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第9章 入れ替わりはお約束

137.娘の離乳食に再び苦戦する

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 危険物を魔王城から排除した時点で、ルシファーの意識は朝食へ向かう。先ほどルキフェルが騒いだ時、まだ起きたばかりでリリスは寝ぼけていた。というのも、珍しくイヴが夜中にぐずったのだ。なかなか寝てくれず、ルシファーがあやすと言ったのだが、リリスも一緒に起きていた。

 寝坊したリリスの黒髪は寝ぐせでパンクしていたため、夫以外に見せられない。そっとすり抜けるように扉から出たのは、その所為だった。今頃はアデーレの手を借りて整えたに違いない。朝食だからと言い置いて、そそくさと自室へ戻った。

 そっと部屋に入れば、なぜかカーテンが閉まったまま。ベビーベッドを覗くがイヴはおらず、代わりに夫婦のベッドにイヴを抱いた最愛の黒髪美女が眠っていた。

「リリス綺麗だな」

 麗しの眠り姫を見ながらそう呟き、気づいた。もしかしなくても、リリスはオレが出ていった後に二度寝したんじゃないか? 眠いなら眠らせてやろう。朝食はもう少し後でも……。

「うぁ、っ! ぎゃあああぁぁ!!」

 突然叫んだイヴに慌てたルシファーは大急ぎで抱き上げた。小声で名を呼びながらあやすが、のけぞって泣きまくる。その大声に、リリスが目を覚ました。

「あ、ルシファ……ぁ」

 まだ眠そうだ。

「オレがあやすから、もう少し寝てていいぞ」

「うん」

 素直にまた寝てしまったリリスから、いそいそと離れる。部屋のソファに座り、周囲に音を遮断する結界を張った。途端にイヴが破壊する。すっかり忘れていたが、無効化がイヴの能力だ。慌てて室外へ出た。

 泣き続けるイヴを抱いて、すたすたと階下へ降りていく。途中ですれ違った侍従や侍女は笑顔で見送った。リリスを育てていた頃から、見慣れた光景なのだ。暗色の長衣を纏う純白の最強魔王は、育児でも有名だった。

 エルフ達に声をかけ、ヤンを呼び出す。中庭の大木の下に陣取った。すごい勢いで駆けたフェンリルが到着すると、彼の柔らかな腹毛の上に遠慮なく座る。

「悪いな、イヴはヤンの毛皮が好きなんだ」

「差し上げることはまだ出来ませぬが、もし我が死んだら姫様に……」

「ヤン、それ以上言ったら怒るぞ。まだ長生きしてもらう予定だ」

 思わず献上しますと言いかけたヤンだが、魔王に叱られ嬉しそうに尻尾を振った。迷惑なくらい振りまくる尻尾から起きた小さな竜巻が、近くを歩いていた獣人達を襲う。流石の運動神経で避けていく辺り、狐獣人の俊敏さは見事だった。彼らが避けた竜巻は、魔法陣の間をすり抜けて森の木々を揺らして消滅する。

 イヴは柔らかな毛皮に手を伸ばし、にこにこと笑顔を見せていた。先ほどまで泣いていたので、頬は濡れたままだ。それを丁寧にガーゼで拭うルシファーは、ちらりと自室がある最上階を見上げる。

「リリス、具合が悪いのでなければ良いが」

「陛下、イヴ様の離乳食ですわ」

 中庭にもかかわらず、手慣れた様子でワゴンを取り出すアデーレが、そこをテーブル代わりにクロスや食器を用意し始めた。美しく磨かれた銀食器は、小ぶりな物を作らせた。これは意外にも人気が出て、木製や他の金属製で作った子供用食器は大人気だ。魔王城の城門前にある売店で売られ、大ヒット商品だった。

 過去に誰も発売したことがなく、不便だと思いながらも大人の食器を利用したり、ティースプーンを利用していたらしい。取手部分を輪っかにして、子どもが握りやすいよう工夫したのはアンナの意見だ。イヴは自分用のスプーンをしっかり握りしめた。

 同じスプーンを手にしたルシファーが、膝の上の我が子に擦りおろした野菜を差し出す。

「あーん、だ。イヴ」

「ぁあ」

 素直に口を開いたところへ、優しく流し込む。咽せないよう注意して量を調整したが、イヴはもぐもぐと口を動かした後でべぇと吐き出した。

「……今回もまたコレか。よし、次だ!」

 リリスの時にも経験した「この味嫌い」の仕草に苦笑いし、好きな味を探すべく次の皿に手を伸ばした。
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