【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
21 / 128

21.大量のお土産とぬいぐるみに囲まれて

しおりを挟む
 すでに果物の土産を手に入れているが、土産が多いのは問題ない。青宮殿には、侍女以外にも働く者がいるのだから。料理人や下女などに回して貰えばいい。

「飴、いっぱい可愛いね」

「いっぱい買ってこうか」

 微笑みあって、選んでいた手を止める。それから数歩離れた位置で見守るベリアルを手招きした。明らかに上位魔族であるベリアルへ、店主が頭を下げる。すぐに顔を上げたのは、合図があったからだ。

「ここからここまで。すべて持ち帰りますので、会計してください」

 シェンの示した端から端まで、購入すると告げた。目を丸くした後、店主は慌てて包もうとするが、手が震えている。店の全商品ではないが、7割近い購入量だった。これでひと月分の売り上げに匹敵する。

「あのね、ベリアルが運ぶから包まなくていいよ」

 シェンが声をかけると、腰が抜けたのか。店主はぺたんと座り込んでしまった。近づいたエリュが「よしよし」と声に出しながら撫でる。誰かにしてもらったことがあるのだろう。お爺さんと呼ぶ年齢の魔族を、幼女が撫でる光景は微笑ましい。

「エリュ、全部買うと他の子が悲しむから、ここら辺は残していこう」

「うん」

 支払いはベリアルが目算で行い、少し多めに渡すようシェンが指示した。というのも、話し掛けたせいで練り途中の巨大な飴をダメにしたのだ。エリュは気付いていないので、黙っていることにした。気に病むと可哀想だ。

「他に寄りたい店はありますか?」

 飴をまとめて収納したベリアルの言葉に、エリュは「はい」と手を挙げた。

「どうぞ」

 宮殿の外なので、出来るだけ名前を呼ばないようにしているらしい。確かに幼子にいい大人が様を付けて呼べば、目立つだろう。臨機応変、意外と慣れているベリアルをシェンは見直した。

「お部屋に置く大きい大きいお人形欲しい。熊!」

「……狼ではダメですか」

 なぜか食い下がるベリアルは、そういえば獣化すると狼だったか。変なところで拘るベリアルに苦笑いし、シェンは理由を聞いた。

「どうして熊なの? 蛇じゃダメなの?」

 そっと自分の本体も混ぜておく。うーんと悩んだ後で、エリュは理由を口にした。

「あのね。前に出会った子が熊を持ってたの。もふもふで柔らかくて。お母さんにもらったんだって」

 ああ、そういうことか。一瞬で察してしまったシェンとベルアルが唇を噛む。熊が欲しいのではなく、お母さんから貰ったの部分に反応したのだ。こればかりは、魔族の守護神と呼ばれるシェンも、手の打ちようがなかった。死者を呼び起こす方法はない。

「どのくらい大きかったの?」

 大きいを強調したエリュは、両手を目一杯広げた。その様子を見たシェンが、ふふっと笑う。

「いいよ、大きなのをたくさん買って帰ろう。部屋をすべてぬいぐるみで埋めちゃおう」

 きょとんとした顔の後、エリュは嬉しそうににっこりと笑顔を浮かべた。それから手を繋いだシェンに促され、ベリアルが反対の手を繋ぐ。人形や玩具を取り扱う店に寄り、棚に並ぶぬいぐるみを端から端まで。エリュの背丈より大きいぬいぐるみをすべて購入し、ベリアルは無言で収納へ収めた。

 帰宅して部屋に並べると、どこを見てもぬいぐるみがある光景が広がる。ふかふかの熊や狼を撫でながら、幼女二人は笑顔でベッドに転がった。なお、ベッドの中央には長細い蛇の抱き枕が置かれ、両側から幼女に抱きしめられたとか。

 お土産は翌日から、侍女から宮殿に出入りする商人に至るまで分け与えられた。
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき@バカふり200万部突破
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

処理中です...