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第16章 魔王様の育児論

280.なんでも無効化してしまう

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「わんわ! わんわ……ぱっぱ!」

 一匹ずつ指差しては、「わんわ」と呼んでいたイヴが突然空に叫ぶ。言葉通り、白い翼を広げた純白の魔王が舞い降りた。

「リリス! イヴ! 無事でよかった」

「無事よ?」

 なんで心配されてるのかしら。寄り道をしたから? 不思議そうに首を傾げる妻を抱き寄せ、我が子も魔法で招き寄せる。するとイヴは両手を振り回して抗議した。

「わんわ! ダメっちょ!!」

 子狼を叱っているように聞こえるが、叱られる対象は魔王である。ルシファーを手で叩く仕草をする娘に、彼の眉尻が下がった。わかりやすく落ち込んでいる。

「下ろせば機嫌が直るわよ」

 リリスに指摘され、言われた通り子狼の群れに下ろした。四方八方から舐めまわされ、鼻を鳴らす子狼達に押し倒されるが、イヴはご機嫌だ。ヤンが子守をした経験から、イヴにとって狼は危険な生き物と認識されていない。多少噛まれても、すぐ治癒するのもいけなかった。

 子狼の口に平然と手を突っ込み、撫でたり耳を掴んだりする。しまいには尻尾もぎゅっと握って、手を噛まれた。だが魔王譲りの治癒力が仕事をして、泣く前に傷は消えた。

「危機感が仕事をしてない……」

「いいじゃない。実際、ケガしてないんだもの」

 けろりと肯定するリリスは、この調子でイヴを育てた。3年間、父親のいない我が子を見守った実績があるので、ルシファーもあまり強く言えない。ひとまず、軍がいる噴火地点へ移動しようと提案した。

「そうね、いつまでも子狼と遊んでても視察にならないわ」

 言い聞かされたイヴは素直に頷き、バイバイと手を振った。父ルシファーの純白の髪を握り、手綱のように振り回す。

「いっけぇ!」

「……知らない間に我が子が逞しくなってる」

 嬉しいような、悲しいような。不在だった3年の月日の長さを噛み締めながら、言われるまま飛んだ。ちなみに、リリスは腕を絡めてふわふわと浮遊する。自力で移動しないので、楽なのだとか。

 近づくと熱い草原地帯は、周囲の木々がチリチリと葉を焦がしていた。このままでは山火事に発展する。周辺の魔獣や精霊が住む森が危険だった。

「燃えると困るわね」

 リリスも眉を寄せる。だが消火するには、大量の雨を長時間降らせる必要があった。その冷却を行ったら、今度は洪水の心配が出てくる。

「凍らせてみるか」

 かつてリリスが火口に落下した際に凍らせて、経済損失を計算された魔王は過去の過ちを繰り返す気満々である。計算に携わったベルゼビュートも、けろりと忘れていた。だがルキフェルは違う。

「ねえ、また叱られるよ? こんなところに氷の山作ったら、絶対にアスタロトが墓から這い出てくる」

「墓じゃなくて、地下と言え。後が怖いぞ」

 どこからか話を聞きつけて報復されるんだ。ルシファーがこそこそとルキフェルに注意した。何度か痛い目を見た先輩として、可愛い後輩への大事な伝達事項だ。アスタロトに逆らう時は、相応の覚悟を持って臨め。

「かなり熱そうね」

 結界越しに判断したリリスの脇を、愛娘が落下していく。

「え?」

「だぁ!」

 なぜか得意げなイヴを見送ってしまい、慌てて叫んだ。

「イヴっ!」

「っ! 凍らせるぞ」

 イヴは自分で結界を張れない。その上、ルシファーの結界を無効化する危険性が高かった。ここから結界を張っても、本人が無効化したら意味がない。後を追って短距離転移したルシファーが、陥没した穴を覆う形で冷気を放つ。凍り始める穴の上で、イヴは「めっ」と無効化を放った。

「やめろ、危ない!」

 叫んだルシファーごと、イヴはマグマに飲み込まれた。無効化で消された魔法が、穴の縁に氷の輪となって残る。中央まで届かなかった氷は、魔王親子を守ることなく……溶けて落下した。









*********************
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