282 / 530
第16章 魔王様の育児論
280.なんでも無効化してしまう
しおりを挟む
「わんわ! わんわ……ぱっぱ!」
一匹ずつ指差しては、「わんわ」と呼んでいたイヴが突然空に叫ぶ。言葉通り、白い翼を広げた純白の魔王が舞い降りた。
「リリス! イヴ! 無事でよかった」
「無事よ?」
なんで心配されてるのかしら。寄り道をしたから? 不思議そうに首を傾げる妻を抱き寄せ、我が子も魔法で招き寄せる。するとイヴは両手を振り回して抗議した。
「わんわ! ダメっちょ!!」
子狼を叱っているように聞こえるが、叱られる対象は魔王である。ルシファーを手で叩く仕草をする娘に、彼の眉尻が下がった。わかりやすく落ち込んでいる。
「下ろせば機嫌が直るわよ」
リリスに指摘され、言われた通り子狼の群れに下ろした。四方八方から舐めまわされ、鼻を鳴らす子狼達に押し倒されるが、イヴはご機嫌だ。ヤンが子守をした経験から、イヴにとって狼は危険な生き物と認識されていない。多少噛まれても、すぐ治癒するのもいけなかった。
子狼の口に平然と手を突っ込み、撫でたり耳を掴んだりする。しまいには尻尾もぎゅっと握って、手を噛まれた。だが魔王譲りの治癒力が仕事をして、泣く前に傷は消えた。
「危機感が仕事をしてない……」
「いいじゃない。実際、ケガしてないんだもの」
けろりと肯定するリリスは、この調子でイヴを育てた。3年間、父親のいない我が子を見守った実績があるので、ルシファーもあまり強く言えない。ひとまず、軍がいる噴火地点へ移動しようと提案した。
「そうね、いつまでも子狼と遊んでても視察にならないわ」
言い聞かされたイヴは素直に頷き、バイバイと手を振った。父ルシファーの純白の髪を握り、手綱のように振り回す。
「いっけぇ!」
「……知らない間に我が子が逞しくなってる」
嬉しいような、悲しいような。不在だった3年の月日の長さを噛み締めながら、言われるまま飛んだ。ちなみに、リリスは腕を絡めてふわふわと浮遊する。自力で移動しないので、楽なのだとか。
近づくと熱い草原地帯は、周囲の木々がチリチリと葉を焦がしていた。このままでは山火事に発展する。周辺の魔獣や精霊が住む森が危険だった。
「燃えると困るわね」
リリスも眉を寄せる。だが消火するには、大量の雨を長時間降らせる必要があった。その冷却を行ったら、今度は洪水の心配が出てくる。
「凍らせてみるか」
かつてリリスが火口に落下した際に凍らせて、経済損失を計算された魔王は過去の過ちを繰り返す気満々である。計算に携わったベルゼビュートも、けろりと忘れていた。だがルキフェルは違う。
「ねえ、また叱られるよ? こんなところに氷の山作ったら、絶対にアスタロトが墓から這い出てくる」
「墓じゃなくて、地下と言え。後が怖いぞ」
どこからか話を聞きつけて報復されるんだ。ルシファーがこそこそとルキフェルに注意した。何度か痛い目を見た先輩として、可愛い後輩への大事な伝達事項だ。アスタロトに逆らう時は、相応の覚悟を持って臨め。
「かなり熱そうね」
結界越しに判断したリリスの脇を、愛娘が落下していく。
「え?」
「だぁ!」
なぜか得意げなイヴを見送ってしまい、慌てて叫んだ。
「イヴっ!」
「っ! 凍らせるぞ」
イヴは自分で結界を張れない。その上、ルシファーの結界を無効化する危険性が高かった。ここから結界を張っても、本人が無効化したら意味がない。後を追って短距離転移したルシファーが、陥没した穴を覆う形で冷気を放つ。凍り始める穴の上で、イヴは「めっ」と無効化を放った。
「やめろ、危ない!」
叫んだルシファーごと、イヴはマグマに飲み込まれた。無効化で消された魔法が、穴の縁に氷の輪となって残る。中央まで届かなかった氷は、魔王親子を守ることなく……溶けて落下した。
*********************
新作、恋愛系小説、連載開始です!
【身勝手な旦那様と離婚したら、異国で我が子と幸せになれました】
侯爵家に嫁いで跡取りを産んだのに、我が子を蔑ろにされたバレンティナは、離婚を決意する。引き離された我が子を取り戻し、家族の助けを得て異国へ逃げた。その先で、まさかの一目惚れからの溺愛を受けるとも知らずに……。ハッピーエンド確定、元婚家は没落します_( _*´ ꒳ `*)_
アルファポリス:https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/108678220
一匹ずつ指差しては、「わんわ」と呼んでいたイヴが突然空に叫ぶ。言葉通り、白い翼を広げた純白の魔王が舞い降りた。
「リリス! イヴ! 無事でよかった」
「無事よ?」
なんで心配されてるのかしら。寄り道をしたから? 不思議そうに首を傾げる妻を抱き寄せ、我が子も魔法で招き寄せる。するとイヴは両手を振り回して抗議した。
「わんわ! ダメっちょ!!」
子狼を叱っているように聞こえるが、叱られる対象は魔王である。ルシファーを手で叩く仕草をする娘に、彼の眉尻が下がった。わかりやすく落ち込んでいる。
「下ろせば機嫌が直るわよ」
リリスに指摘され、言われた通り子狼の群れに下ろした。四方八方から舐めまわされ、鼻を鳴らす子狼達に押し倒されるが、イヴはご機嫌だ。ヤンが子守をした経験から、イヴにとって狼は危険な生き物と認識されていない。多少噛まれても、すぐ治癒するのもいけなかった。
子狼の口に平然と手を突っ込み、撫でたり耳を掴んだりする。しまいには尻尾もぎゅっと握って、手を噛まれた。だが魔王譲りの治癒力が仕事をして、泣く前に傷は消えた。
「危機感が仕事をしてない……」
「いいじゃない。実際、ケガしてないんだもの」
けろりと肯定するリリスは、この調子でイヴを育てた。3年間、父親のいない我が子を見守った実績があるので、ルシファーもあまり強く言えない。ひとまず、軍がいる噴火地点へ移動しようと提案した。
「そうね、いつまでも子狼と遊んでても視察にならないわ」
言い聞かされたイヴは素直に頷き、バイバイと手を振った。父ルシファーの純白の髪を握り、手綱のように振り回す。
「いっけぇ!」
「……知らない間に我が子が逞しくなってる」
嬉しいような、悲しいような。不在だった3年の月日の長さを噛み締めながら、言われるまま飛んだ。ちなみに、リリスは腕を絡めてふわふわと浮遊する。自力で移動しないので、楽なのだとか。
近づくと熱い草原地帯は、周囲の木々がチリチリと葉を焦がしていた。このままでは山火事に発展する。周辺の魔獣や精霊が住む森が危険だった。
「燃えると困るわね」
リリスも眉を寄せる。だが消火するには、大量の雨を長時間降らせる必要があった。その冷却を行ったら、今度は洪水の心配が出てくる。
「凍らせてみるか」
かつてリリスが火口に落下した際に凍らせて、経済損失を計算された魔王は過去の過ちを繰り返す気満々である。計算に携わったベルゼビュートも、けろりと忘れていた。だがルキフェルは違う。
「ねえ、また叱られるよ? こんなところに氷の山作ったら、絶対にアスタロトが墓から這い出てくる」
「墓じゃなくて、地下と言え。後が怖いぞ」
どこからか話を聞きつけて報復されるんだ。ルシファーがこそこそとルキフェルに注意した。何度か痛い目を見た先輩として、可愛い後輩への大事な伝達事項だ。アスタロトに逆らう時は、相応の覚悟を持って臨め。
「かなり熱そうね」
結界越しに判断したリリスの脇を、愛娘が落下していく。
「え?」
「だぁ!」
なぜか得意げなイヴを見送ってしまい、慌てて叫んだ。
「イヴっ!」
「っ! 凍らせるぞ」
イヴは自分で結界を張れない。その上、ルシファーの結界を無効化する危険性が高かった。ここから結界を張っても、本人が無効化したら意味がない。後を追って短距離転移したルシファーが、陥没した穴を覆う形で冷気を放つ。凍り始める穴の上で、イヴは「めっ」と無効化を放った。
「やめろ、危ない!」
叫んだルシファーごと、イヴはマグマに飲み込まれた。無効化で消された魔法が、穴の縁に氷の輪となって残る。中央まで届かなかった氷は、魔王親子を守ることなく……溶けて落下した。
*********************
新作、恋愛系小説、連載開始です!
【身勝手な旦那様と離婚したら、異国で我が子と幸せになれました】
侯爵家に嫁いで跡取りを産んだのに、我が子を蔑ろにされたバレンティナは、離婚を決意する。引き離された我が子を取り戻し、家族の助けを得て異国へ逃げた。その先で、まさかの一目惚れからの溺愛を受けるとも知らずに……。ハッピーエンド確定、元婚家は没落します_( _*´ ꒳ `*)_
アルファポリス:https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/108678220
10
お気に入りに追加
747
あなたにおすすめの小説
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる