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第12章 次世代は逞しい

187.口が悪いですよ、魔王陛下

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 執務室の扉をくぐる前に、アスタロトに呼び止められた。

「ルシファー様、この部屋に大人がいなくなります」

 スイやルイも成人するには遠い。だが、アスタロトがいるではないか。そう首を傾げたルシファーへ、アスタロトは淡々と言い聞かせた。

「いいですか? 私はこれからゲーテを探しに執務室を出ます。ベルゼビュートを呼んで鱗粉をもらうだけなら、ルシファー様がここに残ってください」

「くそっ、嵌めたな!」

「口が悪いですよ、魔王陛下」

 嫌味ったらしく役職名で呼ばれ、苛立つが反論できない。ゲーテは普段仕事をしているので、魔王城のどこにいるか分からないのだ。世話になるから働きたいと願い出た彼に「備品補充係」という役職を与えたのは、ルシファー自身だった。

 魔王城で暮らすなら、さまざまな部署に顔を出す補充係は最適だ。施設の場所を覚えられる上、各部署の魔族とも顔見知りになれる。補充する関係上、必ず会話が発生するので、溶け込むチャンスだろう。ましてや、息子アミーの将来を考えるなら、魔王城内にツテや顔見知りを作るのは必然だ。

 色々考えて役割を与えたのはいいが、お陰で彼の居場所は分からない。神出鬼没と表現しても構わないくらい、あちこちに突然現れて補充して不足をチェックして消えてしまう。先ほど侍従長であるベリアルに尋ねたが、彼もすれ違った記憶はあるものの現在地を知らなかった。

「……分かった、行ってこい」

 その間、スイとルイの助けを借りながら、なんとか過ごすしかない。高速這い這いを披露するイヴの後ろを、リンが追いかけていく。さらにマーリーンが走って追い回した。何に夢中なのかと思えば、先頭を必死の形相で逃げるのは、ゴルティーである。

 尻尾を掴まれそうになるたび、上にあげたり左右に振ったり、忙しく逃げる。捕まえることより、追いかけっこが目的のようで、子ども達は元気に旋回していた。反対回りして捕まえようとしない辺りが、彼ららしい。ここは放置して問題ないだろう。

 キャロルが巨大なぬいぐるみによじのぼり、心配そうに兄ネイトが下から尻を支えている。

「お兄ちゃん、落ちちゃう!」

「頭を蹴らないで、キャロル。危ないからやめようよ」

 げしげしと足蹴にされながらも耐える兄の姿は、家庭でのグシオンの立場を見ているようで辛い。シトリーは意外にもかかあ天下だと聞いていた。ルシファーは夫婦の縮図である兄妹から目を逸らす。

 ルーシアの子ども達であるライラとアイカの姉妹は、大人しく人形遊びをしていた。言葉にすると穏やかなようだが、実際は人形の手足を掴んで振り回す妹アイカ。壊れた人形を直そうと頑張る姉ライラという光景だった。

 大人しく言いつけを守る子どもなど気味が悪いので、魔族の育て方は放任主義だった。その結果、自由奔放すぎて保育園で先生方が苦労する羽目になる。この子達もいずれ、保育園の先生達が悩む案件になるだろう。

 現実逃避するルシファーへ、ルイが助けを求めた。

「魔王様! イヴ姫が大変です」

「あっ! イヴ、それはダメだ。離しなさい」

 言われて我に返ったルシファーの目に映ったのは、捕まえたゴルティーの尻尾を齧る娘の姿だった。いくら愛娘が可愛くても、この状況では叱る対象がイヴになる。

 半泣きでヒンヒン情けない声をあげるゴルティーは、リンにも噛まれていた。幼い子はなんでも口に入れる習性がある。それは歯が生え始めると、より顕著になった。リリスの時も、いろいろ齧って騒動を起こしたものだ。

 駆け寄ってイヴを抱き上げ、噛んではいけないと言い聞かせる。その間にルイがリンを回収した。騒動に気づいたライラが、泣き続けるゴルティーの尻尾を癒やし始める。

 水の精霊であるライラは、治癒に長けていた。母親ルーシア譲りの、慈愛に満ちた微笑みに、ゴルティーはうっとり見惚れる。それが面白くないのか、イヴが威嚇するように「めっ!」を連発した。
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