上 下
177 / 530
第11章 いい度胸じゃないか!

175.尋問の師弟関係

しおりを挟む
 ルキフェルの強者探検は後日に回された。というより、ルシファーの必死の説得に折れる形だ。代わりに、アスタロトと共同で海王の尋問に勤しむこととなった。本人達が「尋問」と表現するなら、きっと尋問で正しいはず。「拷問」だったりしなければいいが。

 心配はするものの、我が身可愛さに敵を見捨てる魔王である。陸にケンカを売ったし、魔王城を爆破されたり、愛娘を攫われたりと踏んだり蹴ったりだった。庇い立てする義理は感じない。

「リリス、今帰るからな」

 副音声で「浜焼きの材料を連れて」が重なって聞こえるが、気のせい。なぜなら、この場に集まる魔王軍の大半がポケットをぱんぱんに膨らませていた。中にはドラゴンになって、口いっぱいに詰めて運ぼうと画策する者までいる始末だ。

「先に戻るぞ」

「はい、ルシファー様は浜焼きが終わったら書類処理をお願いしますね」

 珍しく上機嫌で譲歩するアスタロト。戻り次第の書類処理を言いつけられなかったことで、ルシファーも鷹揚に頷いた。

「任せろ」

 巨大な転移魔法陣を作り始めるルシファーに便乗するため、サタナキア将軍率いる魔王軍の半数が慌てて駆け寄った。残るメンバーは辺境勤務がまだ残っているらしい。今後、彼らが持ち帰る浜焼きが人気となれば、潮干狩りも始まるだろう。海岸ののどかで平和な光景は目の前だった。

 ルシファー達が消えるのを見送り、吸血鬼王はにやりと笑った。震えあがるようなアスタロトの表情を見て、ルキフェルもにこにこと笑顔を振り撒く。こちらは天真爛漫に思えるが、人畜無害ではない。瑠璃竜王の名を冠する最強ドラゴンは、尋問に張り切っていた。

 可愛い妹分のリリスを泣かせ、大切な主君の娘であるイヴを奪った。それもアスタロトによく似た何かを使って。アスタロトを偽装した方法も調べたいし、目の前の巨大イカも解体してみたかった。ついでに、イヴ姫を脅かした理由を聞き出して制裁を加えたい。

「ルキフェル、いいですか? 一度に殺ってはいけませんよ。こういう輩はぺろりと喋ります。情報を小出しにさせる技術を教えておきましょう」

 一度にすべて話されたら、その後の尋問が出来ない。もちろん表面上「尋問」と言う言葉を使うが、実際は拷問であり処刑でもあった。最後まできっちり処断するために、情報を小出しに吐かせるのも技術なのだ。こういった面はアスタロト一強だった。

 ルシファーは苦しめる手法を好まず、ベールも割とあっさりしている。ここでルキフェルは己の性癖を理解する、最高にして最悪の教師を手に入れた。今後の敵を含め、非常に迷惑な師弟関係が生まれた瞬間だ。

「生き物は何でもそうですが、末端が一番敏感に出来ています。そのため指先などを痛めつける者がいますが……正直、素人の域を出ません。効果が出る場所を責めたら、すぐに落ちてしまうではないですか」

「なるほど。僕はその点がダメなんだね」

「飲み込みが早いと助かります」

 海の生き物が震えあがる中、巨大イカ海王は気絶を装いながら後退を試みた。海の中に逃げ込めば、あとは泳いで海底へ。そんな思惑をアスタロトが見逃すはずもない。

「まず、逃げ道を奪います。逃走手段でもいいですね」

 指先に魔法陣をひとつ呼び出し、海王を包んだ。空中に浮かせた形で固定される。いわゆる磔の状態だった。

「このまま日干しにするのも一つですが、もう少し迅速に行うとしましょう。ルシファー様の書類処理が心配ですので」

 書類処理が明日に回るのも心配だが、浜焼きを許した手前、彼がリリスに振舞う時間も必要だ。いろいろと試算した結果、吊るした状態での処置となった。海の住人達は海水柱が解けた時点で逃げ出し、魔王軍の精鋭達も仕事に行くと言い残して消える。

 残された二人は、海王相手に楽しんだ……らしい。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...