【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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第19章 出産ラッシュ再び?

350.魔王の署名付きキャンプ申請書

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 企画はあっという間に通ってしまった。魔王の署名付き申請書を断るとしたら、アスタロトくらいだ。次点でベールだろうか。しかし一人は休暇中、もう一人は魔王軍の仕事で出張中だった。

「僕はいいと思うよ。協力するし、あ、翡翠竜が行くんじゃない? 琥珀竜も参加するんでしょ」

 ドラゴン同士は色で呼び合うのか。それとも名前が長いから省略した意味合いかもしれない。アムドゥスキアスは色で呼ばれることが多いが、ゴルティーにも継承されたらしい。

 ルキフェルは悪気なくあっけらかんと言い放ち、賛成を表明した。ルシファーとしては特に問題がないので、頷いておく。リリスの許可も得たし、イヴも参加する気満々だった。

「え? リリスは留守番だぞ」

「嫌よ、一緒に行くわ」

「妊婦だから残って欲しい」

「男はそう言って浮気するって、ベルゼ姉さんが言ってたわ!」

 浮気するつもりなんでしょう! 余計な言葉を吹き込んだベルゼビュートのせいで、今日も魔王一家は大変な状態だった。嵐が吹き荒れる自室内で、ルシファーは眉を寄せる。少し考えて、もっともな反論を思いついた。

「もし浮気するなら、イヴは連れて行かないぞ?」

 幼子は悪気なく、ぺろっと喋る。口止めしても「パッパが内緒って」と言いながら話してしまう生き物だった。それが大好きな母親相手なら、なおのこと口は軽くなる。

 爆発すること確定の時限爆弾を連れて行くほど、愚かじゃない。リリスは言われた内容をしっかり反芻し、噛み砕いてから納得した。

「それもそうね」

「心配なのはわかるが、オレは身重なリリスが心配なんだ。もし木の根に躓いたらどうする?」

「魔の森の娘よ? 私の足を引っ掛ける根なんていないわよ」

「石で転ぶかもしれないし」

「そっちは否定できないわ」

 お腹を打ったらどうするんだ。訴える夫の心配が嬉しくもあり、一緒に参加できないことが悔しくもあり。リリスは複雑な感情を、大きな深呼吸で吐き出した。

「分かったわ、でも夜は帰ってこられる? 一緒に寝たいの」

「うーん。逆に迎えに行くかな。オレの転移なら安全だと思う」

 夫婦は真剣に話し合う。父ルシファーの膝によじ登ったイヴは、ご機嫌で純白の髪にリボンを結び始めた。小さな赤いリボンを幾つも結び、ご機嫌でルシファーの袖を引っ張る。

「ん?」

「できた!」

 どうだ! と胸を張るイヴに、ルシファーが頬を緩める。

「お? 上手にできたな。リリスにそっくりだ、ほら」

 言われたリリスは縦結びになったリボンを指差して首を傾げた。

「上手だけど、縦になってるわよ?」

「リリスも同じだった。何度結んでも縦になって、だが何度も挑戦していたぞ」

 笑いながらリボンを解いていく。数えながらイヴも手伝った。

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……」

 相変わらずベール譲りの渋い数え方が直らないリリスは、並べたリボンを前に笑った。

「24本ね」

「凄いな、イヴ。リリスと同じ数だ」

 ご機嫌のイヴを中心に盛り上がり、最終的にきちんと話が纏まったのは、翌朝の朝食後だった。食後のお茶を飲み干し、決まった内容を繰り返す。

「リリスはオレの抱っこで参加、イヴの護衛はヤン。仕事の代理はルキフェルが担当してくれるし、空の安全管理はアドキスに任せよう。この案をミュルミュール園長へ提出だ!」

 気合を入れた計画書を作成し、意気込んで提出したルシファーだが「却下」をくらい、あちこちに訂正を入れられた。

 最終的に半分ほどに削られ、リリスの参加は初日と最終日の昼間だけになる。少し不満そうなリリスだが、かつて世話になったミュルミュールに頭が上がらず、最後は納得した。
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