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第27章 春の芽吹き
484.幽霊の正体見たり?
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「水脈を逆流させるのは難しいので、大きく潮が引く半月後に解放する予定だったそうです」
ルーサルカは眉尻を下げて、困ったような顔で説明した。助けられた五人は呆然としながらも、彼女を責める言葉はない。見当違いの罵声はなかった。
ルシファーは収納から取り出した果物を彼らに分け与え、全員を街の入り口まで送り届けた。無事帰れるとあれば、それ以上不満はない。だがルーサルカや海の珊瑚の話を広められると困るので、口止めも行った。
「ええ、まだ若いお嬢さんが責められたら可哀想ですし」
「え? 大公女様は全員既婚でいらしただろ。お嬢さんじゃなくて奥さんだ」
「そうなのか?」
年上の二人はそう首を傾げ、女性達も穏やかな口調で笑い飛ばした。
「海の人達も、徐々に慣れてくるでしょうから」
「夫に勘繰られなければ、何でもいいです」
彼と彼女らの潔白は、同行したルシファーがきっちりと説明した。一応、異世界への穴に落ちたらしい……と。以前に実際あった事件に絡め、誤魔化したのだ。魔王妃リリスが「こんなおっきい穴だったのよ」と調子に乗って両手を広げたため、しばらく森への立ち入りが禁止された。
「リリス、嘘はそれっぽく誤魔化しながら吐くもので、詳細はいらないんだ」
何とも情けない説明をすることになった魔王ルシファーだった。
珊瑚達はアスタロトの脅しに屈し、今後は騒動を起こさない約束をした。一安心である。
「それで、オレの偽者疑惑はどうなったんだ?」
純白の人影、長い白い髪を揺らしていた。明らかに魔王ルシファー以外考えられない。この世界に純白の長い髪を持つのは、彼だけなのだ。
「あれは水蒸気でした」
立ち上る水蒸気が、純白の髪に見えたらしい。さらに匂いに惑わされた目撃者は、多少酔った状態に近かった。誘惑するための匂いは、幻覚作用があったのだ。この辺は採取して、今後の研究結果を待つことになるだろう。
「では冤罪だな」
「冤罪と呼ぶほど犯人扱いしておりません」
アスタロトが苦笑いし、それもそうかとルシファーも納得した。情報から遠ざけられただけで、事情聴取もない。まったく疑われていないが、周囲への説明のために遠ざけた形だった。
「これで一安心か」
「そうね、視察の続きをしましょう。最初のお店の隣にあったケーキは、絶対に美味しいと思うわ。イヴに買ってあげたいの」
「なら寄っていこう」
ふらふらと街へ戻ろうとする魔王夫妻を、笑顔のアスタロトが呼び止めた。ベルゼビュートはそっと距離を置き、さっと消える。
「お二人とも、視察は終わりです。戻りますよ」
「なぜだ?」
「そうよ、いいじゃない」
反論と疑問へ、吸血鬼王はさらりと答えた。
「ルーサルカは疲れていますので、もう帰城します。まさかお二人だけ遊びに行く予定ではありませんよね?」
「あ、お気になさらず」
少し青い顔色でそう言われると、何だか悪いことをしている気になる。お菓子は今度買ってくるからと約束して、全員で転移した。
戻るなりベールに捕まり、執務室へ連行されるルシファー。リリスはイヴのお迎えに行き、途中で保育所のシャイターンも回収した。
「オレは仕事をしてきたんだぞ」
「ええ、承知しております。報告書を仕上げるところまでが、出張です」
家に帰るまでが遠足のような言い回しに、ルシファーはなるほどと頷いた。素直にペンを取り、さらさらと時系列を記す。最後に署名してベールに手渡し、大きく伸びをした。
「大きな騒動にならなくて良かった」
「お疲れ様でした、陛下」
珍しく労いの言葉をもらい、目を見開いたルシファーは嬉しそうに笑った。
ルーサルカは眉尻を下げて、困ったような顔で説明した。助けられた五人は呆然としながらも、彼女を責める言葉はない。見当違いの罵声はなかった。
ルシファーは収納から取り出した果物を彼らに分け与え、全員を街の入り口まで送り届けた。無事帰れるとあれば、それ以上不満はない。だがルーサルカや海の珊瑚の話を広められると困るので、口止めも行った。
「ええ、まだ若いお嬢さんが責められたら可哀想ですし」
「え? 大公女様は全員既婚でいらしただろ。お嬢さんじゃなくて奥さんだ」
「そうなのか?」
年上の二人はそう首を傾げ、女性達も穏やかな口調で笑い飛ばした。
「海の人達も、徐々に慣れてくるでしょうから」
「夫に勘繰られなければ、何でもいいです」
彼と彼女らの潔白は、同行したルシファーがきっちりと説明した。一応、異世界への穴に落ちたらしい……と。以前に実際あった事件に絡め、誤魔化したのだ。魔王妃リリスが「こんなおっきい穴だったのよ」と調子に乗って両手を広げたため、しばらく森への立ち入りが禁止された。
「リリス、嘘はそれっぽく誤魔化しながら吐くもので、詳細はいらないんだ」
何とも情けない説明をすることになった魔王ルシファーだった。
珊瑚達はアスタロトの脅しに屈し、今後は騒動を起こさない約束をした。一安心である。
「それで、オレの偽者疑惑はどうなったんだ?」
純白の人影、長い白い髪を揺らしていた。明らかに魔王ルシファー以外考えられない。この世界に純白の長い髪を持つのは、彼だけなのだ。
「あれは水蒸気でした」
立ち上る水蒸気が、純白の髪に見えたらしい。さらに匂いに惑わされた目撃者は、多少酔った状態に近かった。誘惑するための匂いは、幻覚作用があったのだ。この辺は採取して、今後の研究結果を待つことになるだろう。
「では冤罪だな」
「冤罪と呼ぶほど犯人扱いしておりません」
アスタロトが苦笑いし、それもそうかとルシファーも納得した。情報から遠ざけられただけで、事情聴取もない。まったく疑われていないが、周囲への説明のために遠ざけた形だった。
「これで一安心か」
「そうね、視察の続きをしましょう。最初のお店の隣にあったケーキは、絶対に美味しいと思うわ。イヴに買ってあげたいの」
「なら寄っていこう」
ふらふらと街へ戻ろうとする魔王夫妻を、笑顔のアスタロトが呼び止めた。ベルゼビュートはそっと距離を置き、さっと消える。
「お二人とも、視察は終わりです。戻りますよ」
「なぜだ?」
「そうよ、いいじゃない」
反論と疑問へ、吸血鬼王はさらりと答えた。
「ルーサルカは疲れていますので、もう帰城します。まさかお二人だけ遊びに行く予定ではありませんよね?」
「あ、お気になさらず」
少し青い顔色でそう言われると、何だか悪いことをしている気になる。お菓子は今度買ってくるからと約束して、全員で転移した。
戻るなりベールに捕まり、執務室へ連行されるルシファー。リリスはイヴのお迎えに行き、途中で保育所のシャイターンも回収した。
「オレは仕事をしてきたんだぞ」
「ええ、承知しております。報告書を仕上げるところまでが、出張です」
家に帰るまでが遠足のような言い回しに、ルシファーはなるほどと頷いた。素直にペンを取り、さらさらと時系列を記す。最後に署名してベールに手渡し、大きく伸びをした。
「大きな騒動にならなくて良かった」
「お疲れ様でした、陛下」
珍しく労いの言葉をもらい、目を見開いたルシファーは嬉しそうに笑った。
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