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第20章 子どもが増える理由

370.神龍族、滅亡の危機から大量産卵

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 神龍族は長老モレクの献身と罪人の一掃で、種族としての禊が終わった。寿命を全うし、若いエルフを助けて命を散らしたモレクが存命の頃から、滅びの兆候が現れている。徐々に生まれる卵の数が減り、せっかく生まれた卵が孵らないこともあった。

 数千年を生きる長寿の種族であるだけに、その長大な体が空を泳ぐ姿を間近に見て育った魔族は、彼らの限界に悲しみを示した。今回の出産ラッシュで、神龍族は大量の産卵に混乱する。いつもは100年に1匹程度の産卵だった。そのため、卵は複数の神龍が交代で、大切に温める。

 ほぼ同時期に、5匹もの神龍が身籠り産卵した。同時に生まれた卵は7個。一千年分の卵が一度に生まれれば、温める親や大人の方が足りなくなる。あたふたする彼らを助けるため、ルシファーは現状視察を行なった。

 卵の大きさは、成人した神龍から想像できないほど小さい。ルシファーが抱えられる程度だった。毛皮のない鱗の神龍達は、暖かな巣を作る。多いのは魔羊の毛玉だった。

 前回卵を孵した巣は、もう古い。手直ししなければならなかった。だが毛玉の手配が間に合わない。季節外れなので、毛玉のストックがないのだ。絨毯や毛布でも代行可能と聞いて、ひとまず災害用の備蓄を引っ張り出した。

 いくつもある空き洞窟から、安全そうな穴を選んで毛布と絨毯を敷き詰める。感情的に複雑だが、神龍の生息数が減ったことで、谷の洞窟に空きが出ていたのだ。大雨が降っても沈まない高さの洞窟へ、卵を毛布で包んで温める準備を進めた。全滅を防ぐため、卵は3つと4つに分ける。

 双子というか、二つの卵を産んだ若い母親は、興奮状態だった。我が子のいる洞窟の前から離れず、甲高い声で鳴き続ける。ルシファーに人化してもらい、卵達を大切そうに抱きしめた。

 このままでも孵りそうだが、万全を期しておきたい。滅びかけた種族に、大量の子が生まれるのは啓示だった。魔の森は神龍族の存続を決めたのだ。魔王として、出来る手は打っておきたかった。

 神龍族は鱗や蛇に似た外見が示す通り、体温が低い。母親は一時的に体温が上がるものの、雄はそうも行かなかった。

「体温が高くて、毛皮のある種族……できれば数が多くて手が足りているところがいいな」

 様々な種族が出産ラッシュなのだ。魔王の命令で人手を借りたら、そちらが子育て出来なくなるのは困る。柔らかな毛皮と高い体温で卵を温められる種族……思い浮かんだのは、リリスを包むヤンの毛皮だった。

 魔獣族なら数が多い。魔狼は毎年出産があり慣れていた。数匹借りてきても大丈夫そうだ。その説明をして、代わりに卵を温める魔狼の餌を捕獲するよう頼む。狩りならば、体温の低い雄も協力できる。

 ばたばたと話を決め、セーレを通して20匹ほど借り受けた。転移で洞窟へ連れていき、食事や水浴びの準備を整えてやる。神龍の雄達も、やる気で盛り上がっていた。このまま長老の功績も薄れ、朽ち果てていくと思っていたのだ。未来を紡ぐ卵を守るため、全力を尽くすと言い切った。

 交代で卵を抱く。温めて異変があれば知らせる。代わりに食事と寝床、水浴びを確約することで、契約は成立した。

「悪いが頼むぞ」

 尻尾を振る魔狼は、魔族の中でもルシファーへ傾倒する者が多い。忠犬という言葉が似合うが、本人達は狼であることを誇りにしているので、絶対に口にできない単語だった。

 一匹ずつ撫でて、ルシファーは立ち上がった。どうやら解決しそうだ。ほっとしながら城へ戻れば、また大量の書類が待っている。現場で指揮する方が楽でいい。そんな文句を口にしながら、ベールが纏めた軍の再編成の提案書を読み始めた。
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