上 下
259 / 530
第15章 神のいない神隠し

257.小型化は無理ですぞぉ

しおりを挟む
 泥の中に落ちたはずが、いきなり空中に放り出された。落下する体を魔力で支えようとして……そのまま落ちる。

「え? 嘘だ、なぜ……」

 混乱して風の魔法を放つが無視され、仕方なく魔法陣を描く。こちらはかろうじて反応した。だが威力が弱い。明らかに通常の半分程度だった。

 落下が止まって一安心したところへ、巨大な狼が降ってくる。

「我が君ぃ!!」

「ヤン、小型化しろ」

「無理ですぞぉ」

 魔法が使えない状況なのだから、ヤンの小型化も難しかった。彼が普段から魔法陣で小型化するフェンリルなら、おそらく成功しただろう。効果半減で半分だったとしても……落下する物体の質量が減れば、威力とスピードも半減する。

 巨大なヤンを受け止めるため、ルシファーはひとまず翼を出して魔力を補充しつつ、魔法陣を強化した。足下は遥か彼方に地面がある。このまま落下したら、二人とも大ケガ確実だった。

「ヤン、丸まれ」

「承知っ!」

 くるっと丸まった毛玉を、魔法陣の中央で受け止める。が、べりっと音がして破けた。さらに落ちるヤンだが、その先にも3枚の魔法陣が待ち受けている。次々と破るヤンの落下は、最後の魔法陣で食い止められた。

「……我は死んだのですかな?」

「生きてる。というか、ここは何だ?」

 首を傾げるルシファーに、ヤンが頭上を見ろと促した。

「我が君、上っ! 上です」

「ん?」

 顔を上げたルシファーは、続いて落下した翡翠竜付きの豊満ボディーを受け止める羽目になった。翼を広げていたとはいえ、かなり衝撃がある。小さく見えていた地上の岩が、倍以上の大きさまで近づいていた。

「っ、危なかった」

「ありがとうございます、陛下。ところで、風の魔法が働かないですわね」

「魔法ではなく、魔法陣で対応しろ。威力は半分になるが、発動する」

「嫌だわ、在庫が少ないのに」

 ぼやくベルゼビュートは、精霊女王だ。考えながら魔法陣を構築するルシファーやルキフェルと真逆で、本能で魔力を変換する。咄嗟に使うのはいつも魔法で、魔術の類は苦手だった。

「羽を広げて、飛べるか?」

「やってみますわ」

「僕は嫌だって言ったのに」

 無理やり連れて来られた。涙目でそう訴える翡翠竜アムドゥスキアスは、ぽかりと後ろ頭を殴られた。

「いつまでも煩いわよ。そんなんだと、レライエに愛想尽かされちゃうわ」

 がーん! 顔にショックだと表明する翡翠竜は、ふわふわと浮いている。だが魔法陣は使用していなかった。

「アドキス、どうやって飛んでるんだ?」

「え、いつも通りです。ただ体が重くて不安定ですけど」

 いつも通り飛べる? 言われて、ルシファーも試すが、もちろん落下した。途中で翼をもう2枚追加し、魔法陣でふわりと浮き上がる。合計4枚に増えた白い翼を動かしながら、魔法陣で浮遊をかけ続けた。

「いつも通りだと落ちるぞ」

「僕は浮いていますね。なぜでしょう」

 真剣な顔で問われても、同じことを問い返したいのはオレの方だ。ルシファーはそう切り返し、地上へ視線を向けた。それから上空を確認するように見上げる。

「落ちた穴はもう見えないな」

「陛下、あたくしの羽も飛べますわ」

 ほらと両手を広げて示す通り、ベルゼビュートも浮いている。だが飛ぶ表現するには、不安定だった。魔法陣での魔術発動の威力が落ちたのと、同じ原理か。理由は不明だが、持っている能力が半減したのは事実らしい。

「ここはオレの知る世界じゃなさそうだ」

 見た目は似ている。遠くまで広がる森と、点在する湖。向こうに火山があり、川も流れていた。反対側を振り返れば、海らしき光の反射も見える。しかし……気配と表現するべきか。森に魔力が感じられなかった。

「降りてみます?」

「そうだな。この世界にラミアや子どもが来たとしたら、落下したはずだ」

 同じ穴から落ちたか判断できないが、無事でいればいい。そう考えながら森に近づく。ゆっくり下降するルシファーは、全員を個々に包む結界を張った。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...