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第28章 子ども達の自立?
490.魔族の王子様の小さな冒険?
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シャイターンは周囲を見回した。大好きな母リリスが見当たらない。過保護な父ルシファーもいなかった。
近くの木を叩いてみるが、リリンも出てこない。ここはどこだろう。疑問に首を傾げながら、茂みの揺れる音に目を輝かせた。
「だれ?」
純白のパパか、漆黒の髪を持つママか。はたまたママに似た姉イヴかも知れない。振り返った背後に現れたのは……見たことのない獣だった。
「がうっ」
ヤンでもない。いつも遊んでくれる灰色魔狼に似ているが、ちょっと違う。怖いとは思わず、ただ俯いた。違う……知ってる人がいない。
幼子なら恐怖を感じる状況だが、シャイターンは本当の恐怖を知らない。故にぺたんとお尻から座り込んだ。いつもの部屋でおもちゃを振って遊ぶ時のように。
「くーん」
鼻を寄せたのは、大きな狼だった。ヤンに比べたらかなり小さいが、牛くらいはある。のそのそ近づいて匂いを嗅ぎ、目の前に伏せた。耳も尻尾も下げて、敵意はないと示す。
「おうちっ、うわぁーん」
お家に帰りたい、言いかけて突然悲しくなった。抱き締めてくれるパパやママが見当たらず、声をあげて泣いた。ここでパパとルシファーを呼べば、すぐに駆けつけたのだが。
シャイターンは一人で行動することがなかったので、父親を呼ぶという感覚がない。誰かが側にいて当たり前なのだ。そもそも、さっきまで部屋にいたのにどうして森にいるのか。
様々な感情が過ぎるが、幼すぎて不満に変換された。パパがいないのが悪い。ママやイヴも同じ。ヤンだって全部悪い。
困惑した様子の目の前の狼は、すくっと立ち上がって甲高い声で吠えた。遠吠えの鳴き声にびっくりし、シャイターンは瞬きする。涙が止まった。その顔をべろんと大きな舌が舐め、狼は襟を咥えたシャイターンを背に乗せる。
「おうち?」
「くーん」
鼻を鳴らす声に抱きついた。あまり揺らさぬよう注意しながら、狼はシャイターンを運ぶ。森の木々の間を抜け、下生えの茂みを飛び越し、魔王城へ向かった。
「もっと!」
速く!! そんな声を上げたのは、背のシャイターンだった。魔力を利用して己で狼にしがみ付く。楽しそうな響きに、狼は少しだけ速くする。またせがまれ、さらに速度を上げた。
「っ! おりましたぞ、我が君!!」
斜め前から茂みを割った灰色の狼が合流する。本来の姿では森を抜けるのに都合が悪いのか、跨った狼と同程度だった。ヤンが叫んだ直後、パパがヤンの背中に現れる。
「シャイターン、良かった。どうやって外へ出たんだ」
困った奴だと笑うパパは自分と同じようにヤンに跨っている。速度を落として止まった狼は、パパの前で伏せた。よく見れば、色は薄いけれどヤンによく似た狼だ。
一緒に立ち止まるヤンの背から飛び降りた父ルシファーが手を伸ばす。素直に両手を出して「だっこ」と口にした。純白の髪を握り、温かな腕にほっとする。
「シャイターン、勝手に出かけたらダメだぞ」
左へ首を傾けた。同じ動きをするパパに、今度は反対へ傾ける。
何と説明すればいいのか。シャイターンは言葉が達者ではない。勝手に出かけたのではなく、目が覚めたら外にいたのだ。そこに主体性がなかったことを、説明できなかった。
ただ、頷くのは違うと感じて首を横に振る。困ったような顔をしながらも、ルシファーはそれ以上言わなかった。フェンリルのヤンと狼は伏せて見守っている。
「シャイターン! きゃぁ!」
叫んで空中に現れたママを、大急ぎでパパが受け止めた。そこへ「ママ!」と呼ぶイヴも現れる。手が足りず、パパは魔法を使ったみたい。イヴはふわふわ浮きながら、ヤンの上に下ろされた。
「ちょうどいい。ここで朝食にするか」
「いいわね」
「ヤンの分もある?」
ざわざわと騒がしくなり、シャイターンは笑顔を見せる。なんだか分からないけど、皆がいればいい。強くそう思った。
近くの木を叩いてみるが、リリンも出てこない。ここはどこだろう。疑問に首を傾げながら、茂みの揺れる音に目を輝かせた。
「だれ?」
純白のパパか、漆黒の髪を持つママか。はたまたママに似た姉イヴかも知れない。振り返った背後に現れたのは……見たことのない獣だった。
「がうっ」
ヤンでもない。いつも遊んでくれる灰色魔狼に似ているが、ちょっと違う。怖いとは思わず、ただ俯いた。違う……知ってる人がいない。
幼子なら恐怖を感じる状況だが、シャイターンは本当の恐怖を知らない。故にぺたんとお尻から座り込んだ。いつもの部屋でおもちゃを振って遊ぶ時のように。
「くーん」
鼻を寄せたのは、大きな狼だった。ヤンに比べたらかなり小さいが、牛くらいはある。のそのそ近づいて匂いを嗅ぎ、目の前に伏せた。耳も尻尾も下げて、敵意はないと示す。
「おうちっ、うわぁーん」
お家に帰りたい、言いかけて突然悲しくなった。抱き締めてくれるパパやママが見当たらず、声をあげて泣いた。ここでパパとルシファーを呼べば、すぐに駆けつけたのだが。
シャイターンは一人で行動することがなかったので、父親を呼ぶという感覚がない。誰かが側にいて当たり前なのだ。そもそも、さっきまで部屋にいたのにどうして森にいるのか。
様々な感情が過ぎるが、幼すぎて不満に変換された。パパがいないのが悪い。ママやイヴも同じ。ヤンだって全部悪い。
困惑した様子の目の前の狼は、すくっと立ち上がって甲高い声で吠えた。遠吠えの鳴き声にびっくりし、シャイターンは瞬きする。涙が止まった。その顔をべろんと大きな舌が舐め、狼は襟を咥えたシャイターンを背に乗せる。
「おうち?」
「くーん」
鼻を鳴らす声に抱きついた。あまり揺らさぬよう注意しながら、狼はシャイターンを運ぶ。森の木々の間を抜け、下生えの茂みを飛び越し、魔王城へ向かった。
「もっと!」
速く!! そんな声を上げたのは、背のシャイターンだった。魔力を利用して己で狼にしがみ付く。楽しそうな響きに、狼は少しだけ速くする。またせがまれ、さらに速度を上げた。
「っ! おりましたぞ、我が君!!」
斜め前から茂みを割った灰色の狼が合流する。本来の姿では森を抜けるのに都合が悪いのか、跨った狼と同程度だった。ヤンが叫んだ直後、パパがヤンの背中に現れる。
「シャイターン、良かった。どうやって外へ出たんだ」
困った奴だと笑うパパは自分と同じようにヤンに跨っている。速度を落として止まった狼は、パパの前で伏せた。よく見れば、色は薄いけれどヤンによく似た狼だ。
一緒に立ち止まるヤンの背から飛び降りた父ルシファーが手を伸ばす。素直に両手を出して「だっこ」と口にした。純白の髪を握り、温かな腕にほっとする。
「シャイターン、勝手に出かけたらダメだぞ」
左へ首を傾けた。同じ動きをするパパに、今度は反対へ傾ける。
何と説明すればいいのか。シャイターンは言葉が達者ではない。勝手に出かけたのではなく、目が覚めたら外にいたのだ。そこに主体性がなかったことを、説明できなかった。
ただ、頷くのは違うと感じて首を横に振る。困ったような顔をしながらも、ルシファーはそれ以上言わなかった。フェンリルのヤンと狼は伏せて見守っている。
「シャイターン! きゃぁ!」
叫んで空中に現れたママを、大急ぎでパパが受け止めた。そこへ「ママ!」と呼ぶイヴも現れる。手が足りず、パパは魔法を使ったみたい。イヴはふわふわ浮きながら、ヤンの上に下ろされた。
「ちょうどいい。ここで朝食にするか」
「いいわね」
「ヤンの分もある?」
ざわざわと騒がしくなり、シャイターンは笑顔を見せる。なんだか分からないけど、皆がいればいい。強くそう思った。
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