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第12章 次世代は逞しい

191.朝まで監視されることになりました

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 ひとまず規制線が敷かれた。と言っても、ごく普通に立ち入り禁止命令が出ただけだ。夜半の事故であるため、対応は明日からとした。理由は内部を確認できるリリスによる一言だ。

「アシュタとドワーフの親方、まだ言い争いをしてるみたい」

 言い争い改め、話し合いが決着するまで放置しようと決まった。つまり出て来られるのに、そのまま揉めている可能性があるのだ。うっかり外へ出すと騒動が大きくなる。何より、内部にいる透明の彼らに実害がないなら、急ぐ必要はないと解散した。

 ドワーフや人狼、侍従達を帰らせる建前だ。大公達はともかく、ルシファーはそんな余裕はなかった。万が一、だ。見捨てて熟睡した情報が洩れたらどうなる? オレの命が危ない、血も魂も抜かれかねない。本能的な恐怖が、魔王を突き動かした。

「仕組みがわからん」

 透明になっているだけで触れたら分かるのか。それとも消えた球体に入ったら自分も透明になるのだろうか。もしかしたら、この部分の次元が狂っていて、亜空間のようになっているかも知れない。様々な憶測を立てる夫の横で、リリスはあふっと欠伸をした。当然のように我が子イヴを抱いている。

「ねえ、ルシファー。寝ましょう」

「アスタロトを出してからだな。リリスとイヴは休んでいいぞ」

 と言っても、見えない以上どうしたらいいか分からない。可愛い妻に徹夜を強いる気はないので、ベッドへと誘導した。しかし彼女は首を横に振る。

「眠かったらお昼寝するからいいわ。そうじゃなくて、アシュタは影を出入りできるじゃない? すぐ出て来れると思うの」

 影を使えば、即時脱出が出来ると考えるリリスの提案で、声を届ける方法が検討された。この状況で外がパニックになっているのに、アスタロト達に気づいた様子はない。こちらの騒動が伝わっていないなら、話しかけても叫んでも聞こえない可能性が高かった。

「透明になった人に声を届ける方法? 考えたこともないなぁ」

 ルキフェルはそう呟き、考え込むように腕を組んだ。さりげなくベールが後ろで支えているところを見ると、眠っているらしい。夜中だし、研究中なら仕方ないだろう。放置してベルゼビュートに尋ねた。

「精霊はほぼ見えないが会話が出来るから、何か方法を知らないか?」

「でも実体としてそこにいることが分かってる状態ですもの。あたくしにアスタロトの実像は感じ取れませんわ」

 あっさりと否定された。

「ベールは?」

 幻獣霊王なら何か手があるのでは? そう話を向けると、彼はルキフェルを支えながら眉を寄せた。少しして迷いながらいくつか提案した。

「まず幻獣の中に姿を消す能力を持つ種族がいますので、招集をかけて試す方法。ユニコーンやユルルングルなら、何か案があるかも知れません。声を届けるだけなら、惑わしの狼スコルも試してみる価値があります」

 最後に付け加えられたのは、本人達が言い合いに飽きて自分達で出てくる方法。これが一番簡単でしょうと締め括られた。このまま眠り、朝までに帰ってきてたらラッキーくらいの話だ。採用した案だが、消えたのがアスタロトとなれば、そう簡単にいかない。

「構わないと思いますわ。人の話も聞かずに何やら騒いでいますし、皆様はお休みください。私共が朝まで監視いたします」

 侍女長アデーレの一言で、皆の意向は固まった。今夜はもう遅いし、明日に差し支えるから眠る。その上で朝までに解決できなければ、幻獣達の力を借りる方向性となった。

「そうだよな、深夜に騒ぐアイツが悪い」

 うんうんと頷き、すやすや眠る愛娘イヴを抱いた美しい妻リリスを抱き上げ、ルシファーはさっさと退場した。魔王が席を外せば、大公達や侍従も従う。残ったのは吸血種の侍女達だった。

「ねえ、ルシファー。さっき……あふっ、アデーレったら監視と言ったわ」

「眠くて聞き間違えたんじゃないか? きっと、観察だろう」

 さっさとベッドに潜り込み、ルシファーは不思議そうなリリスの黒髪を撫でる。額にキスをして、並んで目を閉じた。もちろん、リリスの聞き間違いではないと知りながら。
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