510 / 530
第29章 魔の森の大祭
508.いつもより攻めていくよ
しおりを挟む
解くと肩甲骨を覆い隠す長さの髪が、さらりと揺れる。柔らかな猫っ毛は、氷のように淡い青だ。以前より色が薄くなったのは、魔力が増えた証拠だろう。
それを乱暴に掻き上げ、ルキフェルはにやりと笑う。口の端から覗く鋭い牙は、普段は表に出さない彼の獰猛な本性を示すようだった。
「いつもより攻めていくよ」
「ああ、構わん」
足元に寄り添って座るケルベロスが、するりと元の姿に戻る。ルシファーの指が柄を握った。風を起こして浮き上がったルキフェルの体が、ぶわりと膨張する。一瞬で倍になり、すぐまた大きくなった。
青い鱗を持つ瑠璃竜王は、その名に相応しい威厳ある姿で羽を広げた。爪のある羽の被膜が、風を受けて光を弾く。裂けた口元に鋭い牙が並び、長い尻尾がゆらりと振られた。
「いつ見ても綺麗な鱗だな」
感心したように呟くルシファーの声に、思わず押し黙った観衆が声を上げる。
「頑張れ、竜族の誇りを見せろ!!」
「魔王様、潰されないようにね」
「すげぇ、あんな鮮やかなんだな」
様々な声に混じり、イヴの「パッパ、頑張れ」が届く。魔王チャレンジのため鍛えていたレラジェが合流し、シャイターンを膝に乗せた。仲良し三人は、リリスと一緒にヤンの背中で寛ぐ。魔王の結界があるので、攻撃が飛んできても弾かれるだろう。
「ここが一番安全だね」
「そうね、レラジェ。何か食べる?」
「うーん、この後戦うからその後にするよ」
のんびりした会話に頷くリリスだが、ソファー代わりのヤンは複雑な思いで聞いていた。アラエルの後はレラジェが戦う。その相手は当然魔王ルシファーで、義理とはいえ親子対決なのでは?
現時点で誰も指摘していないが、魔族ならさほど問題ではない。親子で長の地位を懸けて戦うのは、魔獣ならよくあることだった。ヤンもすぐに「我が君なら気づいておられるはず」とあっさり考えを放棄する。
実際のところ、ルシファーは何も気づいてないのだが。いつも周囲が勝手に深読みしてくれ、それに救われ続けていた。
ぐああぁぁぁ! 大きな声で吠えたルキフェルが、ルシファーへブレスを放つ。当然結界で防ぐと思いきや、ルシファーはデスサイズをくるりと回して弾いた。空で派手に爆発したブレスが、まるで花火のようだ。
わっと手を叩いて喜ぶ民だが、降ってきた火の粉はきちんと避けたり消している。この辺は自分の身を自分で守る魔族らしい意識が働いていた。たとえケガをしても、誰かのせいにすることはない。嫌なら見物しなければいいのだから。
ブレスは牽制だったのか、すぐに急降下したルキフェルが途中で姿勢を変えて尻尾を振った。質量に加速を加えて攻撃にする。デスサイズの柄を両手で握って盾のように翳した。
ルシファーの背後に、回り込む尻尾の先が迫る。太い部分で叩くように見せかけ、後ろから突き刺す動きで狙った。ルシファーの翼の付け根に、もう一対の翼が現れる。その勢いと魔力を利用して、派手な音で弾いた。ガキン、と金属がぶつかるような音が響く。
「ルキフェル、動きが単調だぞ」
「言ってくれるね、なら……こういうのは?」
ばさりと羽を動かした直後、何もない空間に大量の魔法陣が浮かぶ。用意されていた攻撃が一斉に降り注いだ。火の矢、氷の剣、風の刃、雷の光も混じっていた。ひとつずつ相殺していくルシファーは楽しそうに口角を引き上げた。
複数の属性を叩きつける攻撃は、通過する可能性が高い。一つがルシファーの衣を引き裂いた。左の袖を切られたルシファーは、僅かに眉尻を上げる。
「っ、見事!」
「まだまだぁ!!」
魔法だけでなく、磨いた水晶や鉄の剣も混じっていた。物理と魔法を上手に混ぜて、目眩しをかけて叩き付ける。見ている方は息をつく間もないが、ルシファーは己に向かうすべてを受け止め切った。
それを乱暴に掻き上げ、ルキフェルはにやりと笑う。口の端から覗く鋭い牙は、普段は表に出さない彼の獰猛な本性を示すようだった。
「いつもより攻めていくよ」
「ああ、構わん」
足元に寄り添って座るケルベロスが、するりと元の姿に戻る。ルシファーの指が柄を握った。風を起こして浮き上がったルキフェルの体が、ぶわりと膨張する。一瞬で倍になり、すぐまた大きくなった。
青い鱗を持つ瑠璃竜王は、その名に相応しい威厳ある姿で羽を広げた。爪のある羽の被膜が、風を受けて光を弾く。裂けた口元に鋭い牙が並び、長い尻尾がゆらりと振られた。
「いつ見ても綺麗な鱗だな」
感心したように呟くルシファーの声に、思わず押し黙った観衆が声を上げる。
「頑張れ、竜族の誇りを見せろ!!」
「魔王様、潰されないようにね」
「すげぇ、あんな鮮やかなんだな」
様々な声に混じり、イヴの「パッパ、頑張れ」が届く。魔王チャレンジのため鍛えていたレラジェが合流し、シャイターンを膝に乗せた。仲良し三人は、リリスと一緒にヤンの背中で寛ぐ。魔王の結界があるので、攻撃が飛んできても弾かれるだろう。
「ここが一番安全だね」
「そうね、レラジェ。何か食べる?」
「うーん、この後戦うからその後にするよ」
のんびりした会話に頷くリリスだが、ソファー代わりのヤンは複雑な思いで聞いていた。アラエルの後はレラジェが戦う。その相手は当然魔王ルシファーで、義理とはいえ親子対決なのでは?
現時点で誰も指摘していないが、魔族ならさほど問題ではない。親子で長の地位を懸けて戦うのは、魔獣ならよくあることだった。ヤンもすぐに「我が君なら気づいておられるはず」とあっさり考えを放棄する。
実際のところ、ルシファーは何も気づいてないのだが。いつも周囲が勝手に深読みしてくれ、それに救われ続けていた。
ぐああぁぁぁ! 大きな声で吠えたルキフェルが、ルシファーへブレスを放つ。当然結界で防ぐと思いきや、ルシファーはデスサイズをくるりと回して弾いた。空で派手に爆発したブレスが、まるで花火のようだ。
わっと手を叩いて喜ぶ民だが、降ってきた火の粉はきちんと避けたり消している。この辺は自分の身を自分で守る魔族らしい意識が働いていた。たとえケガをしても、誰かのせいにすることはない。嫌なら見物しなければいいのだから。
ブレスは牽制だったのか、すぐに急降下したルキフェルが途中で姿勢を変えて尻尾を振った。質量に加速を加えて攻撃にする。デスサイズの柄を両手で握って盾のように翳した。
ルシファーの背後に、回り込む尻尾の先が迫る。太い部分で叩くように見せかけ、後ろから突き刺す動きで狙った。ルシファーの翼の付け根に、もう一対の翼が現れる。その勢いと魔力を利用して、派手な音で弾いた。ガキン、と金属がぶつかるような音が響く。
「ルキフェル、動きが単調だぞ」
「言ってくれるね、なら……こういうのは?」
ばさりと羽を動かした直後、何もない空間に大量の魔法陣が浮かぶ。用意されていた攻撃が一斉に降り注いだ。火の矢、氷の剣、風の刃、雷の光も混じっていた。ひとつずつ相殺していくルシファーは楽しそうに口角を引き上げた。
複数の属性を叩きつける攻撃は、通過する可能性が高い。一つがルシファーの衣を引き裂いた。左の袖を切られたルシファーは、僅かに眉尻を上げる。
「っ、見事!」
「まだまだぁ!!」
魔法だけでなく、磨いた水晶や鉄の剣も混じっていた。物理と魔法を上手に混ぜて、目眩しをかけて叩き付ける。見ている方は息をつく間もないが、ルシファーは己に向かうすべてを受け止め切った。
10
お気に入りに追加
747
あなたにおすすめの小説
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる