上 下
507 / 530
第29章 魔の森の大祭

505.予選を勝ち抜いたのは意外な二人

しおりを挟む
 勝手に予選が始まり、管理するためにベールが動く。サナタキア将軍を監視役に任命し、大急ぎで予選参加者をリスト化した。イポスが受付を担当し、あっという間に数は半数に減る。

「イポス、何をしたのですか」

「簡単です。少なくとも私に勝てる腕の人だけ参加してくださいね、とお伝えしました」

 魔王妃リリスの護衛を務めた彼女の実力は有名だ。その実力者に「私に勝てない者が魔王陛下に挑む気?」と尋ねられたら、辞退する者が続出したのも理解できる。残った半数は運試しと実力を過信した者に分かれた。ある程度は見逃すつもりで、イポスも甘く裁定したようだ。

 予選は驚くべき速さで進行され、サタナキアによって振り分けられた。残されたのは二人、いや一人と一羽だった。

「アラエルとレラジェ……」

 参りましたね。そんな口調で名を呟き、ベールはルシファーの判断を仰ぐことにした。

「ん、二人ともいいんじゃないか」

 あまり深く考えずに了承する魔王に、ベールはいつものことと納得した。そのまま告知する彼を見ながら、アスタロトが眉を寄せる。ここで大公全員が参加すると一人多い。賭けの人数はプラス四人だった。こうなったら自分が参加拒否するか。

「アスタロト、いいところで会いました。悪いのですが、魔王チャレンジを取り仕切ってください。私は海の民の接待がありますので参加しません。詳細はサタナキアに任せています」

「分かりました、海の民によろしく伝えてください」

 にっこり笑って見送る。ベールの参加はない。現時点でプラス二人、こうなれば当然ベルゼビュートが騒ぐはず。普段より露出の高いスリットドレスのベルゼビュートは、ルシファーに参加を告げた。ここでようやく私の出番ですね。アスタロトは悪い顔で笑うと、宣言した。

「では、私も参加しましょう」

「はぁ? あり得ないわ、なんでそうなるのよ!」

 怒り出すベルゼビュートを無視し、さっさと手続きを終える。ピンクの巻き毛を揺らして怒り狂うが、自分が辞退する考えに至らないらしい。賭けに勝つため楽しみを断つか、戦いを選んで金貨を諦めるか。悩むのならわかるが、そもそも選択肢に気づいていないようだ。

「アスタロト、あんたが辞退しなさいよ」

「申し訳ありませんが、辞退する気はありません」

 きっぱり言い切ったことで、ベルゼビュートはぐしゃりと髪をかき乱した。久しぶりの賭けなので、勝ちたかったのだろう。だが孫の賭けを優先するアスタロトは、彼女に助言しない。そうこうしている間に、確定してしまった。

 大公女四人とルキフェル、そこへ予選通過のアラエルやレラジェ。大公のベルゼビュートにアスタロト。見事にエルの予想勝ちだった。呆れ顔のルキフェルは「自分が辞退すりゃ勝ちじゃん」と呟いたが、ベルゼビュートには届かなかった。

 頭が悪いわけではないのに、見落としが多い。そんなベルゼビュートが賭けに勝つか負けるか、実はそれも賭けのひとつだったことを、彼女だけが知らなかった。本人が思うより愛されている彼女は、獣姿の夫に抱き着いて愚痴をこぼす。そんな庶民派な姿が、ベルゼビュートが愛される理由のひとつだった。

「賭けは残念でしたが、あなたの戦いが見られるのは楽しみです」

 エリゴスの見事なサポートで、ベルゼビュートはあっさり立ち直った。負けた半券を破り捨て収納へ放り込む。それから目の前の芝へ剣を並べ始めた。

「今回はどれがいいかしら」

 リリスは「いいなぁ」と羨まし気な呟きを零し、戻ってきたイヴを撫でる。シャイターンはルシファーの抱っこを拒み、ロアの背中でご機嫌だった。

「じゃあ、そろそろ始めるか?」

 ルシファーの一言が魔王チャレンジの宣言となり、わっと観衆が沸き立つ。挑む順序は名乗り出た順番に決まった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

継母の品格 〜 行き遅れ令嬢は、辺境伯と愛娘に溺愛される 〜

出口もぐら
恋愛
【短編】巷で流行りの婚約破棄。  令嬢リリーも例外ではなかった。家柄、剣と共に生きる彼女は「女性らしさ」に欠けるという理由から、婚約破棄を突き付けられる。  彼女の手は研鑽の証でもある、肉刺や擦り傷がある。それを隠すため、いつもレースの手袋をしている。別にそれを恥じたこともなければ、婚約破棄を悲しむほど脆弱ではない。 「行き遅れた令嬢」こればかりはどうしようもない、と諦めていた。  しかし、そこへ辺境伯から婚約の申し出が――。その辺境伯には娘がいた。 「分かりましたわ!これは契約結婚!この小さなお姫様を私にお守りするようにと仰せですのね」  少しばかり天然、快活令嬢の継母ライフ。 ■この作品は「小説家になろう」にも投稿しています。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃
ファンタジー
〈異世界帰還後に彼等が初めて会ったのは、地球ではありえない異形のバケモノたち〉  異世界から帰還した四人を待っていたのは、新たな戦争の幕開けだった。  六年前、米原孝弘たち四人の男女は事故で死ぬ運命だったが異世界に転移させられた。  世界を救って欲しいと無茶振りをされた彼等は、世界を救わねばどのみち地球に帰れないと知り、紆余曲折を経て異世界を救い日本へ帰還した。  これからは日常。ハッピーエンドの後日談を迎える……、はずだった。  しかし。  彼等の前に広がっていたのは凄惨な光景。日本は、世界は、異世界からの侵略者と戦争を繰り広げていた。  彼等は故郷を救うことが出来るのか。  血と硝煙。数々の苦難と絶望があろうとも、ハッピーエンドがその先にあると信じて、四人は戦いに身を投じる。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...