438 / 530
第24章 思っていたのと違う
436.キャッチボールは親子の証
しおりを挟む
息子が出来たら、一緒にキャッチボールをする。ある日突然流行り始めたが、発端はイザヤの書いた小説の一節だった。
母親とは仲がいいが、仕事ばかりの父とぎこちなかった息子が、誘われて嬉しそうに笑うシーンは挿絵もついた。感動の場面を読んだ母親が、夫を急かして再現したのが始まりらしい。あっという間に魔族の中に広まる。
転移魔法陣が誰でも使えることで、魔族の異種族同士の交流が盛んになった。孫の顔を見るのも容易になり、一度も顔を合わせたことのない遠くに住む種族も、イベントを通じて親しくなる。同時に噂の広まりが早くなった。流行は一瞬で魔族中に広まるが、飽きられるのも早くなる。
流行の移り変わりが忙しい中、ルシファーはコボルトの侍従長であるベリアルから聞いた話を真剣に聞いた。キャッチボールをすれば、一気に親子の関係が改善するらしい、と。そもそも改善しなければならないほど、ギクシャクしていないのだが……。ルシファーを止める防波堤のアスタロト不在で、誰も止められなかった。
言い換えれば、悪い影響が出なさそうな話なので放置されたのだ。リリスは好きにしたらいいと笑うだけ。誘われたレラジェは目を輝かせた。
ルシファーに似せて作られただけあり、背中に羽も持っているレラジェだ。外見だけなら、十分過ぎるほど親子だった。
ここで問題が発生する。キャッチボールの詳細が、きちんと伝わっていなかった。魔王ルシファーはイザヤの新刊を読んでいなかったし、レラジェも知っているはずがない。
「キャッチボールか、誰かに聞いてみよう」
知らないことは尋ねる。基礎を叩き込んだアスタロト不在でも、ルシファーはいつも通りだった。通りかかりのエルフに尋ねると、彼女は小説を読んだらしい。滔々と語ってくれた。長い情景描写付きの話を纏めると、ボールを投げ合う遊びだとか。
端的に纏めすぎて、情緒もへったくれもない。ボールを投げて受け取った者が投げ返す。そういった遊びのようだ。理解した外枠は合っている。
「ボールを投げる……どのくらいの強さだ?」
小説は日本人基準の常識で書かれるため、速度の描写はなかった。悩んだルシファーは、レラジェにどのくらいなら受け取れそうか尋ねた。
「そうですね。かなり高くても取れます」
背の翼を広げて笑うので、ならば高く投げてやろうとルシファーは考えた。自分も魔力で浮いて取ればいいし、場合によっては転移して受け止めてもいい。
ここで重要なのは、レラジェもルシファーも、ボールは必ず受け止めなければならないと思っていたこと。そして、受け止めないことは相手に失礼と認識している。だが戦いで手を抜くのは、相手を侮辱する行為だ。ルシファーはそう考えた。この辺から考えが迷走していく。
つまり手を抜かずに全力で投げ、レラジェに受け止めさせる。その上で彼の全力ボールを、間違いなく取らなくてはならない。互いに認識をすり合わせ、二人は大きく頷いた。
「まずは投げてみろ」
ルシファーに渡されたのは、子どものレラジェの手でも握れる小さなボールだった。ちなみに色は茶色である。理由は元が木の実だったため。この世界に野球ボールは存在しなかった。
「いくよ!」
レラジェは全力で投げた。すごい速度で遠ざかるボールを、ルシファーは転移して正面で受ける。結界越しだが、ちょっと手が痛い。
「なかなかやるな。これでどうだ!」
地上に降りる間を惜しんで空中で投げた。一応事前に投げる方角に誰もいないのを確認している。速すぎて変形するボールを、レラジェは翼の風圧で叩いて回収した。
「受けたよ、次は僕だ! えいっ」
本人達は至って真面目にキャッチボールを繰り広げるが、他者の目にはそう映らなかった。新たな魔王候補として、養子のレラジェを鍛えている。その噂もまた、キャッチボール以上の速さで広まった。
母親とは仲がいいが、仕事ばかりの父とぎこちなかった息子が、誘われて嬉しそうに笑うシーンは挿絵もついた。感動の場面を読んだ母親が、夫を急かして再現したのが始まりらしい。あっという間に魔族の中に広まる。
転移魔法陣が誰でも使えることで、魔族の異種族同士の交流が盛んになった。孫の顔を見るのも容易になり、一度も顔を合わせたことのない遠くに住む種族も、イベントを通じて親しくなる。同時に噂の広まりが早くなった。流行は一瞬で魔族中に広まるが、飽きられるのも早くなる。
流行の移り変わりが忙しい中、ルシファーはコボルトの侍従長であるベリアルから聞いた話を真剣に聞いた。キャッチボールをすれば、一気に親子の関係が改善するらしい、と。そもそも改善しなければならないほど、ギクシャクしていないのだが……。ルシファーを止める防波堤のアスタロト不在で、誰も止められなかった。
言い換えれば、悪い影響が出なさそうな話なので放置されたのだ。リリスは好きにしたらいいと笑うだけ。誘われたレラジェは目を輝かせた。
ルシファーに似せて作られただけあり、背中に羽も持っているレラジェだ。外見だけなら、十分過ぎるほど親子だった。
ここで問題が発生する。キャッチボールの詳細が、きちんと伝わっていなかった。魔王ルシファーはイザヤの新刊を読んでいなかったし、レラジェも知っているはずがない。
「キャッチボールか、誰かに聞いてみよう」
知らないことは尋ねる。基礎を叩き込んだアスタロト不在でも、ルシファーはいつも通りだった。通りかかりのエルフに尋ねると、彼女は小説を読んだらしい。滔々と語ってくれた。長い情景描写付きの話を纏めると、ボールを投げ合う遊びだとか。
端的に纏めすぎて、情緒もへったくれもない。ボールを投げて受け取った者が投げ返す。そういった遊びのようだ。理解した外枠は合っている。
「ボールを投げる……どのくらいの強さだ?」
小説は日本人基準の常識で書かれるため、速度の描写はなかった。悩んだルシファーは、レラジェにどのくらいなら受け取れそうか尋ねた。
「そうですね。かなり高くても取れます」
背の翼を広げて笑うので、ならば高く投げてやろうとルシファーは考えた。自分も魔力で浮いて取ればいいし、場合によっては転移して受け止めてもいい。
ここで重要なのは、レラジェもルシファーも、ボールは必ず受け止めなければならないと思っていたこと。そして、受け止めないことは相手に失礼と認識している。だが戦いで手を抜くのは、相手を侮辱する行為だ。ルシファーはそう考えた。この辺から考えが迷走していく。
つまり手を抜かずに全力で投げ、レラジェに受け止めさせる。その上で彼の全力ボールを、間違いなく取らなくてはならない。互いに認識をすり合わせ、二人は大きく頷いた。
「まずは投げてみろ」
ルシファーに渡されたのは、子どものレラジェの手でも握れる小さなボールだった。ちなみに色は茶色である。理由は元が木の実だったため。この世界に野球ボールは存在しなかった。
「いくよ!」
レラジェは全力で投げた。すごい速度で遠ざかるボールを、ルシファーは転移して正面で受ける。結界越しだが、ちょっと手が痛い。
「なかなかやるな。これでどうだ!」
地上に降りる間を惜しんで空中で投げた。一応事前に投げる方角に誰もいないのを確認している。速すぎて変形するボールを、レラジェは翼の風圧で叩いて回収した。
「受けたよ、次は僕だ! えいっ」
本人達は至って真面目にキャッチボールを繰り広げるが、他者の目にはそう映らなかった。新たな魔王候補として、養子のレラジェを鍛えている。その噂もまた、キャッチボール以上の速さで広まった。
10
お気に入りに追加
747
あなたにおすすめの小説
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる