上 下
420 / 530
第23章 生まれるぅ!

418.出産は生まれた後も大変です

しおりを挟む
 イヴは黒髪に銀瞳、シャイターンは銀髪に赤瞳。幼い頃のリリスが赤い瞳だったことは、魔族に周知の事実である。敬愛する魔王と愛らしい魔王妃の色を分けて生まれた二人は、魔族にとって幸せの象徴だった。

 各地で生まれた子ども達の報告が舞い込み、魔王城の文官達は上へ下への大騒ぎだ。戸籍制度を導入した魔族に、出産と死亡は届け出が義務付けられた。各種族の纏め役である貴族へ連絡が入り、転移魔法陣を使って即日送られてくる。

 中庭で回収された書簡を拾い集めながら、アベルが苦笑いする。これは昼までに終わりそうもない。

「昼休み仕事したら、残業代くれるのかな」

「残業代なんか出さないよ、ほら」

 通りかかったルキフェルが、風を使って一気に集める。正式書類だが、特殊インクを使っていないので魔力を当てても問題なかった。驚いた顔で、集められた書簡とルキフェルを交互に見た後、アベルは大きく息を吐いた。

「なんだ、魔法使っていいのかよ」

「なんで使えないと思ったのさ。先に誰かに聞けばいいじゃん」

 仲がいいのか悪いのか。二人は言い合いながらも、大量の出産届を回収した。そもそもアベルの仕事であり、ルキフェルは関係ないのだが。最後まで付き合うあたり、意外とアベルを認めているのだろう。

「サンキュ、助かった!」

「お礼は何か新しい知識でいいや」

 用が終わればさっさと別れる。二人の様子を見ながら、ベールは首を傾げた。

「あの二人は不仲なのでしょうか」

「どちらかと言えば、仲がいいと思いますよ」

 アスタロトが淡々と指摘する。本当に不仲なら、ルキフェルは構わない。どんなに苦労していても、放置したはず。言われてベールも納得した。

「それはそうと、各地に送る支援物資はアムドゥスキアスに任せて大丈夫でしょうか」

「災害復興担当でしたね。誰か助手をつけましょう」

 テキパキと書類処理をしながら、支援物資の分配表を作成する。魔王軍が配布と支給に回る予定だった。指揮をアムドゥスキアスに一任すると、正直、不安が残る。

 孤独に洞窟へ閉じこもっていた時期が長く、さらに長い眠りにもついていた。他人との交流経験が少なすぎるのだ。トラブルの芽は事前に摘み取るのが、ベールとアスタロトの仕事でもあった。

 待望の二人目に夢中のルシファーを動かすのは諦め、二人は細かな打ち合わせを続ける。大公女でありしっかり者のレライエを補佐に付けたいが、彼女は妊婦だった。万が一があってはいけない。できれば転移魔法陣も使わせたくなかった。

 妊婦へ治癒魔法禁止が発覚したのも最近で、もしかしたら別の魔法も影響が出る可能性があった。検証が済むまで、妊婦への魔法使用を停止する命令書も作成する。各種族への通達が以前より楽になったのは、幸いだった。

「仕事手伝うぞ」

 執務室にひょっこり顔を出したのは、ルシファーだ。出産後のリリスは眠りが浅く、どうしても細切れに休息を取る。今も眠ったようなので、子ども達を連れて私室を出た。起こさない配慮として満点だが、魔王らしからぬ姿に側近達は脱力する。

 息子シャイターンを抱っこ紐で胸に抱え、右手をイヴと繋いでいる。左手にオムツが入った籠を抱えていた。

「そのお姿の理由を伺っても?」

 眉を寄せたベールの声は低い。逆にアスタロトは笑いを堪えて、顔を逸らした。

「子ども達を安全に移動させるため、手を繋いだり抱っこで来たんだが」

「オムツの籠の話です」

 はみ出したオムツのせいで、雰囲気は台無しだ。

「ああ、シャイターンが使う分だ」

 そこでアスタロトが吹き出した。我慢できず思い切り笑う彼は、涙目だった。苦しいが笑うのも止まらない。数年に一度笑いがツボに入る吸血鬼王に、ルシファーは首を傾げた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...