257 / 530
第15章 神のいない神隠し
255.不安解消の避難所開設
しおりを挟む
「変ね、お母様から特に何も連絡がないのに」
リリスは不思議がっていた。魔力の流れが変化すれば、以前のように知らせてくれる。そう考えていた。今回はルキフェルの観測結果に大きな変化があったのに、母リリンから何も連絡がない。眠っている時期だからか、そう考えたが違和感があった。
「ちょっとお母様に聞いて来ようと思うの」
「今はおやめください」
一緒に留守を守るよう命じられたアスタロトは、迷惑そうに眉を寄せた。これでリリスが行方不明になったり、騒動を起こせば問題が大きくなる。長い治世を共に支えた大公として、彼が学んだことのひとつだった。
ひとつの事件が起きた時は、それが解決するまで新たな事件を起こさない。当たり前なのだが、意外と守られないルールだ。今のリリスのように、解決のためや良かれと思って行動する者が現れる。それが良い方へ働けば助けになるが、悪い方へ働くと新たな騒動の火種となった。
可能性が半分半分でどちらに転ぶか不明の時は、動かない。それがアスタロトの決めたルールである。実際、このルールで大きな失敗はなかった。そう説明され、不満に思いながらもリリスは納得する。
「わかったわ。ここにいましょうね、イヴ」
「ぶぅ」
母同様に不満を表明するイヴだが、大人しくリリスの腕に収まっている。最近重くなってきた娘を、軽量化の魔法陣が入ったおんぶ紐で支えるリリスは、膨らんだイヴの頬にキスをした。
「子どもが行方不明だなんて、親も耐えられないわ」
心配を口にするリリスに、集まった大公女達も頷く。全員が母であり、我が子を大切に育てている。もし行方不明になったらと想像するだけで、ぞっとした。顔を見合わせた彼女達は、一斉に口を開く。その内容はすべて、親達を慰めたいという申し出だった。
「残念ですが、彼らと会うための移動は認められません」
人が分散するだけ危険度が増す。どのような状況や条件で神隠しが起きているか、判明するまで同じ場所で纏まっていることが自衛策だった。アスタロトの説明に、彼女らも納得する。噂を聞いた人が自然と集まり、魔王の執務室は人が溢れ始めた。
理屈で説明できず、原因が判明していない「神隠し」に対する恐怖が、人々の足を安全な場所へと向かわせる。最強の純白魔王が不在でも、その執務室は安心できる気がした。あまりに増えていくので、アスタロトは苦笑いして指示を出す。
「謁見の間を使いましょう。事件が解決するまで、避難所とします」
過去に実例のある命令は、大公の権限で発令可能だ。大規模な暴動や災害が起きた場合など、民の生命に危険が及ぶと判断した時に、謁見の間を利用する。そういった使い方もかねて、大きめに造られた部屋だった。
「準備に入ってください」
聞いていた侍従長のベリアルが走り出し、侍女長のアデーレも侍女を束ねて動き始める。現時点で魔王城に留まっているのは、使用人やその家族ばかりだが、今後は保護を求めて逃げ込む民も計算しなくてはならない。
「部屋が足りませんね。使える客間、及び我が居城も使うとしましょう」
あれこれと采配するアスタロトの様子を見ながら、リリスとシトリーは「子ども部屋」を用意する提案をした。幼子がいればどうしても泣く。気が立っている状況では、乱暴に叱る者が現れるかも知れなかった。事前の対策を打ちながら、女性ならではの視点で意見を出す。
大公女達の本領発揮はこれからだった。ルーシアは非常用食料のチェックに走り、毛布や日用品の在庫表を手に動くルーサルカ。レライエは各種族へ避難所設置の連絡を担った。各地で貴族の館が避難場所に指定され、子どもがいる家庭は優先的に逃げ込むことが可能だ。
「僕の手伝うこと、残ってる?」
水色の髪をぼさぼさに乱したルキフェルが飛び込んだ時、すでに手分けして大公女達は動き出していた。
リリスは不思議がっていた。魔力の流れが変化すれば、以前のように知らせてくれる。そう考えていた。今回はルキフェルの観測結果に大きな変化があったのに、母リリンから何も連絡がない。眠っている時期だからか、そう考えたが違和感があった。
「ちょっとお母様に聞いて来ようと思うの」
「今はおやめください」
一緒に留守を守るよう命じられたアスタロトは、迷惑そうに眉を寄せた。これでリリスが行方不明になったり、騒動を起こせば問題が大きくなる。長い治世を共に支えた大公として、彼が学んだことのひとつだった。
ひとつの事件が起きた時は、それが解決するまで新たな事件を起こさない。当たり前なのだが、意外と守られないルールだ。今のリリスのように、解決のためや良かれと思って行動する者が現れる。それが良い方へ働けば助けになるが、悪い方へ働くと新たな騒動の火種となった。
可能性が半分半分でどちらに転ぶか不明の時は、動かない。それがアスタロトの決めたルールである。実際、このルールで大きな失敗はなかった。そう説明され、不満に思いながらもリリスは納得する。
「わかったわ。ここにいましょうね、イヴ」
「ぶぅ」
母同様に不満を表明するイヴだが、大人しくリリスの腕に収まっている。最近重くなってきた娘を、軽量化の魔法陣が入ったおんぶ紐で支えるリリスは、膨らんだイヴの頬にキスをした。
「子どもが行方不明だなんて、親も耐えられないわ」
心配を口にするリリスに、集まった大公女達も頷く。全員が母であり、我が子を大切に育てている。もし行方不明になったらと想像するだけで、ぞっとした。顔を見合わせた彼女達は、一斉に口を開く。その内容はすべて、親達を慰めたいという申し出だった。
「残念ですが、彼らと会うための移動は認められません」
人が分散するだけ危険度が増す。どのような状況や条件で神隠しが起きているか、判明するまで同じ場所で纏まっていることが自衛策だった。アスタロトの説明に、彼女らも納得する。噂を聞いた人が自然と集まり、魔王の執務室は人が溢れ始めた。
理屈で説明できず、原因が判明していない「神隠し」に対する恐怖が、人々の足を安全な場所へと向かわせる。最強の純白魔王が不在でも、その執務室は安心できる気がした。あまりに増えていくので、アスタロトは苦笑いして指示を出す。
「謁見の間を使いましょう。事件が解決するまで、避難所とします」
過去に実例のある命令は、大公の権限で発令可能だ。大規模な暴動や災害が起きた場合など、民の生命に危険が及ぶと判断した時に、謁見の間を利用する。そういった使い方もかねて、大きめに造られた部屋だった。
「準備に入ってください」
聞いていた侍従長のベリアルが走り出し、侍女長のアデーレも侍女を束ねて動き始める。現時点で魔王城に留まっているのは、使用人やその家族ばかりだが、今後は保護を求めて逃げ込む民も計算しなくてはならない。
「部屋が足りませんね。使える客間、及び我が居城も使うとしましょう」
あれこれと采配するアスタロトの様子を見ながら、リリスとシトリーは「子ども部屋」を用意する提案をした。幼子がいればどうしても泣く。気が立っている状況では、乱暴に叱る者が現れるかも知れなかった。事前の対策を打ちながら、女性ならではの視点で意見を出す。
大公女達の本領発揮はこれからだった。ルーシアは非常用食料のチェックに走り、毛布や日用品の在庫表を手に動くルーサルカ。レライエは各種族へ避難所設置の連絡を担った。各地で貴族の館が避難場所に指定され、子どもがいる家庭は優先的に逃げ込むことが可能だ。
「僕の手伝うこと、残ってる?」
水色の髪をぼさぼさに乱したルキフェルが飛び込んだ時、すでに手分けして大公女達は動き出していた。
20
お気に入りに追加
773
あなたにおすすめの小説
外れ婚約者とは言わせない! 〜年下婚約者様はトカゲかと思ったら最強のドラゴンでした〜
秋月真鳥
恋愛
獣の本性を持つものが重用される獣国ハリカリの公爵家の令嬢、アイラには獣の本性がない。
アイラを出来損ないと周囲は言うが、両親と弟はアイラを愛してくれている。
アイラが8歳のときに、もう一つの公爵家で生まれたマウリとミルヴァの双子の本性はトカゲで、二人を産んだ後母親は体調を崩して寝込んでいた。
トカゲの双子を父親は冷遇し、妾腹の子どもに家を継がせるために追放しようとする。
アイラは両親に頼んで、マウリを婚約者として、ミルヴァと共に自分のお屋敷に連れて帰る。
本性が本当は最強のドラゴンだったマウリとミルヴァ。
二人を元の領地に戻すために、酷い父親をザマァして、後継者の地位を取り戻す物語。
※毎日更新です!
※一章はざまぁ、二章からほのぼのになります。
※四章まで書き上げています。
※小説家になろうサイト様でも投稿しています。
表紙は、ひかげそうし様に描いていただきました。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる