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第29章 魔の森の大祭

508.いつもより攻めていくよ

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 解くと肩甲骨を覆い隠す長さの髪が、さらりと揺れる。柔らかな猫っ毛は、氷のように淡い青だ。以前より色が薄くなったのは、魔力が増えた証拠だろう。

 それを乱暴に掻き上げ、ルキフェルはにやりと笑う。口の端から覗く鋭い牙は、普段は表に出さない彼の獰猛な本性を示すようだった。

「いつもより攻めていくよ」

「ああ、構わん」

 足元に寄り添って座るケルベロスが、するりと元の姿に戻る。ルシファーの指が柄を握った。風を起こして浮き上がったルキフェルの体が、ぶわりと膨張する。一瞬で倍になり、すぐまた大きくなった。

 青い鱗を持つ瑠璃竜王は、その名に相応しい威厳ある姿で羽を広げた。爪のある羽の被膜が、風を受けて光を弾く。裂けた口元に鋭い牙が並び、長い尻尾がゆらりと振られた。

「いつ見ても綺麗な鱗だな」

 感心したように呟くルシファーの声に、思わず押し黙った観衆が声を上げる。

「頑張れ、竜族の誇りを見せろ!!」

「魔王様、潰されないようにね」

「すげぇ、あんな鮮やかなんだな」

 様々な声に混じり、イヴの「パッパ、頑張れ」が届く。魔王チャレンジのため鍛えていたレラジェが合流し、シャイターンを膝に乗せた。仲良し三人は、リリスと一緒にヤンの背中で寛ぐ。魔王の結界があるので、攻撃が飛んできても弾かれるだろう。

「ここが一番安全だね」

「そうね、レラジェ。何か食べる?」

「うーん、この後戦うからその後にするよ」

 のんびりした会話に頷くリリスだが、ソファー代わりのヤンは複雑な思いで聞いていた。アラエルの後はレラジェが戦う。その相手は当然魔王ルシファーで、義理とはいえ親子対決なのでは?

 現時点で誰も指摘していないが、魔族ならさほど問題ではない。親子で長の地位を懸けて戦うのは、魔獣ならよくあることだった。ヤンもすぐに「我が君なら気づいておられるはず」とあっさり考えを放棄する。

 実際のところ、ルシファーは何も気づいてないのだが。いつも周囲が勝手に深読みしてくれ、それに救われ続けていた。

 ぐああぁぁぁ! 大きな声で吠えたルキフェルが、ルシファーへブレスを放つ。当然結界で防ぐと思いきや、ルシファーはデスサイズをくるりと回して弾いた。空で派手に爆発したブレスが、まるで花火のようだ。

 わっと手を叩いて喜ぶ民だが、降ってきた火の粉はきちんと避けたり消している。この辺は自分の身を自分で守る魔族らしい意識が働いていた。たとえケガをしても、誰かのせいにすることはない。嫌なら見物しなければいいのだから。

 ブレスは牽制だったのか、すぐに急降下したルキフェルが途中で姿勢を変えて尻尾を振った。質量に加速を加えて攻撃にする。デスサイズの柄を両手で握って盾のように翳した。

 ルシファーの背後に、回り込む尻尾の先が迫る。太い部分で叩くように見せかけ、後ろから突き刺す動きで狙った。ルシファーの翼の付け根に、もう一対の翼が現れる。その勢いと魔力を利用して、派手な音で弾いた。ガキン、と金属がぶつかるような音が響く。

「ルキフェル、動きが単調だぞ」

「言ってくれるね、なら……こういうのは?」

 ばさりと羽を動かした直後、何もない空間に大量の魔法陣が浮かぶ。用意されていた攻撃が一斉に降り注いだ。火の矢、氷の剣、風の刃、雷の光も混じっていた。ひとつずつ相殺していくルシファーは楽しそうに口角を引き上げた。

 複数の属性を叩きつける攻撃は、通過する可能性が高い。一つがルシファーの衣を引き裂いた。左の袖を切られたルシファーは、僅かに眉尻を上げる。

「っ、見事!」

「まだまだぁ!!」

 魔法だけでなく、磨いた水晶や鉄の剣も混じっていた。物理と魔法を上手に混ぜて、目眩しをかけて叩き付ける。見ている方は息をつく間もないが、ルシファーは己に向かうすべてを受け止め切った。
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