356 / 530
第19章 出産ラッシュ再び?
354.嫌いでも、お姉ちゃんになる練習
しおりを挟む
顔を見せた子に、イヴは指さして「いやぁ!」と拒絶を伝えた。もちろん、お相手の子も同じだ。このテントは嫌だと泣いて訴える。だがミュルミュールやガミジンの采配にケチを付けないのが参加条件だ。もしどうしても拒絶するなら、参加を取りやめるしかなかった。
仲直りさせるのが目的だろうが、拗れる予感しかない。大きく溜息を吐いたルシファーは、サライの親である巨人族の女戦士プータナーに挨拶をした。
「久しぶりだな。魔王チャレンジぶりか」
「魔王様、その節はお世話になりました。頂戴した盾は一族の誇りです。ところで……先日うちの娘の歯を折ったのは、姫君でしたか」
「あ、ああ……そうだな。治した歯に異常はないか?」
「全然平気です。巨人族ではあのくらい、日常茶飯事ですよ」
あははと大声で笑うプータナーはあっけらかんとしている。娘サライは睨み合ったまま、イヴと膠着状態だった。
ぬいぐるみの目をぶつけて歯を折ったのは事実だ。一触即発の雰囲気をどう修正したものか。これから妊婦の妻リリスを迎えに行くのだ。もし同室の親子と険悪なら、リリスを呼ぶのも考え物だった。妊婦に危害を加えるかと聞かれたら、首を横に振る。
少なくとも戦った相手の本質は見極められるつもりだった。プータナーは見た通りの性格だ。問題は娘達の確執だった。妊婦が合流するのに配慮がなさすぎないか? 一言注意するつもりのルシファーだったが、プータナーの発言に動きが止まった。
「サライはイヴ姫が好きなんですよ。いつも家でイヴ姫の話ばかりで」
……もしかして、ぬいぐるみを奪おうとしたのはイヴの気を引きたかっただけか。声をかけるきっかけや仲良くなろうとして失敗したなら? 親としてどう対処するのが正解か。うーんと考えるルシファーの腕の中で、イヴは「めっ、嫌っ」とサライを指さす。
そのたびにサライは泣きそうな顔で「嫌い」と叫んだ。どう考えても拗れただけの友人候補だ。聞いて驚いたが、サライはイヴより一回り大きいのに年齢は半分だった。つまり中身はかなり幼い。経験も少ないから、構って欲しくて手を出したのだろう。
「こういうのは母親に任せた方が拗れないですよ」
一般的な見解を述べるグシオンを振り返り、「リリスだぞ?」と確認する。はっとした顔で「すみません」と謝られた。いや、それも対応としてどうなのか。ある意味失礼だが、リリスが混乱をさらに加速させる可能性が高いことだけは共通認識だった。
イヴは唇を尖らせて、不満を表明する。その様子に触発され、サライも機嫌を損ねた。互いに不幸な行き違いだ。どこかで掛け違えたボタンを直してやる作業が必要だった。別に憎しみ合う理由はない。
「イヴ姫、私を覚えていますか?」
「マーリーンのママ」
「そうです。よく話を聞いてくださいね」
最後に入ってきた親子と、魔王親子の様子をきょろきょろ見比べていたイポスは、近付いて視線を合わせた。膝の上で膨らませた頬を、ぷすっと自分で元に戻す。イヴは小さく頷いた。
「お話、聞ける。お姉ちゃんになるんだもん」
「あのサライという子は体が大きいですが、イヴ姫より赤ちゃんです。小さい子に優しくできない姫様では、お姉ちゃんになるのは無理ですよ」
なるほど、そちらへ話を振るのか。母親が早くに亡くなり、父と暮らした記憶しかないイポスだが、親戚に恵まれていた。預けられた先で、叔母や祖母は他の子と分け隔てなくイポスを育てたらしい。その影響だろう。
「お姉ちゃん、無理?」
「リリス様が産むお子様のお姉ちゃんになりたいなら、先にサライちゃんで練習したらどうでしょう」
「……れんしゅう」
「上手なお姉ちゃんなら、赤ちゃんも嬉しいでしょうね」
考え込んだイヴは、ぽんぽんとルシファーの膝を叩く。下ろしてくれと訴える我が子を、優しく床に置いた。柔らかな絨毯が敷き詰められた上をぺたぺた歩き、イヴはサライの前で止まる。
「仲良ししよう」
自分から手を伸ばした。
仲直りさせるのが目的だろうが、拗れる予感しかない。大きく溜息を吐いたルシファーは、サライの親である巨人族の女戦士プータナーに挨拶をした。
「久しぶりだな。魔王チャレンジぶりか」
「魔王様、その節はお世話になりました。頂戴した盾は一族の誇りです。ところで……先日うちの娘の歯を折ったのは、姫君でしたか」
「あ、ああ……そうだな。治した歯に異常はないか?」
「全然平気です。巨人族ではあのくらい、日常茶飯事ですよ」
あははと大声で笑うプータナーはあっけらかんとしている。娘サライは睨み合ったまま、イヴと膠着状態だった。
ぬいぐるみの目をぶつけて歯を折ったのは事実だ。一触即発の雰囲気をどう修正したものか。これから妊婦の妻リリスを迎えに行くのだ。もし同室の親子と険悪なら、リリスを呼ぶのも考え物だった。妊婦に危害を加えるかと聞かれたら、首を横に振る。
少なくとも戦った相手の本質は見極められるつもりだった。プータナーは見た通りの性格だ。問題は娘達の確執だった。妊婦が合流するのに配慮がなさすぎないか? 一言注意するつもりのルシファーだったが、プータナーの発言に動きが止まった。
「サライはイヴ姫が好きなんですよ。いつも家でイヴ姫の話ばかりで」
……もしかして、ぬいぐるみを奪おうとしたのはイヴの気を引きたかっただけか。声をかけるきっかけや仲良くなろうとして失敗したなら? 親としてどう対処するのが正解か。うーんと考えるルシファーの腕の中で、イヴは「めっ、嫌っ」とサライを指さす。
そのたびにサライは泣きそうな顔で「嫌い」と叫んだ。どう考えても拗れただけの友人候補だ。聞いて驚いたが、サライはイヴより一回り大きいのに年齢は半分だった。つまり中身はかなり幼い。経験も少ないから、構って欲しくて手を出したのだろう。
「こういうのは母親に任せた方が拗れないですよ」
一般的な見解を述べるグシオンを振り返り、「リリスだぞ?」と確認する。はっとした顔で「すみません」と謝られた。いや、それも対応としてどうなのか。ある意味失礼だが、リリスが混乱をさらに加速させる可能性が高いことだけは共通認識だった。
イヴは唇を尖らせて、不満を表明する。その様子に触発され、サライも機嫌を損ねた。互いに不幸な行き違いだ。どこかで掛け違えたボタンを直してやる作業が必要だった。別に憎しみ合う理由はない。
「イヴ姫、私を覚えていますか?」
「マーリーンのママ」
「そうです。よく話を聞いてくださいね」
最後に入ってきた親子と、魔王親子の様子をきょろきょろ見比べていたイポスは、近付いて視線を合わせた。膝の上で膨らませた頬を、ぷすっと自分で元に戻す。イヴは小さく頷いた。
「お話、聞ける。お姉ちゃんになるんだもん」
「あのサライという子は体が大きいですが、イヴ姫より赤ちゃんです。小さい子に優しくできない姫様では、お姉ちゃんになるのは無理ですよ」
なるほど、そちらへ話を振るのか。母親が早くに亡くなり、父と暮らした記憶しかないイポスだが、親戚に恵まれていた。預けられた先で、叔母や祖母は他の子と分け隔てなくイポスを育てたらしい。その影響だろう。
「お姉ちゃん、無理?」
「リリス様が産むお子様のお姉ちゃんになりたいなら、先にサライちゃんで練習したらどうでしょう」
「……れんしゅう」
「上手なお姉ちゃんなら、赤ちゃんも嬉しいでしょうね」
考え込んだイヴは、ぽんぽんとルシファーの膝を叩く。下ろしてくれと訴える我が子を、優しく床に置いた。柔らかな絨毯が敷き詰められた上をぺたぺた歩き、イヴはサライの前で止まる。
「仲良ししよう」
自分から手を伸ばした。
10
お気に入りに追加
747
あなたにおすすめの小説
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる