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43.晩餐会はいろいろ台無しだった

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 長細いテーブルの端と端で食事するのかと思ったら、奥の一角に纏まってセッティングがされていた。嫌そうに鼻に皺を寄せるシルは、吠える直前の犬だった。

「シル、下ろして頂戴」

「ダメだ」

 上座に第一王子と王子妃の席が、向かいに私とシルの席が用意されている。お分かりかしら。私と第一王子、王子妃とシルが向かい合う形よ。男性と女性を交互に座らせるのは分かるし、第一王子が最上位の位置に座るから、こうなったのかな。考えながら座ろうとしたら、シルが笑顔で自分の席に座った。

 ……私を抱いたまま。つまり私は王子妃殿下の正面で、横抱きにされるという、なんとも複雑な形になった。王子妃にそっぽ向くのは失礼だけど、膝に座らされると横向きなのよ。

「シル、いい加減になさい。下ろして」

「ダメ。さっき悪い言葉を使った罰だよ」

 罰なの? あなたにとっては褒美じゃない! むっとした私が暗器へ手を伸ばすが、その前にからりと明るく笑う第一王子が口を挟んだ。

「いいよ、好きにして」

 驚いて目を見開く侍従に合図し、長椅子を用意させる。届いた椅子を確認し、シルはすっと立ち上がった。やっぱり私を抱いたまま。おかしいわ、米俵を担いでスクワットするくらい、辛いと思うんだけど。うっとりしてるなんて。

 豪華な調度品や美しい食器、見事に磨かれたカトラリーの輝きも目に入らなかった。王子妃は柔らかな微笑みを浮かべる茶髪の美人。紅茶のような赤茶色の髪は、丁寧に編み込まれている。

「挨拶なら気になさらないで。女性は男性の我が侭に寛大な方が、幸せになれますわ」

 お言葉ですが、これ以上寛大にしたら何されるか。本気で命と監禁の心配が必要なんですのよ。そう言いたい口元がひくひくと動くが、根性で耐え切った。たぶん、理解してもらえない。

「ありがとうございます」

 曖昧に誤魔化す。シルは私を膝に座らせて、長椅子に陣取った。王族との晩餐会で、幼子でもないのに長椅子で横抱きなんて、私が初めてでしょうね。ある意味、歴史に名を残しちゃうわ。

「では始めようか」

 第一王子の合図で、料理が運ばれてくる。ところで、この王子の名前、なんだったかしら。貴族名鑑で覚えた気がするんだけど、忘れた。名を呼ばずに「殿下」で通過しようと心に決める。

 スープを掬った夫は、平然と「あーん」を強要してきた。ここで羞恥プレイなの? 目の前にいるのは王族よ? 目で問うが、シルは機嫌が直って笑顔を振り撒く。仕方なく口を開けた。高価なドレスがシミだらけになっても、知らないんだからね。

「隣に座って食べたいわ。じゃないと、あなたが食べられないでしょう? シル」

 それっぽい理由を付けて、小首を傾げる。耳が赤くなったシルの唇が「レティが俺の心配を?」と呟く。大きく頷いて「ええ、あなたも同じものを食べて欲しいの」とバカップルの甘い砂糖菓子に似たセリフを吐いた。
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