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第12章 次世代は逞しい
194.ぱちんと消してみてくれ
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覗き込んだ球体の中は、相変わらず透けている。彼らの姿は見えない。リリスは一緒に覗き込み、肩を竦めた。
「休憩してみるみたい」
「それならいいが」
奥方達は口々に夫の文句を言いながらも、不安そうだった。奇妙な理論を立てて実験するのは、ドワーフの習性に近い。だが失敗すれば命を失う可能性もあることを、彼女達はあえて忘れてきた。その現実が目の前に突きつけられたのだ。
「予定通りなら透明になるだけだったのか」
壁を作って透明にする。またはこの素材で透明の壁を建てる。どちらも希望通りの結果をもたらしただろう。途中でアミーの毛が混じらなければ……なんてことはなかった。逆に言えば、現時点で危険性が判明してよかったと考えるべきか。もっと多くの民を巻き込んで騒動になる可能性もあったのだから。
アスタロトは何としても自力で脱出するだろう。多少の消耗はあっても彼の実力なら可能だった。問題はドワーフ達を一緒に逃がせるか。その点が確定しないとアスタロトも外に出るわけに行かない。万が一、外に出た後で戻れなくなれば、ドワーフの親方を含めた4人を見殺しにする結果になる。
この点が解決するまで、アスタロトも外へ出ないはずだ。こちらが先に動く必要があった。
「まあ、得体の知れない物じゃなくなったわけだし」
試してみるしかない。イヴはぐたぁと全身で懐いたまま眠っている様子だ。完全に脱力した娘を起こすのも可哀想だが、起きるまで待つのも外聞が悪かった。アスタロトだけなら待たせるんだがな。
「ルシファー、無効化が効くの?」
「わからん。が、魔法の一部と考えるなら可能性はある」
何より、魔の森の娘であるリリスが「たぶんできる」と口にした。勘頼りだが、リリスの勘は当たるのだ。危険があれば己の身を盾にして守ればいい話だった。ルシファーは覚悟を決める。
「試してみよう」
「じゃあ、私も行くわ」
するりと腕を絡めたリリスは、オレの腕で寛ぐ娘をじっと見つめた。全身の力を抜いてぐったりと身を預け信頼を示すイヴの頬を撫で、ほわりと笑う。
「この子なら出来るわ」
その言葉を裏付けるように、ぱちりと目を開いたイヴが瞬く。顔立ちも髪色もリリスに似ているのに、その銀の瞳はルシファーにそっくりだった。ぱちぱちと瞬いて、笑顔で小さな手を伸ばす。最強の魔王である父親に向かい、恐れも躊躇いもなく。
「ぱっぱ」
「イヴ、お願いがあるんだが……あの透明で丸いのを、ぱちんと消してみてくれ」
「ぱち?」
繰り返して首を傾げたあと、きらきらと目を輝かせた。頷く様子から理解したと判断しかけて……ふと不安になる。この子はまだ1歳前後、本当に話を理解できたのか? 間違えて全部消したりしないよな。
「大丈夫よ、ルシファー。私も隣で手伝うから」
リリスがそう囁く後ろで、ドワーフの奥方達が一斉に頭を下げた。万が一があっても仕方ない。最強の魔王と、魔の森の娘である魔王妃が全力を尽くして助からないなら、誰も助けられないのだから。彼女達はそう口にした。
「うちの旦那が、えらいすみません」
「消えちゃっても仕方ないんで、試してみてください」
震える声で告げた彼女達に報いるためにも、ここは試してみよう。イヴは機嫌よく両手を振り回してはしゃいでるし、リリスも手伝うと言ってくれた。結局、こういった場面ではいつも女性の方が強いのだ。背中を押される形でルシファーは背に翼を広げた。
「ぱっぱ! しろ!」
興奮した娘に頬ずりし、ふわりと球体の上に舞い降りる。先ほど撒いた小麦粉で浮かんだ球体にそっと手を触れた。それからイヴの手を掴んだリリスが球体に押し当てる。変化は一瞬だった。
「休憩してみるみたい」
「それならいいが」
奥方達は口々に夫の文句を言いながらも、不安そうだった。奇妙な理論を立てて実験するのは、ドワーフの習性に近い。だが失敗すれば命を失う可能性もあることを、彼女達はあえて忘れてきた。その現実が目の前に突きつけられたのだ。
「予定通りなら透明になるだけだったのか」
壁を作って透明にする。またはこの素材で透明の壁を建てる。どちらも希望通りの結果をもたらしただろう。途中でアミーの毛が混じらなければ……なんてことはなかった。逆に言えば、現時点で危険性が判明してよかったと考えるべきか。もっと多くの民を巻き込んで騒動になる可能性もあったのだから。
アスタロトは何としても自力で脱出するだろう。多少の消耗はあっても彼の実力なら可能だった。問題はドワーフ達を一緒に逃がせるか。その点が確定しないとアスタロトも外に出るわけに行かない。万が一、外に出た後で戻れなくなれば、ドワーフの親方を含めた4人を見殺しにする結果になる。
この点が解決するまで、アスタロトも外へ出ないはずだ。こちらが先に動く必要があった。
「まあ、得体の知れない物じゃなくなったわけだし」
試してみるしかない。イヴはぐたぁと全身で懐いたまま眠っている様子だ。完全に脱力した娘を起こすのも可哀想だが、起きるまで待つのも外聞が悪かった。アスタロトだけなら待たせるんだがな。
「ルシファー、無効化が効くの?」
「わからん。が、魔法の一部と考えるなら可能性はある」
何より、魔の森の娘であるリリスが「たぶんできる」と口にした。勘頼りだが、リリスの勘は当たるのだ。危険があれば己の身を盾にして守ればいい話だった。ルシファーは覚悟を決める。
「試してみよう」
「じゃあ、私も行くわ」
するりと腕を絡めたリリスは、オレの腕で寛ぐ娘をじっと見つめた。全身の力を抜いてぐったりと身を預け信頼を示すイヴの頬を撫で、ほわりと笑う。
「この子なら出来るわ」
その言葉を裏付けるように、ぱちりと目を開いたイヴが瞬く。顔立ちも髪色もリリスに似ているのに、その銀の瞳はルシファーにそっくりだった。ぱちぱちと瞬いて、笑顔で小さな手を伸ばす。最強の魔王である父親に向かい、恐れも躊躇いもなく。
「ぱっぱ」
「イヴ、お願いがあるんだが……あの透明で丸いのを、ぱちんと消してみてくれ」
「ぱち?」
繰り返して首を傾げたあと、きらきらと目を輝かせた。頷く様子から理解したと判断しかけて……ふと不安になる。この子はまだ1歳前後、本当に話を理解できたのか? 間違えて全部消したりしないよな。
「大丈夫よ、ルシファー。私も隣で手伝うから」
リリスがそう囁く後ろで、ドワーフの奥方達が一斉に頭を下げた。万が一があっても仕方ない。最強の魔王と、魔の森の娘である魔王妃が全力を尽くして助からないなら、誰も助けられないのだから。彼女達はそう口にした。
「うちの旦那が、えらいすみません」
「消えちゃっても仕方ないんで、試してみてください」
震える声で告げた彼女達に報いるためにも、ここは試してみよう。イヴは機嫌よく両手を振り回してはしゃいでるし、リリスも手伝うと言ってくれた。結局、こういった場面ではいつも女性の方が強いのだ。背中を押される形でルシファーは背に翼を広げた。
「ぱっぱ! しろ!」
興奮した娘に頬ずりし、ふわりと球体の上に舞い降りる。先ほど撒いた小麦粉で浮かんだ球体にそっと手を触れた。それからイヴの手を掴んだリリスが球体に押し当てる。変化は一瞬だった。
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