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第27章 春の芽吹き
472.子どもは保護されるべき存在です
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「まだ子どもなのに、弟のために働こうとする姉がいた?!」
びっくりしてベルゼビュートの言葉を繰り返す。ルシファーに大きく頷いたベルゼビュートは、少女の姿を空中に映し出した。
どうやら合格者を集める客間らしい。お菓子の詰まったバスケットを大切そうに抱え、猫耳の少女は軽食を頬張っている。夢中になって食べる彼女の周囲には、やはり合格になった大人が数人寛いでいた。
体格差を比べるまでもなく、種族の違いを鑑みても……明らかに子どもだった。それも飢えている様子だ。
「子どもの保護施設って、今いっぱいだったか?」
後ろで驚いているアスタロトに尋ねる。記憶している空き状況を確認し、アスタロトは首を横に振った。
「いえ、今は空きがあります」
「じゃあ、どうして頼らなかったんだろう」
ルシファーは首を傾げた。少女アイムの事情は不明ながら、こういった状況にアスタロトは心当たりがあった。まず、保護者が亡くなったばかりの事例。孤児である姉弟を引き取った者が、何らかの事情で手を離した場合。そして……本人達が頼ることを拒んだパターンだ。
「事情を尋ねるのが先ですね」
「アスタロトでは怯えるだろうから、オレが聞いてくる」
考え事をしながら漏れた本音に、側近の顔が満面の笑みになる。その笑顔に、ベルゼビュートは本能的な恐怖を感じた。じりじりと距離を置く。
「そうですか、私では怯える、と? 断言なさるのですね」
「……っ! 失言を詫びる。えっと、その……お前に手間をかけたら悪いと思って。ほら、今は忙しいから」
言い訳を並べるほど、アスタロトの口角が持ち上がっていく。これ以上は耐えられない。そう感じたところで、許されたらしい。
「いいでしょう、あなたにお任せします。きちんと報告してくださいね、ルシファー様」
釘を刺されながら、ルシファーは頷いた。ここでうっかりした一言を漏らせば、今度こそ痛い目を見る。過去の経験が警告を発していた。
忙しいアスタロトがベールと合流するのを見送り、残った二人は大きく息を吐き出した。怖かったな、目でそう合図するものの声に出さない。ええ、本当に。答えるベルゼビュートも同様だった。
「ベルゼはもう試験が終わったんだよな? だったら、一緒に来てくれ」
合格者の待つ客間へ向かい、ソファで足を揺らす少女に近づいた。アイムは大きな猫目を見開く。それからぽっと頬を赤らめた。魔王の美貌は少女にも効果が高い。
「アイムちゃん、こちらが魔王陛下よ」
すでに顔見知りのベルゼビュートが紹介したことで、アイムは警戒を解いた。尻尾がぴんとして緊張を示していたのに、今はゆらゆらと揺れている。
「合格おめでとう、アイム。教師の仕事は確保したよ。それで、いくつか聞いてもいいかな?」
安心できる材料から口にする。この辺は、経験豊富なルシファーらしい切り出し方だった。屈んで視線を合わせるルシファーが、目を細める。その笑顔に釣られたように、アイムもゆったりと瞬いた。
「何ですか?」
「弟がいると聞いたけど、名前は?」
「シエル」
「いい名前だね。誰と暮らしているのかな。教師になったら寮も用意する予定だけど、入りたいかい?」
「弟も入れるなら」
「もちろん、家族は一緒でいいよ」
他の家族もいるか、遠回しに確かめる。ここで「母親も一緒に」などの言葉が出れば、親が子どもの面倒を見られない状況にある可能性が高い。ぱちりと瞬いたアイムは溜め息を吐いた。
「直接聞いてください。弟以外の家族はいません。住むところもないので、寮は入りたいです。保護者は先日いなくなりました」
「っ! 嫌な聞き方をして悪かった」
むっとした口調で捲し立てられ、こちらの思惑や考えを見透かされたことに肩を落とす。すぐに謝罪をして、彼女の反応を待った。
びっくりしてベルゼビュートの言葉を繰り返す。ルシファーに大きく頷いたベルゼビュートは、少女の姿を空中に映し出した。
どうやら合格者を集める客間らしい。お菓子の詰まったバスケットを大切そうに抱え、猫耳の少女は軽食を頬張っている。夢中になって食べる彼女の周囲には、やはり合格になった大人が数人寛いでいた。
体格差を比べるまでもなく、種族の違いを鑑みても……明らかに子どもだった。それも飢えている様子だ。
「子どもの保護施設って、今いっぱいだったか?」
後ろで驚いているアスタロトに尋ねる。記憶している空き状況を確認し、アスタロトは首を横に振った。
「いえ、今は空きがあります」
「じゃあ、どうして頼らなかったんだろう」
ルシファーは首を傾げた。少女アイムの事情は不明ながら、こういった状況にアスタロトは心当たりがあった。まず、保護者が亡くなったばかりの事例。孤児である姉弟を引き取った者が、何らかの事情で手を離した場合。そして……本人達が頼ることを拒んだパターンだ。
「事情を尋ねるのが先ですね」
「アスタロトでは怯えるだろうから、オレが聞いてくる」
考え事をしながら漏れた本音に、側近の顔が満面の笑みになる。その笑顔に、ベルゼビュートは本能的な恐怖を感じた。じりじりと距離を置く。
「そうですか、私では怯える、と? 断言なさるのですね」
「……っ! 失言を詫びる。えっと、その……お前に手間をかけたら悪いと思って。ほら、今は忙しいから」
言い訳を並べるほど、アスタロトの口角が持ち上がっていく。これ以上は耐えられない。そう感じたところで、許されたらしい。
「いいでしょう、あなたにお任せします。きちんと報告してくださいね、ルシファー様」
釘を刺されながら、ルシファーは頷いた。ここでうっかりした一言を漏らせば、今度こそ痛い目を見る。過去の経験が警告を発していた。
忙しいアスタロトがベールと合流するのを見送り、残った二人は大きく息を吐き出した。怖かったな、目でそう合図するものの声に出さない。ええ、本当に。答えるベルゼビュートも同様だった。
「ベルゼはもう試験が終わったんだよな? だったら、一緒に来てくれ」
合格者の待つ客間へ向かい、ソファで足を揺らす少女に近づいた。アイムは大きな猫目を見開く。それからぽっと頬を赤らめた。魔王の美貌は少女にも効果が高い。
「アイムちゃん、こちらが魔王陛下よ」
すでに顔見知りのベルゼビュートが紹介したことで、アイムは警戒を解いた。尻尾がぴんとして緊張を示していたのに、今はゆらゆらと揺れている。
「合格おめでとう、アイム。教師の仕事は確保したよ。それで、いくつか聞いてもいいかな?」
安心できる材料から口にする。この辺は、経験豊富なルシファーらしい切り出し方だった。屈んで視線を合わせるルシファーが、目を細める。その笑顔に釣られたように、アイムもゆったりと瞬いた。
「何ですか?」
「弟がいると聞いたけど、名前は?」
「シエル」
「いい名前だね。誰と暮らしているのかな。教師になったら寮も用意する予定だけど、入りたいかい?」
「弟も入れるなら」
「もちろん、家族は一緒でいいよ」
他の家族もいるか、遠回しに確かめる。ここで「母親も一緒に」などの言葉が出れば、親が子どもの面倒を見られない状況にある可能性が高い。ぱちりと瞬いたアイムは溜め息を吐いた。
「直接聞いてください。弟以外の家族はいません。住むところもないので、寮は入りたいです。保護者は先日いなくなりました」
「っ! 嫌な聞き方をして悪かった」
むっとした口調で捲し立てられ、こちらの思惑や考えを見透かされたことに肩を落とす。すぐに謝罪をして、彼女の反応を待った。
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