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26.いい子すぎて変態を押し付けられない

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 互いに貴重な日本人同士……というか、前世の記憶があると認識すれば話はスムーズだった。それはもう、あっという間に情報交換が始まり、終わり、また別の話題に移る。とんでもなく順調に様々な情報を交換し、私は溜め息を吐いた。

「……良かったぁ。私は幼馴染の恋人がいるので」

 うふふと笑うヒロインが憎い。すでに恋人がおり、婚約目前だった。男爵令嬢の地位に対し、過不足なくやや上を狙う子爵家の次男と付き合い、一人娘なので婿に入ってもらう予定だと聞いた。邪魔してシルヴァンを押し付けたいけど、彼女が意外にもいい子なので……気が咎める。

「物語を続ける気はない?」

「え、あの小説ですよね」

「そうよ、ここはゲーム版みたいだけど」

 クリステルは元の名前を憶えており、サヤカと名乗った。残念ながら私は曖昧な記憶しかないので、教えられない。そう伝えたら、彼女が前世で読んだ小説の一部には「死に方が壮絶だと、転生後の記憶が曖昧」という設定があったらしい。今生も壮絶に死なないよう、気をつけなくちゃ。

 よほどひどい死に方したのかしら。まあ悩んでも無駄だから、ここはスルーしましょう。

「ゲームはプレイしてないんです」

「そうなの? より性癖が表に出たヤバイ感じだったわ」

「……そうなんですね。攻略対象が全員卒業済みだったり、通学免除になってるのは……もしかして?」

「残念ながら私じゃないの」

 偶然とご都合主義が上手に働いた結果だと思うわ。家庭教師が幼い頃から専属でついて、学院で習う範囲はおろか、専門分野まで覚えた子が、通うわけないでしょう? 極々自然に起きる現象だわ。そう説明すると、彼女は納得した様子だった。

「そうですね。男爵家だとそこまでの教育はないので、学院に通うのは当たり前ですし。彼もそうなんですよ」

 彼という単語に照れるピンク髪の少女を見ながら、ちょっとあの変態を押し付けるのは無理っぽいと悟る。だいぶ分かってきた。大丈夫、私は生き残れるわ。

「今後も仲良くしてね。連絡先はここで」

 情報屋へ繋ぎを取る方法を教えようと思ったけど、裏路地に店があって危険なので、ルーベル公爵家宛にしておいた。

「さて、そろそろ行かないと……夫が大変なことになってるわ。近々、お茶会を開くのでお誘いするわね。もちろん、ドレスは用意するわ」

「ありがとうございます! というか、貴族社会に普通に馴染んでるんですね」

 感心しきりの彼女は、転生した記憶が戻ったのも2年前。まだまだ貴族のしきたりやルールが理解できていないと嘆いた。

「その辺は慣れよ。私もつい先日だもの。体が覚えているから、無理のない範囲で振る舞ったらいいわ」

「はい! お姉様と呼ばせてください」

 やだ、この子。本当に可愛いじゃない。あの変態どもを近づけず、安全に学院を卒業させてあげたいわ。もう少し寄付したら、あの理事長は便宜を図ってくれそう。

 物語をゲームのシナリオ通りに進めるのは諦めた。クリステルが不幸になるのは望まないし、あの変態どもと結ばれるのは可哀想だ。こうなったら、完膚なきまでにシナリオを壊してあげましょう。やるなら徹底的に! 我がシモン侯爵家の家訓ですわ……あ、もうルーベル公爵夫人でしたわね。
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