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第26章 魔の森の目覚め

464.ベルゼビュートの息子は思春期?

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 かつて人族の領域であった土地を、魔の森が支配した。緩衝材として残された森も、侵食されて消えていく。魔力のない土地は貪欲に魔力を吸い込んだ。その地を支配した圧倒的な数の人族が滅び、彼らが森から搾取した魔力が解放される。

 最終的な収支は、魔の森にプラスとなったらしい。さっと弾き出したベルゼビュートは、我が子ジルを連れて報告書を提出した。豊満な胸に顔を埋める形のジルは、必死で抵抗している。

「ベルゼ、ジルが窒息するぞ」

「大丈夫ですわ。もう半日もこの状態ですもの」

 一般的には侍従のコボルトの呟き通り、羨ましい状況なのだろう。だが彼女の口ぶりでは、罰のようだ。実際逃げられらないよう、両手足を拘束されていた。

 赤子を背負うおんぶ紐のように、ジルはがっちりホールドされている。

「何があったんだ?」

「聞いてくださいませ、陛下。ジルったら、学校の参観日に私が来ると恥ずかしいから、来なくていいと言ったんですのよ!!」

「……そうか」

 複雑な気持ちでルシファーが頷く。もし可愛いイヴにそんなこと言われたら、パッパは嫌いと拒まれたら……軽く数回は死ねる。想像だけでもう泣きそうだった。

「ベルゼビュートの何が気に入らないんだ?」

 尋ねられたジルは、首を捩って叫んだ。

「この胸です!」

「胸……」

 確かに大きいが、その胸で乳をもらって育ったのだろう? まあ、リリスの時は出なかったが。不思議そうなルシファーの様子に、ジルがもごもごと続けた言葉は、胸に埋もれて聞こえなかった。

「話をする間、ジルを解放してくれ」

「分かりましたわ」

 素直に執務室で拘束を解いたベルゼビュート。逃げようとしたジルだが、精霊達に追い詰められた。ジルは父親に似て、獣人系である。となれば、ベルゼビュートに従う精霊は容赦しない。丸まって尻尾を抱いて震える姿に、ルシファーが制止した。

「それ以上手出しするなよ。ジルも逃げない、そう約束できるな?」

 こくんと頷く少年を手招きし、結界で包んで安心させる。鼻水を垂らし涙でぐしゃぐしゃのジルは、苦笑いしたアスタロトの用意したカップを受け取った。きちんとお礼が言えるので、心根は真っ直ぐなのだろう。

「どうして母親の胸が嫌なんだ?」

「あんな……おっきい胸で、それを強調する格好して、周りにじろじろ見られるの……嫌だ」

 年頃、思春期。そう称するには少し早いが、ルシファー達も理解できない感情じゃない。自分達はあまり精神的な成長期はなかった。だから経験はないが、魔族の相談役をしていれば話は舞い込む。

 好きな子が出来たり、なぜか一人が気になってソワソワしたり、春が来ると遠吠えしたくなったり。相談は多岐に渡るが、思春期の悩みも多かった。

「胸が大きいのは特徴だ。個性を責めてはダメだぞ」

 唇を尖らせたジルへ、今度は彼の味方になる言葉を向ける。

「だが、胸を強調するドレスでなければ、少しマシなのではないか? 例えば首まできっちり覆われた服……」

「それなら……我慢する」

 我慢と言われて、ベルゼビュートは複雑だった。胸が大きいのは仕方ないが、まさか服装もアウトだとは。自分の好きな服を着て過ごしてきたし、戦う時は布の少ない服の方がいい。雰囲気や気配を肌で感じる精霊族の特徴だった。

 しかし戦うわけでなければ、服装の変更は可能だ。息子が嫌だというなら、そこは譲るつもりはあった。

「それなら……嫌じゃない」

 不器用な息子の意思表示に、感極まったベルゼビュートが抱きつく。それを嫌がる姿に「あれが原因ではないでしょうか」と眉を寄せるアスタロトは、思春期の少年を救い出すべく手を差し伸べた。
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