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第22章 いろいろ増えるのは良いこと?

406.焼き菓子の正体を検証したい

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 泣いて騒いで駄々を捏ね、最終的に食べさせてもらえなかった。しょんぼりと肩を落とすルシファーへ、リリスは提案する。

「だったら、一緒に作ればいいわ。そうしたら検証もできるじゃない」

 検証などという表現をどこで覚えたのか尋ねれば、本日の奥様会らしい。覚えたての単語を使ってみたかったのだろう。リリスの発言も尤もなので、検証のためにルキフェルの同行が決まった。動画撮影して後で調査するらしい。

 アデーレは休暇中なので、料理長のイフリートに手伝いを頼んだ。夕食の仕込みが始まる前なら構わないと返答され、迷った。明日の朝にすべきか。午前中なら事前に予定してもらえる。

「明日でいいんじゃない?」

 ルキフェルの軽い一言が決定打となり、お菓子作りは明日の午前中に持ち越された。イフリートは今夜、明日の仕込みを纏めて行うようだ。申し訳ないので、何かお礼を用意しよう。ルシファーは暴君ではない。きちんとお詫びと感謝が出来る魔王だった。

 香辛料を詰め合わせてお礼の品を作るルシファーの隣で、リリスは手順を紙に書き出す。記憶にあるのは、材料だが……問題は分量だった。悩んでもまったく思い出せない。計量はアデーレがしていた気がする。

「やっぱりアデーレに聞かないと分からないわ」

「イフリートが知ってるかも知れない。どうしてもダメなら、アスタロト経由で聞いてもらおう」

 明日の成果を心配するリリスを宥め、イヴを入浴させる。派手に花びらを撒いて喜ぶイヴは、ルシファーに湯船から出してもらうと走り出した。この辺も親子そっくりである。興奮して駆け出す娘を、リリスが受け止めた。タオルで包んで、ひょいっと抱き上げる。

 ルシファーが風と水の魔法を使って水分を飛ばし、風と火の温風を当てて乾かした。髪や肌を乾かすと、今度は保湿に入る。矛盾しているようだが、体調を崩さないために必要な手順だ。エルフが作り出す化粧品で保湿しながら、リリスはあふっと欠伸をひとつ。

「先に寝かしつけようか」

「頼むわ」

 すぽんとワンピースタイプの寝着を被ったイヴを、指先で操った風で捕獲する。追い回す必要はないが、気をつけないとイヴに解除されてしまう。常に三重くらいの保険をかけて魔法を発動した。

「寝るぞ、イヴ」

「やっ!」

 イヤイヤ期も終わったと思ったのに、まだ残っていたらしい。首を横に振る。

「じゃあ起きてるのか?」

「やぁ!」

「オレは先に寝るぞ」

「やぁあああ!」

 金切り声をあげて抵抗するも、どこまで行っても幼女である。幼い体は疲れて眠りを欲していた。落ちてくる瞼と戦い、ゴシゴシと手で擦る。止められると欠伸が出た。頭が重くてぐらりと傾くし、もう無理。

 揺れる頭がガクンと折れるように後ろへ倒れた。さっと手で押さえ、起こさないようベッドへ横たえる。ここで重要なのが、一緒に潜り込むことだ。自分だけ寝かされると、目覚めて泣き出すことが多かった。

 隣にある父ルシファーの温もりに誘われ、深い眠りに落ちたイヴの寝息が聞こえる。起こさないようベッドに入ったリリスもすぐに目を閉じた。

「おやすみなさい、ルシファー」

「おやすみ。リリス、イヴ」

 挨拶を交わすなり、リリスも夢の中。ルシファーは今日食べ損ねた焼き菓子を思い浮かべ、ひとり溜め息を吐く。記憶にないとはいえ、リリスのお菓子を取られたのは痛い。せめて保管用、味わう用、眺める用、見せびらかす用くらいは残してくれてもいいのに。

 ぼやいたルシファーだが、明日の午前中はリリス達と一緒だ。寝不足くらい問題ないが、万全の態勢で臨みたい。しっかり休むため目を閉じた。明日こそ、絶対に焼き菓子を確保する。固い決意を秘めた魔王は、足が生えて逃げる焼き菓子を追い回す夢を見た。
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