【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
524 / 530
第30章 受け継がれる未来へ

522.迷惑をかけられるのも幸せ

しおりを挟む
 アスタロトと別れて戻った部屋は、派手に散らかっていた。空き巣でも入ったかと心配するレベルだが、慣れているルシファーは入り口付近のワンピースを拾った。続いて隣の上着、それから靴が片方だけ。

 魔力で浮遊させながら、ひとつずつ拾っていく。やがて奥から愛する奥様が顔を見せた。

「お帰りなさい、ルシファー。散らかしたのは後で片付けてもらうわ」

 ここで、後で片付けると言わないのがリリスだ。それを許すルシファーという土壌があって、初めて出てくる強烈な個性あった。散らかした自覚はあるが、片付けるのはルシファー。侍女や侍従には仕事があるから任せると可哀想と言い切る彼女は、夫に任せることは当たり前だと思っていた。

 非常識という勿れ、こんなリリスの横暴を「可愛い、可愛い」と許したルシファーの自業自得なのだから。そして迷惑だと考えていない。

 拾った服をすべて一度収納へ放り込み、選んだブラウスを手に唸るリリスに近づいた。

「どうしたんだ?」

「このブラウスがいいの。でもこれに似合う買ったスカートがないのよ」

 言葉足らずは昔から。似合うスカートがないのではなく、買ったスカートが行方不明なのだ。僅かな響きや不自然な単語から読み解き、ルシファーは落ちている服を纏めて収納へ投げ込んだ。そこからスカートだけを指定して引っ張り出す。

「これはどうだ?」

「それじゃなくて、綺麗なミントの……あ、そっちよ!」

 両手に取り出した数枚の中から、リリスが大喜びで指定したのは……お気に入りの一枚だった。一緒に視察へ向かった際に購入し、愛用している。数十枚のスカートがあっても、いつも同じスカートを選んで着用する傾向が強かった。

 リリスに手渡し、着替える間にシャイターンを手招きした。

「おいで、カッコよく仕上げよう」

「パパみたいなのがいい」

「そうか? じゃあ、これがいいな」

 収納空間が使える魔族は、驚くほど物持ちがいい。使ってすぐ保管し、また取り出す繰り返しがそうさせるのか。ベール達に攻撃されていた頃手に入れた、一枚のローブを引っ張り出した。

 ルシファーは裸でも問題なかったが、さすがに見かねたアスタロトが差し入れたのだ。紺に近い紫色だった。深い色が白い肌に映える。それを手直しし、シャイターンに被せた。

「ありがとう!」

 父親のローブ姿はカッコイイと認識するシャイターンは、大喜びでくるりと回った。

「どう? 似合う?」

 くーんと鼻を鳴らすロアに「よかった」と抱き付く。褒められたらしい。それはいいのだが、ローブを用意したのはルシファーだ。父親に最初に見せるべきでは? と拗ねて肩を落とした。

「イヴは帰ってきた?」

「まだよ」

 もうすぐ晩餐の時間だというのに、リリスはけろりと返した。

「すぐ探さないと!」

「危険があれば、森が知らせてくれるわ。あまり干渉しすぎると、嫌われちゃうわよ」

「え? 嫌う……」

 呆然とする夫と腕を組み、リリスは息子に微笑み掛けた。

「私達は先に行くけど、どうする?」

「一緒に行く」

 パパが気の毒だ。そんな顔でシャイターンは、ロアに抱き付いた。ロアも慣れたもので、嬉しそうに鼻を寄せてぺろりと頬を舐める。

 仲睦まじい魔王の末っ子と番をよそに、ルシファーは引っ張られるまま晩餐が行われる広間へ向かった。

 広間に用意された椅子に腰掛けたルシファーは、少し離れた場所に娘の姿を見つけた。両親の代行で出席するゴルティーの隣に、まるで家族のように座っている。

「許さん、絶対に許さんぞ」

 ぎりりと歯軋りの音をさせて悔しがる夫に、リリスはワインを勧めた。

「厳しくすると、さらに燃え上がると聞いたわ。放っておきなさい」

 反論しようとしたところへ、大公達が顔を見せる。ルシファーは言葉をぐっと飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。※書籍化に伴い「転生少女は異世界でお店を始めたい」から「転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!」に改題いたしました。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

処理中です...