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第14章 それはオーパーツ?
240.半生で食中毒多数
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戦艦がいつ落ちてきたか。年代を測定するのは、一時中断となった。というのも、どのくらいの年月で、どれだけ貝が付着して金属が腐食するか。実験を待って結果を出すことになる。
魔族は寿命が長いこともあり、そこの研究はきっちり年数をかけて行われた。今回は船の金属を分析し、同じ金属板を製作する。ルシファーが戦艦を発見した、元海王の棲家近くへ沈めることになった。その金属片に付着する貝の量や腐食具合から、年代測定が可能になる。
簡易プールは、城下町の民にも開放された。普段の川遊びと違い、水の事故が起きる可能性が低い。周囲を大人が見守れることも手伝い、人気が高かった。
「いっそ常設するか」
「そういえば、私も小さい頃に遊んだわ」
「ああ。3歳頃に庭に小さなプールを作ったっけ。あの時は裸……むぐぅ」
余計なことまで思い出したルシファーの口を、リリスは手にしたイヴのおむつを突っ込んで止めた。未使用の予備だが、かなりシュールな光景に誰もが目を逸らす。うっかり指摘されたり、見たなと認識されることを防ぐためだ。見なかったことにするのが、一番平和な解決方法だった。
「うっ、酷い」
おむつを確認して、綺麗に畳んでから収納へしまうルシファーは、言葉のわりに余裕がある。リリスはムッとした顔で、イヴの黒髪を撫でた。が、そっぽ向いたままで……結局ルシファーが折れる。
「悪かった、リリス」
「何が悪かったの?」
「リリスとオレの大切な記憶を他人の前で口にしたことだ」
「……っ、そうよ」
本音は昔話を出されたことで恥ずかしかっただけ。ただ、そう言われると嬉しいのも事実だった。耳や頬を赤く染めたリリスは、ある意味、ちょろいのかも知れない。しかしルシファーも地で誑かすのでタチが悪い。まったく誤魔化す気はなく、素であの発言は人タラシ極まれりだった。
戦艦の内部調査は、まだ続いている。削ぎ落した貝を食べられるか期待し、イフリートが手の中で炙って浜焼きを決行した。が、残念ながら美味しくなかったとか。食べられる貝か判断する仕事は、なぜかアベルが請け負うことになった。
魔族にとっては未知の食べ物だが、日本人には海産物はなじみ深い。過去に食べたことがある物を区別するだけなら、アンナやイザヤと相談することで解決できると笑った。
そして……その日の夜。非常に美味しい貝を浜焼きにして食し、酒を飲んだドワーフと毒に耐性がある種族以外は、腹を壊して手当てを受けることになった。カキと呼ぶ貝なのだが、生でも食べられると言いながら飲み込んだアベルも、ものすごい脂汗を垂らしながら転がる。
「カキは焼いても毒が抜けにくいのよ。まったく」
呆れ顔で手当てを行うアンナは、生ガキが嫌いだと言って口にしなかった。今になれば正解である。同じように食べたのに毒が効かなかったルシファーとリリスは、気の毒そうに解毒作業に当たった。
アンナの説明によれば、じっくり火を通せば毒はほぼ消えるらしい。だが半生のカキが混じっていたようだ。というより、ほとんど半生だった。見る限り、数十秒しか焼いていなかったし、貝殻の上に置いて焼いたので火の通りも悪かっただろう。
その分口当たりはクリーミーで濃厚だったが、今後はカキの食べ方をきちんと調べて文書で通達を出すしかない。唸る民に解毒魔法陣を翳しながら、ルシファーは溜め息を吐いた。日本人は何でも食べたがるが、危険もあることを覚えておく必要がありそうだな。
「うぅ……」
「これで何回目だっけ? 懲りないわね」
アベルの手当てをするアンナに、妻であるルカが「そんなに?」と質問を投げる。アンナは指折り数えて、片手をすべて倒した。
「私が知るだけで5回はカキに当たってるわ」
「……それでも食べたいなんて」
上も下も大洪水の夫を、怯えた目でルカが眺める。ちなみに、この時カキの毒に当たった魔族の民は、排泄物自動除去機能付きの快適赤子用おむつを大きく改良したものを着用させられた。お陰でその快適さが認められ、大人用おむつも売れ始めたとか。
魔族は寿命が長いこともあり、そこの研究はきっちり年数をかけて行われた。今回は船の金属を分析し、同じ金属板を製作する。ルシファーが戦艦を発見した、元海王の棲家近くへ沈めることになった。その金属片に付着する貝の量や腐食具合から、年代測定が可能になる。
簡易プールは、城下町の民にも開放された。普段の川遊びと違い、水の事故が起きる可能性が低い。周囲を大人が見守れることも手伝い、人気が高かった。
「いっそ常設するか」
「そういえば、私も小さい頃に遊んだわ」
「ああ。3歳頃に庭に小さなプールを作ったっけ。あの時は裸……むぐぅ」
余計なことまで思い出したルシファーの口を、リリスは手にしたイヴのおむつを突っ込んで止めた。未使用の予備だが、かなりシュールな光景に誰もが目を逸らす。うっかり指摘されたり、見たなと認識されることを防ぐためだ。見なかったことにするのが、一番平和な解決方法だった。
「うっ、酷い」
おむつを確認して、綺麗に畳んでから収納へしまうルシファーは、言葉のわりに余裕がある。リリスはムッとした顔で、イヴの黒髪を撫でた。が、そっぽ向いたままで……結局ルシファーが折れる。
「悪かった、リリス」
「何が悪かったの?」
「リリスとオレの大切な記憶を他人の前で口にしたことだ」
「……っ、そうよ」
本音は昔話を出されたことで恥ずかしかっただけ。ただ、そう言われると嬉しいのも事実だった。耳や頬を赤く染めたリリスは、ある意味、ちょろいのかも知れない。しかしルシファーも地で誑かすのでタチが悪い。まったく誤魔化す気はなく、素であの発言は人タラシ極まれりだった。
戦艦の内部調査は、まだ続いている。削ぎ落した貝を食べられるか期待し、イフリートが手の中で炙って浜焼きを決行した。が、残念ながら美味しくなかったとか。食べられる貝か判断する仕事は、なぜかアベルが請け負うことになった。
魔族にとっては未知の食べ物だが、日本人には海産物はなじみ深い。過去に食べたことがある物を区別するだけなら、アンナやイザヤと相談することで解決できると笑った。
そして……その日の夜。非常に美味しい貝を浜焼きにして食し、酒を飲んだドワーフと毒に耐性がある種族以外は、腹を壊して手当てを受けることになった。カキと呼ぶ貝なのだが、生でも食べられると言いながら飲み込んだアベルも、ものすごい脂汗を垂らしながら転がる。
「カキは焼いても毒が抜けにくいのよ。まったく」
呆れ顔で手当てを行うアンナは、生ガキが嫌いだと言って口にしなかった。今になれば正解である。同じように食べたのに毒が効かなかったルシファーとリリスは、気の毒そうに解毒作業に当たった。
アンナの説明によれば、じっくり火を通せば毒はほぼ消えるらしい。だが半生のカキが混じっていたようだ。というより、ほとんど半生だった。見る限り、数十秒しか焼いていなかったし、貝殻の上に置いて焼いたので火の通りも悪かっただろう。
その分口当たりはクリーミーで濃厚だったが、今後はカキの食べ方をきちんと調べて文書で通達を出すしかない。唸る民に解毒魔法陣を翳しながら、ルシファーは溜め息を吐いた。日本人は何でも食べたがるが、危険もあることを覚えておく必要がありそうだな。
「うぅ……」
「これで何回目だっけ? 懲りないわね」
アベルの手当てをするアンナに、妻であるルカが「そんなに?」と質問を投げる。アンナは指折り数えて、片手をすべて倒した。
「私が知るだけで5回はカキに当たってるわ」
「……それでも食べたいなんて」
上も下も大洪水の夫を、怯えた目でルカが眺める。ちなみに、この時カキの毒に当たった魔族の民は、排泄物自動除去機能付きの快適赤子用おむつを大きく改良したものを着用させられた。お陰でその快適さが認められ、大人用おむつも売れ始めたとか。
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