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第13章 海は新たな楽園か
205.海水の竜巻による魔王襲撃?
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これは参った。絶対に怒られる状況じゃないか。結界を張ったらバレないかも知れないが、逆にバレた時が怖いな。
巨大竜巻の中央、目の部分で周囲を見回す。筒状になった海水は、ゆっくりと沖へ進んでいた。転移で外へ出ようとしたが、何らかの制限があるらしい。弾かれてしまった。仕方ないので外へ出ようと物理的に飛んだが……問題は上部も塞がっていることだ。海水の筒は上部が三角に尖って閉じていた。
三角錐と表現するのが近いかも知れない。
「ケガ人はいないか?」
「はい、無事です」
ルーシアやアンナに確認したイポスが、報告の形を取って状況をまとめる。子ども達も無事で、誰一人欠けていなかった。逆に言えば、誰か外にいてくれないと、助けを呼べない。この海水に何が含まれているか分からないが、内側で魔法が使えないことは確かだった。
「外へ出る方法、か」
逆凪で魔力が使えなくなった経験がある。あの時は引き裂かれた体内に魔力が巡ると、激痛が走った。その症状に似ている。先ほど魔力を練ってぶつけたところ、海水は思わぬ反応を示した。
風により穴が開くはずが、きらきら光ったのだ。虹色のような膜が発生し、魔力はそっくり返還された。攻撃という形を取って。咄嗟に魔法を解除したが、もしルーシアやジンが同じことをしていたら、解除が間に合わなかった可能性がある。
「状況がはっきりするまで、魔法の使用を禁ずる」
「「はい」」
きゃっきゃとはしゃぐイヴは、他の子ども達同様、目を輝かせていた。巻き上げられた海水に、何かが透けて見えるらしい。手を伸ばそうとしたので、慌てて止めた。
「指が千切れたら困るからな」
「やぁ!」
嫌だと抗議する愛娘の指先にチュッとキスをして、そっと握り込む。その様子を見ていたリリスは首を傾げた。
「ねえ、イヴが無効化出来るんじゃないかしら」
「出来なかったら指がなくなるぞ」
「それは困るわね」
側から見るとのんびりした会話だが、一応魔族のトップ会談である。魔王と魔王妃は真剣に、外へ出る方法を考えていた。外から見ると、雑談にしか聞こえないとしても。
「アスタロトを呼んでみるか。アイツは影を使って往復できるかも」
「アシュタもいいけど、ベルゼ姉さんも出来そうよ。海水って水だから精霊が強いんでしょ?」
話し合いにルーシアがおずおずと割り込んだ。
「お話中失礼しますわ。水の精霊族である私の力が一切及ばないので、おそらくベルゼビュート様も同様かと」
水の精霊族、それも貴族であるルーシアと風の精霊族のジンは複雑な思いで顔を見合わせた。彼らも脱出のために力を振り絞ってみたが、娘達も含め誰も効果が出ない。たとえ竜巻の勢いに負けたとしても、部分的に反応があるはず。手応えも反応もなく魔力が吸収されたため、二人は困惑顔だった。
「そうか、ならアスタロトだな」
「アシュタしかいないわね」
魔王夫妻は顔を見合わせ、ルシファーが召喚の魔力を込めて吸血鬼王を呼ぶ。しかし待っても反応がなかった。もう一度呼んで、ルシファーは大きく肩を落とした。
「理由は不明だが、この海水が魔力を遮っているのは確実だな」
召喚も転移もダメ、その上物理的にも塞がれた。通常ならここで諦めるのだろうが、魔族の王となったルシファーは打たれ強い。癖のある部下を従え、さまざまなトラブルを解決してきた彼は、どこまでも前向きだった。
「ちょっと突進してみるから、イヴを預かってくれ」
「分かったわ」
魔の森の娘であるリリスも、この点ではルシファーに負けず劣らずだ。通常は夫に「危険だからやめて」と口にするが、彼女は平然と娘を受け取って「頑張ってね」と手を振った。イヴの小さな手を握っての応援に、ルシファーは笑顔で……海水の壁に体当たりをかました。
巨大竜巻の中央、目の部分で周囲を見回す。筒状になった海水は、ゆっくりと沖へ進んでいた。転移で外へ出ようとしたが、何らかの制限があるらしい。弾かれてしまった。仕方ないので外へ出ようと物理的に飛んだが……問題は上部も塞がっていることだ。海水の筒は上部が三角に尖って閉じていた。
三角錐と表現するのが近いかも知れない。
「ケガ人はいないか?」
「はい、無事です」
ルーシアやアンナに確認したイポスが、報告の形を取って状況をまとめる。子ども達も無事で、誰一人欠けていなかった。逆に言えば、誰か外にいてくれないと、助けを呼べない。この海水に何が含まれているか分からないが、内側で魔法が使えないことは確かだった。
「外へ出る方法、か」
逆凪で魔力が使えなくなった経験がある。あの時は引き裂かれた体内に魔力が巡ると、激痛が走った。その症状に似ている。先ほど魔力を練ってぶつけたところ、海水は思わぬ反応を示した。
風により穴が開くはずが、きらきら光ったのだ。虹色のような膜が発生し、魔力はそっくり返還された。攻撃という形を取って。咄嗟に魔法を解除したが、もしルーシアやジンが同じことをしていたら、解除が間に合わなかった可能性がある。
「状況がはっきりするまで、魔法の使用を禁ずる」
「「はい」」
きゃっきゃとはしゃぐイヴは、他の子ども達同様、目を輝かせていた。巻き上げられた海水に、何かが透けて見えるらしい。手を伸ばそうとしたので、慌てて止めた。
「指が千切れたら困るからな」
「やぁ!」
嫌だと抗議する愛娘の指先にチュッとキスをして、そっと握り込む。その様子を見ていたリリスは首を傾げた。
「ねえ、イヴが無効化出来るんじゃないかしら」
「出来なかったら指がなくなるぞ」
「それは困るわね」
側から見るとのんびりした会話だが、一応魔族のトップ会談である。魔王と魔王妃は真剣に、外へ出る方法を考えていた。外から見ると、雑談にしか聞こえないとしても。
「アスタロトを呼んでみるか。アイツは影を使って往復できるかも」
「アシュタもいいけど、ベルゼ姉さんも出来そうよ。海水って水だから精霊が強いんでしょ?」
話し合いにルーシアがおずおずと割り込んだ。
「お話中失礼しますわ。水の精霊族である私の力が一切及ばないので、おそらくベルゼビュート様も同様かと」
水の精霊族、それも貴族であるルーシアと風の精霊族のジンは複雑な思いで顔を見合わせた。彼らも脱出のために力を振り絞ってみたが、娘達も含め誰も効果が出ない。たとえ竜巻の勢いに負けたとしても、部分的に反応があるはず。手応えも反応もなく魔力が吸収されたため、二人は困惑顔だった。
「そうか、ならアスタロトだな」
「アシュタしかいないわね」
魔王夫妻は顔を見合わせ、ルシファーが召喚の魔力を込めて吸血鬼王を呼ぶ。しかし待っても反応がなかった。もう一度呼んで、ルシファーは大きく肩を落とした。
「理由は不明だが、この海水が魔力を遮っているのは確実だな」
召喚も転移もダメ、その上物理的にも塞がれた。通常ならここで諦めるのだろうが、魔族の王となったルシファーは打たれ強い。癖のある部下を従え、さまざまなトラブルを解決してきた彼は、どこまでも前向きだった。
「ちょっと突進してみるから、イヴを預かってくれ」
「分かったわ」
魔の森の娘であるリリスも、この点ではルシファーに負けず劣らずだ。通常は夫に「危険だからやめて」と口にするが、彼女は平然と娘を受け取って「頑張ってね」と手を振った。イヴの小さな手を握っての応援に、ルシファーは笑顔で……海水の壁に体当たりをかました。
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