上 下
46 / 58

46.正妃の実家を上回る最高権力者

しおりを挟む
 貴族の中でもっとも発言権の強い家はどこか。問われたら国内外の貴族は誰もが口を揃えて、ルーベル公爵家の名を挙げるだろう。そこへ天才量産型の家系であるシモン侯爵家の嫁が足される。最強タッグね。

 海外から警戒され、王族すら凌ぐ権力と財力を有するルーベル&シモン連合となれば、第二王子の母君の実家の権力を凌駕した。第一王子アルフォンスが「君が王になればいい」と焚き付けたのは、「そのつもりがあるなら本気で簒奪していいよ」とお墨付きを与えた形だ。

 実際のところは面倒は嫌だと断るシルヴァンの性格を知っているから、遠慮なく口に出した。笑顔の王子妃フランソワーズ殿下が唆す。当然シルは反発した。

「なんだ、出来レースだったのね」

 あふっと欠伸が出て、慌てて口を手で押さえる。眦に涙が滲んだ。

 シルは二番手が美味しいと思っているし、第一王子は弟に継がせてめちゃくちゃになるなら、自分が継ぐしかないと覚悟を決めている。国王が優柔不断なのが問題だけど、正妃の実家に玉座を奪われまいと抵抗した結果だ。下手すると毒を盛られて国王崩御のどさくさに紛れ、第二王子が王になるシナリオも考えられた。

 うーん、物語の流れとしてはその方が原作に近いかも。王子妃じゃなくて、次期王妃扱いされてた気がするわ。ヒロインは逃げたけど、この辺に強制力の名残りが覗いていた。

「それで第一王子アルフォンス殿下を推すのね?」

「俺は継がない。第二王子は無理、他に選択肢がない上、次期国王に恩を売れば使える」

 腹黒い本心がちらり。さらりととんでもない発言をした男は、私のうなじに顔を埋めて匂いを堪能していた。ラベンダーの匂いしかしないと思うわ。

「それより、アルフォンスの名を口にしないでくれ。塞ぎたくなってしまう」

 物理的な意味に聞こえて、顔を引き攣らせた。縫ったり猿轡したりするのかしら。実家で見たあれこれを思い出し、首を横に振った。そういえばお父様って、表向きの執務はしていないのよね。天才を量産するシモン侯爵だから、お金に困ってないんだろうと思われてるけど、裏で暗躍はしているの。

 王族の秘密を暴こうとした男爵家を滅亡させたり、国家転覆を図る他国の間者を処分したり。私が知るだけでも、数十人は片付けてるわ。そんな実家と、最高権力を持つ公爵家の婚約……やだ、ミステリーかサスペンスが1本書けそうよ。

「レティ、覚えておいてくれ。俺が君を呼び出す際は、必ず合言葉を添える。それ以外の誘いは、誰の名であっても逃げてくれ」

 国王でも無視して構わない。言い切ったシルはカッコよかった。首筋を匂ってなければ、もっとカッコ良かったけどね。本物の呼び出しを無視して問題が起きても、両家の名を出せばお咎めなしになりそう。

 合言葉は……ちょっと恥ずかしいけど、これなら普通の人は使わないから区別できる。出来たら使わずに済ませたいわね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン
恋愛
 前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。  すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?  私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!  そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。 ⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎ ⚠︎誤字多発です⚠︎ ⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎ ⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

ヒロインを虐めなくても死亡エンドしかない悪役令嬢に転生してしまった!

青星 みづ
恋愛
【第Ⅰ章完結】『イケメン達と乙女ゲームの様な甘くてせつない恋模様を描く。少しシリアスな悪役令嬢の物語』 なんで今、前世を思い出したかな?!ルクレツィアは顔を真っ青に染めた。目の前には前世の押しである超絶イケメンのクレイが憎悪の表情でこちらを睨んでいた。 それもそのはず、ルクレツィアは固い扇子を振りかざして目の前のクレイの頬を引っぱたこうとしていたのだから。でもそれはクレイの手によって阻まれていた。 そしてその瞬間に前世を思い出した。 この世界は前世で遊んでいた乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢だという事を。 や、やばい……。 何故なら既にゲームは開始されている。 そのゲームでは悪役令嬢である私はどのルートでも必ず死を迎えてしまう末路だった! しかもそれはヒロインを虐めても虐めなくても全く関係ない死に方だし! どうしよう、どうしよう……。 どうやったら生き延びる事ができる?! 何とか生き延びる為に頑張ります!

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

処理中です...