【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
338 / 530
第18章 お祭りに事件は付きもの

336.大公の次は、大公女による勝負

しおりを挟む
 あまりに呆気なく勝敗がついた。というのも、ベルゼビュートの剣とルシファーの短剣が重なった瞬間、甲高い音を立てて剣が折れたのだ。

 からん、乾いた音を立てて転がる剣に、ベルゼビュートは青ざめた。

「きゃぁあああ! これは入手したばかりなのに!!」

 粗悪品だったんだな、ルシファーは気の毒そうに溜め息を吐いた。くじ運の悪さはここにも出たようだ。短剣の先を突きつけられ、ベルゼビュートは「もう負けでいいですわ」と呟いた。当然ながら、この時点で賭けも負けが確定する。

「しょうがない。この短剣をやるから」

 武器を折ってしまったのは事実なので、詫びとして奇妙な刃の短剣を差し出した。手の中でくるりと向きを変えて渡せば、彼女は鼻を啜りながら受け取る。じっくり確認して、すぐに笑顔になった。

 過去に勇者の一人から奪った短剣だが、使い勝手が悪い。なにしろ形状が特殊なので、扱いが難しかった。それに加え、やや呪われるステータス有りで、処分に困っていたのも事実だ。

 ベルゼビュートが受け取ってくれるなら、問題ないだろう。コレクターなので、滅多に誰かにくれる心配もない。呪いを撒き散らさず処分するには、魔王や大公の収納が一番安全だった。

 賭けの元締めバアルのいる一角が、わっと盛り上がる。特に勝敗に関するトラブルもないので、賭けは放置となった。祭りの華ではないが、多少の彩りになっているのも現実だ。民の娯楽に口出ししすぎる執政者は嫌われる。

「大公様達の模擬戦が終わったなら、次は私達ですわ」

「絶対に勝ちます!」

「せめて褒美はもらいたい」

 なぜか腕まくりした大公女達が、次々と現れた。魔法陣を大量に装備したルーシア、右手に風の竜巻を握るシトリー。レライエは穂先が燃える槍を手にし、ルーサルカが締め括るように地面に魔力を流した。

 全員がお揃いのワンピース姿だった。ドレスと呼ぶにはシンプルなシルバーグレーのワンピースは、以前に大公女の公式用として仕立てたもの。魔法障壁が自動展開する魔法陣を裏地に刺繍した、見た目以上に高価な服だった。

 物理的な攻撃に対しても、十分な防御力がある。大地に親和性の高いルーサルカの魔力は、防御壁を複数作り出した。盾のような形で、二人ほど隠れることができる幅だ。位置を前後左右にずらしながら、全部で5枚設置された。

「……予定外だが、受けて立とう」

 ルシファーは驚いた顔をしたが、すぐに承諾した。彼女らは戦闘能力に秀でたタイプではない。護衛のイポスやヤンとは違った。それでも4人が全員属性違いであり、合わせ技を作り出す能力は高い。

「行きますっ!」

 ルーサルカが声を張り上げて宣言した直後、ルシファーの足元がぐにゃりと歪んだ。ルーシアが送り込んだ水を使い、泥濘を作ったのだ。ふわりと浮いて対応したルシファーを読んでいたルーサルカは、泥を縄のようにして拘束を試みた。

 汚れることを懸念して意識が逸れたところへ、シトリーの竜巻を利用して上空へ飛んだレライエが、槍を手に落下する。槍に身を沿わせ、一体となった彼女の背に、ぶわっと竜人族の羽が広がった。

 ブレーキがかかり、防ごうとしたタイミングを崩される。

「っ! おっと、危ない」

 咄嗟に数歩下がり、掠めることなく避ける。だが、その場所を狙って、ルーサルカが練った泥を纏う蔦が、足首を掴んだ。捉えた魔王に、ルーシアの魔法陣が炸裂する。

 水や氷を使った水の精霊の攻撃に、ルシファーは防戦一方となった。シトリーは風の刃をいくつも重ね、さらに追い討ちをかける。

「防ぐのはいいが、これは手数が多い」

 普段通りなら結界がすべて防ぐ。だが魔王チャレンジや大公による模擬戦と同じく、結界は解除していた。黒衣の裾が千切れ、髪が数本落ちる。

「受け止めろよ」

 ここでようやく、ルシファーが反撃に転じた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~

玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。 平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。 それが噂のバツ3将軍。 しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。 求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。 果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか? ※小説家になろう。でも公開しています

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
 魔族の住むゲヘナ国の幼女エウリュアレは、魔力もほぼゼロの無能な皇帝だった。だが彼女が持つ価値は、唯一無二のもの。故に強者が集まり、彼女を守り支える。揺らぐことのない玉座の上で、幼女は最弱でありながら一番愛される存在だった。 「私ね、皆を守りたいの」  幼い彼女の望みは優しく柔らかく、他国を含む世界を包んでいく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/20……完結 2022/02/14……小説家になろう ハイファンタジー日間 81位 2022/02/14……アルファポリスHOT 62位 2022/02/14……連載開始

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

処理中です...