上 下
318 / 530
第17章 4歳の特別なお祝い

316.子狼、触手に襲われる

しおりを挟む
 人狼であるゲーデの息子、アミーは隠れ住んできた。ルシファー達に見出されるまで、人里離れた山奥で暮らした。どこの種族、集落にも所属していなかった。だから、アミーはまだお披露目を終えていない。子狼姿で、変化できずに魔獣の子に分類された。

 父と同じ人狼になりたくて、前回は参加しなかった。大公や魔王に勧められ、今回こそと気合を入れて保育園の前に立つ。種族がはっきりしなかったアミーも、昨年ようやく人型に変化できた。お陰で父親ゲーデと同じ、人狼だと判明したのだ。これで種族の復活「先祖返り」が認められた。

 父と祝杯を上げた日、魔王や大公も乱入して大騒ぎになった。懐かしく思いながら、保育園の玄関を潜ろうとして……奇妙な臭いに足を止める。何かいる? 首を傾げたアミーは、好奇心に釣られて近くの茂みに顔を突っ込んだ。しゅるんと細い腕のようなものが巻きつき、身動きできない。

「うぐぅ……」

 首が絞まる。変な声が漏れた。驚きすぎて、体が丸まる。一瞬で狼姿に戻った。形が変わったことにより、拘束から抜け出す。くるんと一回転して、着地した。そのまま全力で走り出す。

「誰かぁ! なんか出たぁ!!」

 叫びながら走る子狼は、目の前に飛び出した巨大なフェンリルにぶつかった。尻餅をついて目を瞬く。灰色魔狼は、小山ほどのサイズを誇るように吠える。その足元に滑り込み、アミーは父を呼んだ。

「お父さん!」

「ん? もしかしてアミーか」

 聞き覚えのある声に続き、ひょいっと顔を覗かせたのはルシファーだった。その横からリリスやイヴも顔を出す。ヤンの上はかなり人口密度が高かった。次々と大公女や子ども達が覗く。騒がしいが、とても頼もしい味方だった。

「どうした?」

「何かいます! 首を絞められて」

 説明する間に、伸びてきた細い腕がアミーを狙う。飛び退いた子狼を追う手が、しゅるりとヤンの前脚に絡みつく。

「我が君、こやつ魔力を吸いますぞ」

 危険だと警告するヤンに頷き、結界で弾いた。強大な魔力を誇る魔王の結界が展開すると、その魔力のおこぼれを期待するようにまとわりついた。ぐるりと囲んで、魔力を吸い出そうとする。

「リリス、イヴを頼む」

「任せて!」

 頼られたと喜ぶリリスだが、この「頼む」に含まれた意味を、両者が取り違えているのは幸いだろうか。ルシファーは「無効化を使わせないでくれ」の意味で使用し、リリスは言葉通りに受け止めた。

 同じ言語を使う夫婦であっても、すれ違いはこうして起きる。抱っこされたイヴは「めっ!」と叫んで手を振り回す。いつもなら無効化が発動するが、リリスが触れているときは別だった。イヴの能力の源は、魔の森だ。孫であるイヴも自由に使うが、娘であるリリスの方が森に近い。

 リリスが「任された」と浮かれている間は、確実にイヴの能力は封じられた。大公女達もただ手を拱いていない。すぐにヤンの背で位置を変えた。幼く不安定な子どもを中央に集め、イポスとアベルが護衛についた。

「こっちは任せろ」

 請け負ったアベルの言葉を信じ、シトリーやレライエがヤンの背から飛び降りた。リリスはイポスの近くに移動する。ルシファーが作った結界は、リリスやイヴを基準に半円形に張られていた。

「私も手伝うわ」

 娘を置いたルーシアも滑り降りる。水の波紋を使った壁を作るルーシアの後ろで、炎を得意とするレライエが攻撃用の火炎を練り上げる。シトリーは風を操って触手に似た腕を切り落とした。

 一度切れてもまた繋がり、ぬるぬると動く腕に「うげぇ」とアベルが嫌悪感を示す。子ども達が真似をして「うげぇ」「げぇ」と繰り返した。

「ちょっと! 変な言葉教えないでくれ、ない、か!」

 練った高温の炎を、数回に分けて投げるレライエに叱られ、アベルは身を竦めた。

「一気に焼き払うか」

 炎による攻撃に怯んだ腕を見て、ルシファーが魔法陣を構築する。発動させて投げようとしたタイミングで、乱入者が現れた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...