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第25章 蘇った過去の思い出
448.アスモデウスとの確執を聞きたいわ
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レラジェとイヴを並べて、二人にアデーレの話をした。あっさりと「保育園へ行く」と返事がある。てっきり残ってアデーレに会うとごねるのでは? と考えていたので、心配の消えたルシファーは、護衛のヤンをつけて送り出した。
「我が君、我の話した通りでしたな」
得意げなフェンリルに「そうだな」と笑って相槌を打つ。これがイザヤの言っていた「案ずるより産むが易し」だろうか。見送って執務室で書類を片付けるが、珍しく午前中で終わってしまった。
「ルシファー、お昼食べられる?」
時間があるかと聞きに来たリリスに頷き、アスタロトを誘って昼食を取った。ちなみに彼はこの後アデーレを迎えに行く。嬉しそうなリリスはお茶の支度を始め、さまざまなお菓子も並べた。今日のアデーレは魔王城の侍女長ではなく、アスタロト大公夫人だ。誘って断られることはないだろう。
「シャイターンとアデーレの娘さん、歳が近いから仲良くなれるといいわね」
「ああ、そうなるといいな」
末息子を抱いた妻を手招きし、久しぶりに膝に座らせる。イヴもいないし問題ないと考え、手櫛で黒髪を整えた。あっという間に編み上げていく。リリスを養女にしてから、ルシファーが覚えたことの一つだった。
今日のイヴの黒髪も丁寧に梳いて椿油を馴染ませ、可愛くツインテールに仕上げた。ツインテールという呼び方は、イザヤの小説から覚えたのだが、かつては二本角呼ばわりされた時期もある。
「ねぇ、アスモデウスって何をしたの?」
「突然どうしたんだ」
「アシュタが気にかけてるじゃない? ルシファーもそうだけど、あんなに嫌われるなんて何をしたのかと思って」
もっともな疑問だ。何も知らない現在の魔族から見れば、子犬を虐めているように見えるかも知れない。事情を知っていたら、あれでは生ぬるいと感じるだろう。いかにアスタロトが己の怒りや憎しみをコントロールし、八つ当たりせず我慢しているか。
「勝手に話すとアスタロトが怖いから、確認してからにしよう」
「構いませんよ」
ノックの音を聞き漏らした。開いた扉の先で、妻アデーレをエスコートするアスタロトが肩を竦める。帰ったついでに、アスモデウスは置いてきたらしい。
アデーレは娘モルガーナを抱いていた。吸血種の赤子は、成長が遅い。あと数ヶ月は寝返りも打たないほどに。ほぼ生まれたばかりと変わらないモルガーナは、小さな指をにぎにぎと動かした。
「久しぶり、アデーレ。こちらへ座って」
「ありがとうございます。リリス様もお元気で安心しました」
挨拶が終わると、シャイターンは専用のベビーベッドに寝かされる。アデーレはどうするのか見守れば、アスタロトが同じようにベッドを収納から取り出していた。そっと寝かされたモルガーナは、はふぅと欠伸をひとつ。
「アスタロトと同じ赤い目だわ」
覗き込んだリリスが微笑む。元は自分も赤い瞳だったが、現在は金色だ。縦の瞳孔も吸血種である両親譲りで、モルガーナの色彩は父親譲りだった。やや色の濃いアデーレの髪に影響されたのか、髪色は金茶で肌も象牙色に近い。柔らかな髪はくるくると巻いて、綿毛のようだった。
「顔立ちはアデーレ、色はアシュタに似たのね」
「ええ。顔も夫に似たらいいのに」
「アデーレによく似た娘だなんて、モルガーナは生まれながらに父親孝行していますよ」
アスタロトが会話に口を挟み、会話が一段落してベビーベッドを離れる。お茶を飲み始めた和やかな雰囲気を、リリスは平然と破った。
「アシュタ、アスモデウスとの確執を聞きたいわ。さっき話しても構わないって言ったでしょう? 気になるの」
確執だと思うなら、触らないのが吉。そう考えるルシファーはお茶を吸い込んで咽せ、アデーレは齧った残りのお菓子を落とした。アスタロトはゆっくりカップをソーサーへ戻し、少し考える。
「いいですよ、別に隠しているわけでもありませんから」
「我が君、我の話した通りでしたな」
得意げなフェンリルに「そうだな」と笑って相槌を打つ。これがイザヤの言っていた「案ずるより産むが易し」だろうか。見送って執務室で書類を片付けるが、珍しく午前中で終わってしまった。
「ルシファー、お昼食べられる?」
時間があるかと聞きに来たリリスに頷き、アスタロトを誘って昼食を取った。ちなみに彼はこの後アデーレを迎えに行く。嬉しそうなリリスはお茶の支度を始め、さまざまなお菓子も並べた。今日のアデーレは魔王城の侍女長ではなく、アスタロト大公夫人だ。誘って断られることはないだろう。
「シャイターンとアデーレの娘さん、歳が近いから仲良くなれるといいわね」
「ああ、そうなるといいな」
末息子を抱いた妻を手招きし、久しぶりに膝に座らせる。イヴもいないし問題ないと考え、手櫛で黒髪を整えた。あっという間に編み上げていく。リリスを養女にしてから、ルシファーが覚えたことの一つだった。
今日のイヴの黒髪も丁寧に梳いて椿油を馴染ませ、可愛くツインテールに仕上げた。ツインテールという呼び方は、イザヤの小説から覚えたのだが、かつては二本角呼ばわりされた時期もある。
「ねぇ、アスモデウスって何をしたの?」
「突然どうしたんだ」
「アシュタが気にかけてるじゃない? ルシファーもそうだけど、あんなに嫌われるなんて何をしたのかと思って」
もっともな疑問だ。何も知らない現在の魔族から見れば、子犬を虐めているように見えるかも知れない。事情を知っていたら、あれでは生ぬるいと感じるだろう。いかにアスタロトが己の怒りや憎しみをコントロールし、八つ当たりせず我慢しているか。
「勝手に話すとアスタロトが怖いから、確認してからにしよう」
「構いませんよ」
ノックの音を聞き漏らした。開いた扉の先で、妻アデーレをエスコートするアスタロトが肩を竦める。帰ったついでに、アスモデウスは置いてきたらしい。
アデーレは娘モルガーナを抱いていた。吸血種の赤子は、成長が遅い。あと数ヶ月は寝返りも打たないほどに。ほぼ生まれたばかりと変わらないモルガーナは、小さな指をにぎにぎと動かした。
「久しぶり、アデーレ。こちらへ座って」
「ありがとうございます。リリス様もお元気で安心しました」
挨拶が終わると、シャイターンは専用のベビーベッドに寝かされる。アデーレはどうするのか見守れば、アスタロトが同じようにベッドを収納から取り出していた。そっと寝かされたモルガーナは、はふぅと欠伸をひとつ。
「アスタロトと同じ赤い目だわ」
覗き込んだリリスが微笑む。元は自分も赤い瞳だったが、現在は金色だ。縦の瞳孔も吸血種である両親譲りで、モルガーナの色彩は父親譲りだった。やや色の濃いアデーレの髪に影響されたのか、髪色は金茶で肌も象牙色に近い。柔らかな髪はくるくると巻いて、綿毛のようだった。
「顔立ちはアデーレ、色はアシュタに似たのね」
「ええ。顔も夫に似たらいいのに」
「アデーレによく似た娘だなんて、モルガーナは生まれながらに父親孝行していますよ」
アスタロトが会話に口を挟み、会話が一段落してベビーベッドを離れる。お茶を飲み始めた和やかな雰囲気を、リリスは平然と破った。
「アシュタ、アスモデウスとの確執を聞きたいわ。さっき話しても構わないって言ったでしょう? 気になるの」
確執だと思うなら、触らないのが吉。そう考えるルシファーはお茶を吸い込んで咽せ、アデーレは齧った残りのお菓子を落とした。アスタロトはゆっくりカップをソーサーへ戻し、少し考える。
「いいですよ、別に隠しているわけでもありませんから」
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