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25.説明を省いて誓約の騙し打ち?

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 契約を結ぶ――神とのそれは誓約と呼ばれる。魔族を見守る蛇神としての本来の姿で、ほんのわずかに宙に浮いた。エリュが大好きな庭の花々を踏み潰すわけにいかない。ゆったりとトグロを巻いた本性は、宮殿に匹敵するほど長大だった。

「シェン、おっきぃねぇ」

 見上げる幼女の感想に微笑み、彼女の高さに顔を下げる。舌の先に小さな珠を作って差し出した。

「受け取れ、エリュ」

「ありがと」

 何だかも知らず、無邪気に受け取る。嬉しそうに握り締めた珠は、エリュの肌に浸透して手のひらから吸収された。これで神と皇帝の誓約は終了なのだが……思わぬ事態となる。

「なくなった!? っ、うわぁあああ」

 貰ってお礼を言いしっかり握ったのに、いつの間にか消えた。そう考えて悲しくなったエリュが泣き出したのだ。困惑したシェンがもうひとつ、似たような珠を作り出した。これは誓約に使われる珠ではなく、神の力を固めた宝玉だ。見た目は同じ色と大きさにしておいた。

「エリュ、落としただけだ。心配するな」

 そっと手の上にもう一度置くと、今度は握り締めずに眺める。ひっくとしゃくりあげながら、珠を握ったり転がしたりしてから笑った。まだ頬は濡れて、しゃくりあげる状態なのに満面の笑みだ。安心したところへ、何事かと駆け付けたベリアルがリリンに詰め寄った。

「何があったのです!?」

「それが」

「まさか襲撃ですか? それともシェン様の怒りを買った?」

 混乱してリリンの話を聞かないベリアルへ、エリュが首を傾げた。とことこと短い足で駆け寄り、ぎゅっとその太腿に抱き着く。

「ベル、どっか痛い?」

「あ、いえ。違います」

 足にしがみ付いた主君である幼女を抱き上げるベリアルは、どうやら落ち着いたらしい。笑顔を浮かべてエリュの頭を撫でた。嬉しそうなエリュを見ながら、するりとシェンの姿に戻る。シェンが足早に駆け寄ると、手の空いたリリンが抱き上げてくれた。

 二人の大人に抱っこされて、視線の高さが合う。何だかおかしくて笑ったシェンにつられ、エリュも声をあげて笑った。その様子を微笑ましいと見守るベリアルが、エリュが握る何かに気づいた。

「エリュ様、それは?」

「シェンがくれたの」

 無邪気に自慢するエリュは、宝玉を手のひらに載せて転がした。目を見開いたベリアルが何か言いかけ、一度言葉を飲み込む。それでいいと頷くシェンにぎこちない笑みを向け、エリュの頭を再度撫でた。

「いい物をいただきましたね、よかったです」

 誓約の宝珠はすでにエリュの中だが、模して作った珠もなかなかの力作。シェンは胸を張って「会心の出来だ」と誇った。美しく輝く虹色の珠をじっくり観察し、ベリアルが提案する。

「陛下の皇帝杖に使用しましょうか」

「あ、いいね」

 シェンが賛成したので受け取ろうとすると、エリュはさっと後ろに隠した。

「だめ、これはエリュが持ってるんだもん」

「……首飾りか髪飾りに変更かしら」

 皇帝杖は、王冠がない魔族の皇帝にとって特別なものだ。代替わりすると先代の杖は宝物庫に納められ、新調するのが習わしだった。皇帝の地位を継承したが、幼いためお披露目をしていないエリュは杖をまだ作っていない。その杖に使う宝玉として、最高の素材だった。

「うん、わかった。こうしよう」

 シェンは神らしい強引なやり方で解決する。ぐっと握り込んだ右手の中にもうひとつ宝玉を作り、そちらを杖に。エリュが大切に握り込んだ方を首飾りにして、常に首にかけることに決まった。

「ありがと」

 にこにこと笑顔を振り撒くエリュは、加工する間だけリリンに預けることに同意した。その間は杖に使う予定の珠を、ポシェットに入れて持ち歩く。首飾りが出来たら、ポシェットの宝玉を皇帝杖に加工するのだ。

 嬉しくて宝玉をポシェットの上から撫でるエリュの姿に、シェンは可愛いと頬を緩ませる。どちらの姿も可愛いと、侍女達の間で人気が高まり、青宮殿配属を夢見る侍女が増えた。
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