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第13章 海は新たな楽園か
222.対策の前に調査と情報収集を
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招集された幹部会議を行う謁見の大広間は、緊迫した空気に包まれた。大公であるルキフェルまで影響を及した危険が迫っているのである。誰もがぴりぴりする中、ルシファーが出した魔王令の提案書がじっくりと読まれていく。
「却下です」
「改善の余地がありますね」
ベールとアスタロトに一刀両断、容赦なく切り捨てられた。むっとした顔で「なぜだ?」と問う魔王は不機嫌さを隠そうともしない。民が海へ誘いだされる現状、それを食い止める手段が必要なのは意見が一致した。そこから先の実行案が通らない。
ならば、いい案があるのか? そんな顔で大公二人を睨むルシファーの横で、イヴがあふぅと欠伸をした。リリスの腕に抱かれたお姫様は、大きな銀の瞳で集まった面々を眺める。指を咥えた様子から、リリスがお菓子を取り出して与えた。
「リリス、イヴを甘やかしてはダメだ」
「お腹空いてるのに、可哀想よ」
どちらの意見も間違っていないけど、この場で議論してるのはもっと重要な問題じゃないかしら。ベルゼビュートはぱちくりと瞬きして、肩を落とした。これでは我が子をお風呂に入れる時間までに帰れるか、不安になったのだ。
「陛下、お話を戻します。この案では魔獣に警戒ラインを敷かせていますが、上位魔獣のフェンリルが操られた以上、魔獣を使うのは危険でしょう」
ベールはもっともな意見を出した。同じ理由で却下されたドラゴン種の前例もあり、ここはルシファーも素直に頷く。
「警戒ラインは問題ありません。ただ種族を限定するのは危険ですね。幻惑や魅了に耐性のある種族を中心に集め、それぞれを監視させる必要もあります」
改善を口にしたアスタロトは、警戒ラインそのものは利用すべきと主張した。真剣に考えこむルシファーの隣で、リリスは愛娘に焼き菓子を与える。手でぐしゃりと握り、指ごと口に入れるイヴは音を立てて咀嚼した。
「吸血種は魅了に強かったな」
「あとはイポスの一族も魅了を扱うので……」
アスタロトと具体的な種族の選定に入ったルシファーの手が、イヴの汚れた指を捕まえて拭う。リリスも口元についたお菓子をキスで受け止めた。仲睦まじい家族の光景の背後で、魔族の最高幹部会議の議論が続く。なんともシュールな光景だった。
「ルシファー様、真剣に話してください」
「きちんと議論に参加しているだろう。指は……家族に割り当てだ」
議論に指は不要だから、家族であるイヴに向けても問題ない。言い切ったルシファーに、アスタロトは大きく溜め息を吐いた。
「あのさ、僕が魅了されたとして……魔力量に関係なく囚われたってことだよね?」
一番最初の被害者になりかけたため、黙っていたルキフェルが口を挟む。簡単に操られたことは不覚だが、奇妙な状況に首を傾げて疑問を呈する。
「ヤンの場合、近くに孫のフェンリルもいたじゃん。なのに、どうしてヤンだけ魅了されたんだろ。魔力量が関係ないなら、孫も術にかかるよね」
もっともな指摘に、ベールが頷く。幻獣や神獣といった特殊能力を持つ魔族の頂点に立つベールも、同様の疑問はあった。ルキフェルほどの実力者を絡め取るなら、ヤンだけじゃなく城門近くにいたピヨやアラエルも魅了されるはず。しかし常に術にかかるのは一人だった。
「法則があるかも知れません。調査を優先させましょう」
「そうだな。まずは情報収集だ」
結局、会議が長かった割に収穫は少なかった。新たな情報収集と調査の一環として、ベルゼビュートとベールが各種族から選抜した者を連れて海辺に滞在する。どの種族に影響があり、どの種族なら影響されないのか。もしくは敵の狙いなど。様々な調査が終わり次第、改めて対策を検討することになった。
「ああ、ルシファー様、ルキフェルも。当然ですが、あの二人の仕事は私達に割り振られますので、朝から執務室で待機してください」
「え?」
「……げっ」
ルシファーはきょとんとした顔で首を傾げたが、ベールの仕事量を知るルキフェルは顔色を青くした。
「却下です」
「改善の余地がありますね」
ベールとアスタロトに一刀両断、容赦なく切り捨てられた。むっとした顔で「なぜだ?」と問う魔王は不機嫌さを隠そうともしない。民が海へ誘いだされる現状、それを食い止める手段が必要なのは意見が一致した。そこから先の実行案が通らない。
ならば、いい案があるのか? そんな顔で大公二人を睨むルシファーの横で、イヴがあふぅと欠伸をした。リリスの腕に抱かれたお姫様は、大きな銀の瞳で集まった面々を眺める。指を咥えた様子から、リリスがお菓子を取り出して与えた。
「リリス、イヴを甘やかしてはダメだ」
「お腹空いてるのに、可哀想よ」
どちらの意見も間違っていないけど、この場で議論してるのはもっと重要な問題じゃないかしら。ベルゼビュートはぱちくりと瞬きして、肩を落とした。これでは我が子をお風呂に入れる時間までに帰れるか、不安になったのだ。
「陛下、お話を戻します。この案では魔獣に警戒ラインを敷かせていますが、上位魔獣のフェンリルが操られた以上、魔獣を使うのは危険でしょう」
ベールはもっともな意見を出した。同じ理由で却下されたドラゴン種の前例もあり、ここはルシファーも素直に頷く。
「警戒ラインは問題ありません。ただ種族を限定するのは危険ですね。幻惑や魅了に耐性のある種族を中心に集め、それぞれを監視させる必要もあります」
改善を口にしたアスタロトは、警戒ラインそのものは利用すべきと主張した。真剣に考えこむルシファーの隣で、リリスは愛娘に焼き菓子を与える。手でぐしゃりと握り、指ごと口に入れるイヴは音を立てて咀嚼した。
「吸血種は魅了に強かったな」
「あとはイポスの一族も魅了を扱うので……」
アスタロトと具体的な種族の選定に入ったルシファーの手が、イヴの汚れた指を捕まえて拭う。リリスも口元についたお菓子をキスで受け止めた。仲睦まじい家族の光景の背後で、魔族の最高幹部会議の議論が続く。なんともシュールな光景だった。
「ルシファー様、真剣に話してください」
「きちんと議論に参加しているだろう。指は……家族に割り当てだ」
議論に指は不要だから、家族であるイヴに向けても問題ない。言い切ったルシファーに、アスタロトは大きく溜め息を吐いた。
「あのさ、僕が魅了されたとして……魔力量に関係なく囚われたってことだよね?」
一番最初の被害者になりかけたため、黙っていたルキフェルが口を挟む。簡単に操られたことは不覚だが、奇妙な状況に首を傾げて疑問を呈する。
「ヤンの場合、近くに孫のフェンリルもいたじゃん。なのに、どうしてヤンだけ魅了されたんだろ。魔力量が関係ないなら、孫も術にかかるよね」
もっともな指摘に、ベールが頷く。幻獣や神獣といった特殊能力を持つ魔族の頂点に立つベールも、同様の疑問はあった。ルキフェルほどの実力者を絡め取るなら、ヤンだけじゃなく城門近くにいたピヨやアラエルも魅了されるはず。しかし常に術にかかるのは一人だった。
「法則があるかも知れません。調査を優先させましょう」
「そうだな。まずは情報収集だ」
結局、会議が長かった割に収穫は少なかった。新たな情報収集と調査の一環として、ベルゼビュートとベールが各種族から選抜した者を連れて海辺に滞在する。どの種族に影響があり、どの種族なら影響されないのか。もしくは敵の狙いなど。様々な調査が終わり次第、改めて対策を検討することになった。
「ああ、ルシファー様、ルキフェルも。当然ですが、あの二人の仕事は私達に割り振られますので、朝から執務室で待機してください」
「え?」
「……げっ」
ルシファーはきょとんとした顔で首を傾げたが、ベールの仕事量を知るルキフェルは顔色を青くした。
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