【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
10 / 128

10.幼子は蛇神の背に乗り空を舞う

しおりを挟む
 着替えたエリュは、ミニスカートの下に厚手のタイツだった。これならスカートが捲れても平気な上、可愛らしさも両立できる。兎耳獣人の侍女ケイトは、リボンをふんだんに使った上着を着せてくれた。風を防いで暖かい。

「これなら寒くないかな」

「うん。飛ぶと寒いの?」

「寒いけど、僕の上は寒くないよ」

 風に命じて魔力で膜を作る。そんな説明の意味は半分以上、エリュには分からない。それでも目を輝かせて話を聞く姿に、リリンは切なそうに笑った。

「やっぱり、両陛下が亡くなられて寂しかったのですね。こんな風に楽しそうになさるなら、もっと早くお友達を探せばよかったですわ」

「友達と言っても、選ばなければならないからな」

 ベリアルは溜め息を吐いた。リリンの言い分もわかる。寂しそうなエリュを前に、できるだけ時間を割いてきたが……やはり足りなかったらしい。今後は蛇神であるシェンが守るので、安心して任せることが出来た。もちろん、警護は今まで以上に付ける。

「行ってきていい? ベル、リリン」

 亡き両親の代わりとでも言うのか。エリュは常に二人の意見を尋ねてきた。年の離れた兄姉の感覚で、視線を合わせて頭を撫でる。ベリアルの撫で撫でに満足そうなエリュが、笑顔を振りまいた。

「気をつけて楽しんでください」

「凄いわね、シェン様の背に乗せてもらえるなんて幸せよ」

 え? そんな顔をした後、シェンはリリンの言葉を反芻する。もしかして、蛇の姿で背に乗せる話なのか? 単に手を繋いで飛ぶ予定だったんだが……。

 シェンの気持ちを知らないエリュは「背中?」と首を傾げた。出会った時の姿を思い出し、両手を広げて大きさを示す。

「こんな、こぉんなに大きいの! シェンの背中、すごい広いのよ」

「落ちないように魔法をかけましょう」

「これを首に巻いてね」

 ベリアルは防護用の魔法陣を持たせ、リリンは己の首に巻いていた毛皮を寄越した。渡されたマフラーは大きく、エリュは首どころか胸にも巻いて笑う。ぱくぱくと文句を言おうとした口が動き、仕方ないとシェンは諦めた。

 するりと大蛇の姿をとる。本来の姿なので楽だが、幼子を驚かせるには十分なサイズだった。前回は暗闇だが、今日は明るい日差しの下だ。怖がって泣かれたら、僕もショックなんだが……そんなシェンの思いをよそに、エリュは両手を広げて喜ぶ。抱き着いて、大きな鱗に頬擦りした。

「シェン、おっきい!」

「エリュが平気なら良いか」

 怖がらないなら、巨大な蛇の姿でも問題ない。むしろ飛ぶには安定している。よじ登ろうとして滑り落ちる幼女を、ベリアルが「失礼」と声を掛けて乗せた。しっかりしがみ付くエリュの周りを、防御結界が囲っていく。ベリアルが付与した魔法陣だ。その上から重ねて、シェンの結界も張った。

「行くぞ」

 ふわりと舞い上がる。蛇だが首の後ろに、耳のような小さな羽が付いていた。飛ぶには不要だが、エリュが掴まるにはちょうどいい。2枚の羽の間にちょこんと座り、エリュは両手で羽を掴んだ。

 振動も風の抵抗もなく舞う巨蛇は、他国で龍神と呼ばれる。崇められる対象という意味では同じだが、この魔国ゲヘナはシェーシャの意思を尊重して「蛇」と呼称してきた。神である蛇が空を舞う――その背に魔族唯一の失えない幼子を乗せて。

「歳を取りましたかね。目が霞んでしまって」

「泣いてるからでしょ。あと、私も似たような歳なんだから、そんな言い方失礼よ」

 涙ぐんで感激するベリアルの隣で、リリンは悪態をついた。
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき@バカふり200万部突破
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...