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第30章 受け継がれる未来へ
528.飽きるほどの平和が満ちて
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「平和ねぇ」
「平和だな」
リリスの呟きに、隣で肩を抱くルシファーが同意する。夫婦喧嘩も終わり、窓辺で仲良く日向ぼっこを始めた。二人の仲睦まじい様子は、すぐに新しい噂となって飛び交う。
逆に、大きな事件がないからこそだ。もし事件や事故がいくつも起きていたら、二人の夫婦喧嘩や仲直りなんて、民の口の端にのぼることはなかった。
魔の森の木々はゆらゆらと葉を風に遊ばせ、空は白い雲が浮かんでいる。遠くまで見通せるほど澄んだ空気を吸い込み、人々は平和を満喫していた。世界の魔力事情を乱す異分子は消え、魔の森は正常な魔力循環を取り戻した。
少子化を辿っていた魔族も、魔の森に満ちた魔力で出産ラッシュとなる。一気に人口が増えたため、今度は食料事情を心配する贅沢な状況だった。といっても、魔物や動物も増えた上、海という拡張された空間がもたらした影響は大きく、食料はそれなりに足りている。
「平和過ぎてぼけそうだ」
「それもいいわよ。きっと」
適当な返事をするリリスは半分ほど眠っているようだ。うとうとする彼女の目は閉ざされたまま、金色の瞳は見えない。娘イヴや息子シャイターンも順調に育ち、手を離れてきた。まだまだ面倒を起こすだろうが、それもまた楽しいだろう。
リリスが寒くないよう結界で包み、ルシファーは口元に笑みを浮かべた。リリスを拾う前の世界の記憶がかすむ程、現在は濃い時間を過ごしている。混乱した魔族を平定し、挑みかかる人族を片付け、民の喜びや平和を得るために働いた。
そろそろ、誰かに代替わりしたいが……。そこまで考えて、アスタロトやベールの顔が浮かんだ。彼らが許さないか。ベルゼビュートもああ見えて、頑固だ。他の主君など認めないだろう。ルキフェルは環境が激変しなければ平気か? いや、無理だな。自尊心が高すぎる。
結局、四人いる大公はルシファー以外を魔王に認めない。ならこのまま体制を維持するのが、一番平和かも知れないな。自分が楽をすることを優先し、魔族や大公達に不自由を強いる気はない。どこまでいっても、ルシファーは魔王だった。
引退したとしても気になって、おちおち休んでいられないはず。理由を付けては顔を出し、口を挟み、解決に動いてしまう。だからこそ民も王として認めるのだ。
「おぉおお!」
「違いますぞ、若君。おぉおぉ! です」
ヤンの指導が飛び、シャイターンが再び吠える。だが微妙に響きが違い、くすっと笑った。
「どうしたの?」
ぼんやりしたリリスの声に、起こしたかと気にしながら囁いた。
「幸せだなと思った」
「うん……私も」
ほわりと笑ったリリスは再び眠りに落ちていく。肩を抱き寄せてくっ付き、彼女の黒髪を優しく撫でた。
城門前で拾ったあの日、手離してはならないと強く感じた。その感覚は正しかったな。もしリリスがいなければ、魔王妃になることを承諾してくれなければ、オレが世界を滅ぼしていたかも知れない。長寿であるということは、変化に慣れること。新しい刺激がなければ、倦んでしまう。
「愛してる、リリス」
眠る妻からの返答はないが、寝顔に僅かな笑みが滲んだ。無意識でもオレを受け止めてくれるリリスがいて良かった。ベールがルキフェルを溺愛するのも、依存する相手が必要だったのだと分かる。アスタロトが何度も結婚を繰り返し、別れに狂ったとしても。何度も婚活に失敗しながら、伴侶選びを諦めなかったベルゼビュートも同様だ。
孤独に耐えられる時間に個人差があったとしても、いつかは破綻する。本能でそれを理解するオレ達は、片割れとなる魂を求め続けた。それぞれに得られたのだから、運がいい。いや、それすら魔の森の思し召しか。
愛しい妻の寝息に誘われて、暖かな日差しを浴びながら目を閉じる。目覚めたら何をしようか。明日から数日予定がないから、どこかへ旅行してもいい。視察と称して旅行を延長できないか、相談しよう。イヴやシャイターンも誘って……。
The END of Tomorrow.
*********************
お読みいただきありがとうございました。前作「魔王様、溺愛しすぎです!」がおよそ230万文字、続編が80万文字の大作になりました。本当にありがとうございます。
*********************
【新作】絶対神の愛し子 ~色違いで生まれた幼子は愛を知る~
https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/9758297
両親の色を受け継がずに生まれた不幸な幼子は、神の庇護を受ける愛し子だった?! ハッピーエンド確定_( _*´ ꒳ `*)_
「平和だな」
リリスの呟きに、隣で肩を抱くルシファーが同意する。夫婦喧嘩も終わり、窓辺で仲良く日向ぼっこを始めた。二人の仲睦まじい様子は、すぐに新しい噂となって飛び交う。
逆に、大きな事件がないからこそだ。もし事件や事故がいくつも起きていたら、二人の夫婦喧嘩や仲直りなんて、民の口の端にのぼることはなかった。
魔の森の木々はゆらゆらと葉を風に遊ばせ、空は白い雲が浮かんでいる。遠くまで見通せるほど澄んだ空気を吸い込み、人々は平和を満喫していた。世界の魔力事情を乱す異分子は消え、魔の森は正常な魔力循環を取り戻した。
少子化を辿っていた魔族も、魔の森に満ちた魔力で出産ラッシュとなる。一気に人口が増えたため、今度は食料事情を心配する贅沢な状況だった。といっても、魔物や動物も増えた上、海という拡張された空間がもたらした影響は大きく、食料はそれなりに足りている。
「平和過ぎてぼけそうだ」
「それもいいわよ。きっと」
適当な返事をするリリスは半分ほど眠っているようだ。うとうとする彼女の目は閉ざされたまま、金色の瞳は見えない。娘イヴや息子シャイターンも順調に育ち、手を離れてきた。まだまだ面倒を起こすだろうが、それもまた楽しいだろう。
リリスが寒くないよう結界で包み、ルシファーは口元に笑みを浮かべた。リリスを拾う前の世界の記憶がかすむ程、現在は濃い時間を過ごしている。混乱した魔族を平定し、挑みかかる人族を片付け、民の喜びや平和を得るために働いた。
そろそろ、誰かに代替わりしたいが……。そこまで考えて、アスタロトやベールの顔が浮かんだ。彼らが許さないか。ベルゼビュートもああ見えて、頑固だ。他の主君など認めないだろう。ルキフェルは環境が激変しなければ平気か? いや、無理だな。自尊心が高すぎる。
結局、四人いる大公はルシファー以外を魔王に認めない。ならこのまま体制を維持するのが、一番平和かも知れないな。自分が楽をすることを優先し、魔族や大公達に不自由を強いる気はない。どこまでいっても、ルシファーは魔王だった。
引退したとしても気になって、おちおち休んでいられないはず。理由を付けては顔を出し、口を挟み、解決に動いてしまう。だからこそ民も王として認めるのだ。
「おぉおお!」
「違いますぞ、若君。おぉおぉ! です」
ヤンの指導が飛び、シャイターンが再び吠える。だが微妙に響きが違い、くすっと笑った。
「どうしたの?」
ぼんやりしたリリスの声に、起こしたかと気にしながら囁いた。
「幸せだなと思った」
「うん……私も」
ほわりと笑ったリリスは再び眠りに落ちていく。肩を抱き寄せてくっ付き、彼女の黒髪を優しく撫でた。
城門前で拾ったあの日、手離してはならないと強く感じた。その感覚は正しかったな。もしリリスがいなければ、魔王妃になることを承諾してくれなければ、オレが世界を滅ぼしていたかも知れない。長寿であるということは、変化に慣れること。新しい刺激がなければ、倦んでしまう。
「愛してる、リリス」
眠る妻からの返答はないが、寝顔に僅かな笑みが滲んだ。無意識でもオレを受け止めてくれるリリスがいて良かった。ベールがルキフェルを溺愛するのも、依存する相手が必要だったのだと分かる。アスタロトが何度も結婚を繰り返し、別れに狂ったとしても。何度も婚活に失敗しながら、伴侶選びを諦めなかったベルゼビュートも同様だ。
孤独に耐えられる時間に個人差があったとしても、いつかは破綻する。本能でそれを理解するオレ達は、片割れとなる魂を求め続けた。それぞれに得られたのだから、運がいい。いや、それすら魔の森の思し召しか。
愛しい妻の寝息に誘われて、暖かな日差しを浴びながら目を閉じる。目覚めたら何をしようか。明日から数日予定がないから、どこかへ旅行してもいい。視察と称して旅行を延長できないか、相談しよう。イヴやシャイターンも誘って……。
The END of Tomorrow.
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お読みいただきありがとうございました。前作「魔王様、溺愛しすぎです!」がおよそ230万文字、続編が80万文字の大作になりました。本当にありがとうございます。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/9758297
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