350 / 530
第19章 出産ラッシュ再び?
348.怒ると叱るの違い
しおりを挟む
叱る時のキツイ響きで名を呼ばないこと。この保育所の基本姿勢だった。一歩間違えると、名前を怒られる恐怖の対象として覚えてしまう。
最初は理由を聞くところから始めて、なぜいけないかを説明する。その順番を無視した反論をされ、ついカッとなって声を張り上げた。感情任せの行為は、叱るではなく怒るだった。
いけないよ! などの呼びかけなら問題ない。しかし幼子は声に宿る感情に敏感だった。自分の名を険しい声で呼ばれたら、その響きを恐怖として捉える。名を呼ばれることを怒られた経験と混同するのだ。だから気を使ってきたが……。
大きな失態に落ち込むガミジンは、大きく溜め息を吐いた。人化した彼はタテガミに相当する髪をぐしゃぐしゃと乱す。それから玄関先にどかっと座り込んだ。
「おいで、リアラちゃん。いきなり怒鳴ってごめんね。サライちゃんが昨日どうして泣いたのか、理由を知ってる?」
泣きながら首を横に振るリアラを膝に座らせた。昨日の経緯を順番に説明する。子どもだからと手を抜かない。リアラが仲良くしたことに腹を立て、誤解したサライがイヴを攻撃した。もちろん反撃したイヴも一矢報いるどころか、過剰防衛だったが。
イヴも悪いし、サライも悪い。両方ともケンカしたままで、今日も口を利かないだろう。その話をリアラは、鼻を啜りながら最後まで聞いた。
「あたちがわるいの?」
「僕は誰も悪くないと思うけど、なんでそう考えたの?」
ガミジンが質問し返す。卑怯な技だが、真剣な顔でリアラは答えた。
「ケンカは、あたちのせいだから」
「でもイヴちゃんと遊んで楽しかったのに、悪いことかな」
考え込んで答えが出ない幼子に、ルシファーも床に座り込んだ。汚れるとガミジンが注意するが、気にしない。抱っこしたイヴは、泣き疲れて眠っていた。
「昨日はイヴと遊んでくれてありがとう」
イヴの父親に怒られると思って身構えたリアラに、まずお礼から切り出す。
「今日のリアラは何がいけなかったか、分かる?」
「後ろから叩いた」
「そうだな、後ろからの攻撃は卑怯だ。二度としないでくれ」
こくんと頷く。根は素直な子らしい。だからこそ、サライが泣いたと聞いて額面通りに受け取った。大切な友人が、イヴに叩かれて泣いたと。先にサライが手を出したことを知らなかったのだ。
大好きな先生にいきなり怒られたのもびっくりしただろう。人垂らしの美貌を利用して、にっこり微笑む。ルシファーの無自覚な色気は、幼くても女の子のリアラに効果覿面だった。
「ケンカしてもいい。一緒に遊んでもいい。卑怯なのだけはダメだ。約束できるか?」
「うん、ごめんなさい。イヴにもごめんなさい」
「いい子だな」
頷いたリアラは、ガミジンに抱っこされて保育所へ運ばれる。今日のイヴは連れ帰る方が良さそうだ。そう思って振り返れば、ゴルティーがふわふわ浮いていた。飛ぶことに慣れて、かなり安定している。
「イヴは寝ちゃったの?」
「ああ。明日また遊んでやってくれ」
「やだぁ、起きる」
イヴがごしごしと目元を乱暴に手で擦るので、慌ててやめさせた。優しくハンカチで拭いてやり、抱き方を変える。顔が見える形で尋ねた。
「保育所へ行く?」
「うん……ゴル、一緒にいこ」
ルシファーの腕をぽんと叩いて、下ろしてと要求する。イヴは思ったより逞しく成長している。そのことを嬉しいと喜ぶより、まさかゴルティーと結婚するとか言い出すんじゃ……と青褪めるルシファーを残し、二人は仲良く手を繋いで部屋へ向かう。
「琥珀竜……認めないぞ」
遅いので迎えに来たルキフェルは、呻くように呟く魔王を回収する。玄関先で埃に塗れて座る魔王の姿は、かなり多くの父兄に目撃された。ゴルティーが魔王陛下を砂まみれにしたらしい。そんな冤罪が生まれかけ、即日公式に否定された。
最初は理由を聞くところから始めて、なぜいけないかを説明する。その順番を無視した反論をされ、ついカッとなって声を張り上げた。感情任せの行為は、叱るではなく怒るだった。
いけないよ! などの呼びかけなら問題ない。しかし幼子は声に宿る感情に敏感だった。自分の名を険しい声で呼ばれたら、その響きを恐怖として捉える。名を呼ばれることを怒られた経験と混同するのだ。だから気を使ってきたが……。
大きな失態に落ち込むガミジンは、大きく溜め息を吐いた。人化した彼はタテガミに相当する髪をぐしゃぐしゃと乱す。それから玄関先にどかっと座り込んだ。
「おいで、リアラちゃん。いきなり怒鳴ってごめんね。サライちゃんが昨日どうして泣いたのか、理由を知ってる?」
泣きながら首を横に振るリアラを膝に座らせた。昨日の経緯を順番に説明する。子どもだからと手を抜かない。リアラが仲良くしたことに腹を立て、誤解したサライがイヴを攻撃した。もちろん反撃したイヴも一矢報いるどころか、過剰防衛だったが。
イヴも悪いし、サライも悪い。両方ともケンカしたままで、今日も口を利かないだろう。その話をリアラは、鼻を啜りながら最後まで聞いた。
「あたちがわるいの?」
「僕は誰も悪くないと思うけど、なんでそう考えたの?」
ガミジンが質問し返す。卑怯な技だが、真剣な顔でリアラは答えた。
「ケンカは、あたちのせいだから」
「でもイヴちゃんと遊んで楽しかったのに、悪いことかな」
考え込んで答えが出ない幼子に、ルシファーも床に座り込んだ。汚れるとガミジンが注意するが、気にしない。抱っこしたイヴは、泣き疲れて眠っていた。
「昨日はイヴと遊んでくれてありがとう」
イヴの父親に怒られると思って身構えたリアラに、まずお礼から切り出す。
「今日のリアラは何がいけなかったか、分かる?」
「後ろから叩いた」
「そうだな、後ろからの攻撃は卑怯だ。二度としないでくれ」
こくんと頷く。根は素直な子らしい。だからこそ、サライが泣いたと聞いて額面通りに受け取った。大切な友人が、イヴに叩かれて泣いたと。先にサライが手を出したことを知らなかったのだ。
大好きな先生にいきなり怒られたのもびっくりしただろう。人垂らしの美貌を利用して、にっこり微笑む。ルシファーの無自覚な色気は、幼くても女の子のリアラに効果覿面だった。
「ケンカしてもいい。一緒に遊んでもいい。卑怯なのだけはダメだ。約束できるか?」
「うん、ごめんなさい。イヴにもごめんなさい」
「いい子だな」
頷いたリアラは、ガミジンに抱っこされて保育所へ運ばれる。今日のイヴは連れ帰る方が良さそうだ。そう思って振り返れば、ゴルティーがふわふわ浮いていた。飛ぶことに慣れて、かなり安定している。
「イヴは寝ちゃったの?」
「ああ。明日また遊んでやってくれ」
「やだぁ、起きる」
イヴがごしごしと目元を乱暴に手で擦るので、慌ててやめさせた。優しくハンカチで拭いてやり、抱き方を変える。顔が見える形で尋ねた。
「保育所へ行く?」
「うん……ゴル、一緒にいこ」
ルシファーの腕をぽんと叩いて、下ろしてと要求する。イヴは思ったより逞しく成長している。そのことを嬉しいと喜ぶより、まさかゴルティーと結婚するとか言い出すんじゃ……と青褪めるルシファーを残し、二人は仲良く手を繋いで部屋へ向かう。
「琥珀竜……認めないぞ」
遅いので迎えに来たルキフェルは、呻くように呟く魔王を回収する。玄関先で埃に塗れて座る魔王の姿は、かなり多くの父兄に目撃された。ゴルティーが魔王陛下を砂まみれにしたらしい。そんな冤罪が生まれかけ、即日公式に否定された。
10
お気に入りに追加
747
あなたにおすすめの小説
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる