372 / 530
第20章 子どもが増える理由
370.神龍族、滅亡の危機から大量産卵
しおりを挟む
神龍族は長老モレクの献身と罪人の一掃で、種族としての禊が終わった。寿命を全うし、若いエルフを助けて命を散らしたモレクが存命の頃から、滅びの兆候が現れている。徐々に生まれる卵の数が減り、せっかく生まれた卵が孵らないこともあった。
数千年を生きる長寿の種族であるだけに、その長大な体が空を泳ぐ姿を間近に見て育った魔族は、彼らの限界に悲しみを示した。今回の出産ラッシュで、神龍族は大量の産卵に混乱する。いつもは100年に1匹程度の産卵だった。そのため、卵は複数の神龍が交代で、大切に温める。
ほぼ同時期に、5匹もの神龍が身籠り産卵した。同時に生まれた卵は7個。一千年分の卵が一度に生まれれば、温める親や大人の方が足りなくなる。あたふたする彼らを助けるため、ルシファーは現状視察を行なった。
卵の大きさは、成人した神龍から想像できないほど小さい。ルシファーが抱えられる程度だった。毛皮のない鱗の神龍達は、暖かな巣を作る。多いのは魔羊の毛玉だった。
前回卵を孵した巣は、もう古い。手直ししなければならなかった。だが毛玉の手配が間に合わない。季節外れなので、毛玉のストックがないのだ。絨毯や毛布でも代行可能と聞いて、ひとまず災害用の備蓄を引っ張り出した。
いくつもある空き洞窟から、安全そうな穴を選んで毛布と絨毯を敷き詰める。感情的に複雑だが、神龍の生息数が減ったことで、谷の洞窟に空きが出ていたのだ。大雨が降っても沈まない高さの洞窟へ、卵を毛布で包んで温める準備を進めた。全滅を防ぐため、卵は3つと4つに分ける。
双子というか、二つの卵を産んだ若い母親は、興奮状態だった。我が子のいる洞窟の前から離れず、甲高い声で鳴き続ける。ルシファーに人化してもらい、卵達を大切そうに抱きしめた。
このままでも孵りそうだが、万全を期しておきたい。滅びかけた種族に、大量の子が生まれるのは啓示だった。魔の森は神龍族の存続を決めたのだ。魔王として、出来る手は打っておきたかった。
神龍族は鱗や蛇に似た外見が示す通り、体温が低い。母親は一時的に体温が上がるものの、雄はそうも行かなかった。
「体温が高くて、毛皮のある種族……できれば数が多くて手が足りているところがいいな」
様々な種族が出産ラッシュなのだ。魔王の命令で人手を借りたら、そちらが子育て出来なくなるのは困る。柔らかな毛皮と高い体温で卵を温められる種族……思い浮かんだのは、リリスを包むヤンの毛皮だった。
魔獣族なら数が多い。魔狼は毎年出産があり慣れていた。数匹借りてきても大丈夫そうだ。その説明をして、代わりに卵を温める魔狼の餌を捕獲するよう頼む。狩りならば、体温の低い雄も協力できる。
ばたばたと話を決め、セーレを通して20匹ほど借り受けた。転移で洞窟へ連れていき、食事や水浴びの準備を整えてやる。神龍の雄達も、やる気で盛り上がっていた。このまま長老の功績も薄れ、朽ち果てていくと思っていたのだ。未来を紡ぐ卵を守るため、全力を尽くすと言い切った。
交代で卵を抱く。温めて異変があれば知らせる。代わりに食事と寝床、水浴びを確約することで、契約は成立した。
「悪いが頼むぞ」
尻尾を振る魔狼は、魔族の中でもルシファーへ傾倒する者が多い。忠犬という言葉が似合うが、本人達は狼であることを誇りにしているので、絶対に口にできない単語だった。
一匹ずつ撫でて、ルシファーは立ち上がった。どうやら解決しそうだ。ほっとしながら城へ戻れば、また大量の書類が待っている。現場で指揮する方が楽でいい。そんな文句を口にしながら、ベールが纏めた軍の再編成の提案書を読み始めた。
数千年を生きる長寿の種族であるだけに、その長大な体が空を泳ぐ姿を間近に見て育った魔族は、彼らの限界に悲しみを示した。今回の出産ラッシュで、神龍族は大量の産卵に混乱する。いつもは100年に1匹程度の産卵だった。そのため、卵は複数の神龍が交代で、大切に温める。
ほぼ同時期に、5匹もの神龍が身籠り産卵した。同時に生まれた卵は7個。一千年分の卵が一度に生まれれば、温める親や大人の方が足りなくなる。あたふたする彼らを助けるため、ルシファーは現状視察を行なった。
卵の大きさは、成人した神龍から想像できないほど小さい。ルシファーが抱えられる程度だった。毛皮のない鱗の神龍達は、暖かな巣を作る。多いのは魔羊の毛玉だった。
前回卵を孵した巣は、もう古い。手直ししなければならなかった。だが毛玉の手配が間に合わない。季節外れなので、毛玉のストックがないのだ。絨毯や毛布でも代行可能と聞いて、ひとまず災害用の備蓄を引っ張り出した。
いくつもある空き洞窟から、安全そうな穴を選んで毛布と絨毯を敷き詰める。感情的に複雑だが、神龍の生息数が減ったことで、谷の洞窟に空きが出ていたのだ。大雨が降っても沈まない高さの洞窟へ、卵を毛布で包んで温める準備を進めた。全滅を防ぐため、卵は3つと4つに分ける。
双子というか、二つの卵を産んだ若い母親は、興奮状態だった。我が子のいる洞窟の前から離れず、甲高い声で鳴き続ける。ルシファーに人化してもらい、卵達を大切そうに抱きしめた。
このままでも孵りそうだが、万全を期しておきたい。滅びかけた種族に、大量の子が生まれるのは啓示だった。魔の森は神龍族の存続を決めたのだ。魔王として、出来る手は打っておきたかった。
神龍族は鱗や蛇に似た外見が示す通り、体温が低い。母親は一時的に体温が上がるものの、雄はそうも行かなかった。
「体温が高くて、毛皮のある種族……できれば数が多くて手が足りているところがいいな」
様々な種族が出産ラッシュなのだ。魔王の命令で人手を借りたら、そちらが子育て出来なくなるのは困る。柔らかな毛皮と高い体温で卵を温められる種族……思い浮かんだのは、リリスを包むヤンの毛皮だった。
魔獣族なら数が多い。魔狼は毎年出産があり慣れていた。数匹借りてきても大丈夫そうだ。その説明をして、代わりに卵を温める魔狼の餌を捕獲するよう頼む。狩りならば、体温の低い雄も協力できる。
ばたばたと話を決め、セーレを通して20匹ほど借り受けた。転移で洞窟へ連れていき、食事や水浴びの準備を整えてやる。神龍の雄達も、やる気で盛り上がっていた。このまま長老の功績も薄れ、朽ち果てていくと思っていたのだ。未来を紡ぐ卵を守るため、全力を尽くすと言い切った。
交代で卵を抱く。温めて異変があれば知らせる。代わりに食事と寝床、水浴びを確約することで、契約は成立した。
「悪いが頼むぞ」
尻尾を振る魔狼は、魔族の中でもルシファーへ傾倒する者が多い。忠犬という言葉が似合うが、本人達は狼であることを誇りにしているので、絶対に口にできない単語だった。
一匹ずつ撫でて、ルシファーは立ち上がった。どうやら解決しそうだ。ほっとしながら城へ戻れば、また大量の書類が待っている。現場で指揮する方が楽でいい。そんな文句を口にしながら、ベールが纏めた軍の再編成の提案書を読み始めた。
10
お気に入りに追加
750
あなたにおすすめの小説
隠された第四皇女
山田ランチ
ファンタジー
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
継母の品格 〜 行き遅れ令嬢は、辺境伯と愛娘に溺愛される 〜
出口もぐら
恋愛
【短編】巷で流行りの婚約破棄。
令嬢リリーも例外ではなかった。家柄、剣と共に生きる彼女は「女性らしさ」に欠けるという理由から、婚約破棄を突き付けられる。
彼女の手は研鑽の証でもある、肉刺や擦り傷がある。それを隠すため、いつもレースの手袋をしている。別にそれを恥じたこともなければ、婚約破棄を悲しむほど脆弱ではない。
「行き遅れた令嬢」こればかりはどうしようもない、と諦めていた。
しかし、そこへ辺境伯から婚約の申し出が――。その辺境伯には娘がいた。
「分かりましたわ!これは契約結婚!この小さなお姫様を私にお守りするようにと仰せですのね」
少しばかり天然、快活令嬢の継母ライフ。
■この作品は「小説家になろう」にも投稿しています。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる
シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。
※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。
※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。
俺の名はグレイズ。
鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。
ジョブは商人だ。
そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。
だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。
そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。
理由は『巷で流行している』かららしい。
そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。
まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。
まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。
表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。
そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。
一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。
俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。
その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。
本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる