取り出したおやつを並べた。
「お茶もあるよ」
「ピクニックみたいだね」
無邪気に笑うエリュは、慣れてしまったらしい。攫われても騒ぐと危険、の言い聞かせを忠実に守っていた。一緒にシェンがいるから平気と口にする。
「手を洗おう」
水魔法で水の塊を作り、手を突っ込んで洗う。その後柔らかなタオルでよく拭いた。浄化でも手は綺麗になるが、こういう時は柔らかな毛布やタオルが気持ちを落ち着ける。冷える石の地下牢とは思えない、分厚い絨毯を敷いた。その上に靴を脱いで座り、お菓子やお茶を乗せたトレーを置く。
完全にピクニックの様相を呈していた。助けが来るまでお茶を飲んで待つのも、悪くないな。ふかふかの毛布を取り出して被り、寝転がって焼き菓子を頬張る。
「いいのかな」
「一緒に怒られてあげる」
行儀が悪いと叱られるよ。そう心配するエリュに約束をして、子ども達は寝転んだ。お菓子を溢しても、寝転んで齧っても誰も叱らない。だんだん楽しくなってきて、二人は食べ終わると目を閉じた。
互いの指を絡めて眠りの中に落ちていく。エリュが完全に眠ったのを確かめ、シェンは結界を張った。その上でリリン達への合図を送る。救出まで1時間以内。食後のお昼寝にはちょうどいい。
エリュの肩を滑り落ちた毛布を掴み、しっかり首まで覆った。
「もうすぐお迎えが来るからね」
攫われる前に逃げる手もあるけど、相手を特定して排除するのも大切だ。何度も襲わせてあげる気はないからね。年長者故の狡さを滲ませ、蛇神はにたりと笑った。
21
お気に入りに追加
930
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる