97 / 530
第7章 幼子は小さな暴君である
95.新たな能力が発覚!?
しおりを挟む
ルーサルカの次男は黒髪に黒瞳で、父親のアベルそっくりである。転がされて泣き出したリンを膝に載せたら、イヴがのけぞって怒った。父親を独占したいのかと微笑むが、油断したところを思いっきり噛まれる。
「いてぇ! ちょ、いた……」
まるで爪を研ぐ猫である。勢いよく噛み続けるイヴを引き剥がせず痛みを我慢するルシファーは、幼児達を大量にぶら下げたツリーのようだった。うっかりしゃがんだので、起き上がると誰かが転がってしまう。そこで今度はゴルティーが炎を吐く。
「こらこら」
打ち消したところで、嫌な予感がして後ろを振り返る。腕を組んで見つめるベールが、書類を指さした。新しい書類を積んだところで、何か言いたいことがあるらしい。子ども達をすべて結界で包み、揺籃のように揺らして機嫌を取った魔王は、いそいそと机に戻る。
「書類、やり直しです」
「なんで?」
「どの子か知りませんが、この部屋で魔法を使ったでしょう」
「ジルが竜巻を……え?」
慌てて確認する書類は、署名も押印も消えている。結界を張って防がなかったルシファーのミスだ。しかもジルが作った風の魔法を、ルシファー自身が魔法で打ち消した。どちらが原因か分からないが、室内で魔法を使うなら結界で遮断すべきなのに。
がくりと肩を落とし、結界を張って書類に挑む。半分も片付けたのに、全部やり直しだった。ある意味、内容が頭に入っているだけ早いのが救いだろうか。そんなルシファーの足を掴んで立ち上がるのは、マーリーンだった。
柵の隙間を抜けてきたのか。2歳を過ぎ、もうすぐ誕生日の来るマーリーンは「がうぅ」と奇妙な声を上げる。と、ゴルティーが興奮して襲い掛かる。マーリーンの手に噛みついたので彼女が泣きだし、大惨事になった。
「これはいったい……」
「魅了ですか」
動物や魔獣に効く魅了を扱うのは、マーリーンの母イポスの能力だ。サタナキアの一族に突然変異で現れた能力は、どうやら娘に受け継がれたらしい。ということは、彼女は吸血種ではない。
「うーん。複雑だな」
「能力は登録しておきます」
過去にサタナキアが登録せずに罰を受けた経緯があるので、そこはルシファーも同意した。
「悪いが頼む」
となると、この場で一番魔獣に近いドラゴン姿のゴルティーが噛みついたのは、魅了への抵抗だ。魔力量が高い翡翠竜の子でなければ、魅了された可能性がある。これは本人が制御できるまで封じる必要があるかも知れないな。
あれこれ考えながら、手元の書類に署名と押印を施した。再処理になった書類の上に、ベールがそっと書類を重ねる。気づかないルシファーは確認せずに署名した。押印しようとして手を止める。
「おい、これは違うぞ」
「紛れたようです。申し訳ありません」
口調は丁寧に謝るが、絶対に確信犯だ。睨むルシファーが未処理へ書類を戻した。きちんと読んでいるか確認するためだったが、思ったより書面をきちんと見ているらしい。満足したベールは、近くの応接用ソファに腰掛けた。
白紙の申請書に、マーリーンの魅了能力を記していく。魅了は他者を操る能力であるため、登録が義務なのだ。手早く書類を作成し、イポスへ渡すようメモを付けた。
「……ベール、丈夫な柵は予算で出るか?」
「申請書があれば……ああ、これは大変です」
言葉のわりに平坦な声で告げたベールは、苦笑いする。マーリーンが出た隙間を広げる形で、子ども達が外へ出てきた。倒れた柵は半壊状態だ。
「ですが、陛下。結界で囲いを作ればよいのでは?」
なぜ物理的な柵なのですか。問われて、ルシファーは溜め息を吐いた。
「見える柵じゃないと、子どもが突進するんだ」
まだ魔力感知が未熟な子どものケガ予防だった。あれこれ検討した結果、柵を予算で購入して上に結界魔法を重ねることで話が付いた。魔王城の予備費から柵代は支出されたとか。
「いてぇ! ちょ、いた……」
まるで爪を研ぐ猫である。勢いよく噛み続けるイヴを引き剥がせず痛みを我慢するルシファーは、幼児達を大量にぶら下げたツリーのようだった。うっかりしゃがんだので、起き上がると誰かが転がってしまう。そこで今度はゴルティーが炎を吐く。
「こらこら」
打ち消したところで、嫌な予感がして後ろを振り返る。腕を組んで見つめるベールが、書類を指さした。新しい書類を積んだところで、何か言いたいことがあるらしい。子ども達をすべて結界で包み、揺籃のように揺らして機嫌を取った魔王は、いそいそと机に戻る。
「書類、やり直しです」
「なんで?」
「どの子か知りませんが、この部屋で魔法を使ったでしょう」
「ジルが竜巻を……え?」
慌てて確認する書類は、署名も押印も消えている。結界を張って防がなかったルシファーのミスだ。しかもジルが作った風の魔法を、ルシファー自身が魔法で打ち消した。どちらが原因か分からないが、室内で魔法を使うなら結界で遮断すべきなのに。
がくりと肩を落とし、結界を張って書類に挑む。半分も片付けたのに、全部やり直しだった。ある意味、内容が頭に入っているだけ早いのが救いだろうか。そんなルシファーの足を掴んで立ち上がるのは、マーリーンだった。
柵の隙間を抜けてきたのか。2歳を過ぎ、もうすぐ誕生日の来るマーリーンは「がうぅ」と奇妙な声を上げる。と、ゴルティーが興奮して襲い掛かる。マーリーンの手に噛みついたので彼女が泣きだし、大惨事になった。
「これはいったい……」
「魅了ですか」
動物や魔獣に効く魅了を扱うのは、マーリーンの母イポスの能力だ。サタナキアの一族に突然変異で現れた能力は、どうやら娘に受け継がれたらしい。ということは、彼女は吸血種ではない。
「うーん。複雑だな」
「能力は登録しておきます」
過去にサタナキアが登録せずに罰を受けた経緯があるので、そこはルシファーも同意した。
「悪いが頼む」
となると、この場で一番魔獣に近いドラゴン姿のゴルティーが噛みついたのは、魅了への抵抗だ。魔力量が高い翡翠竜の子でなければ、魅了された可能性がある。これは本人が制御できるまで封じる必要があるかも知れないな。
あれこれ考えながら、手元の書類に署名と押印を施した。再処理になった書類の上に、ベールがそっと書類を重ねる。気づかないルシファーは確認せずに署名した。押印しようとして手を止める。
「おい、これは違うぞ」
「紛れたようです。申し訳ありません」
口調は丁寧に謝るが、絶対に確信犯だ。睨むルシファーが未処理へ書類を戻した。きちんと読んでいるか確認するためだったが、思ったより書面をきちんと見ているらしい。満足したベールは、近くの応接用ソファに腰掛けた。
白紙の申請書に、マーリーンの魅了能力を記していく。魅了は他者を操る能力であるため、登録が義務なのだ。手早く書類を作成し、イポスへ渡すようメモを付けた。
「……ベール、丈夫な柵は予算で出るか?」
「申請書があれば……ああ、これは大変です」
言葉のわりに平坦な声で告げたベールは、苦笑いする。マーリーンが出た隙間を広げる形で、子ども達が外へ出てきた。倒れた柵は半壊状態だ。
「ですが、陛下。結界で囲いを作ればよいのでは?」
なぜ物理的な柵なのですか。問われて、ルシファーは溜め息を吐いた。
「見える柵じゃないと、子どもが突進するんだ」
まだ魔力感知が未熟な子どものケガ予防だった。あれこれ検討した結果、柵を予算で購入して上に結界魔法を重ねることで話が付いた。魔王城の予備費から柵代は支出されたとか。
20
お気に入りに追加
773
あなたにおすすめの小説
外れ婚約者とは言わせない! 〜年下婚約者様はトカゲかと思ったら最強のドラゴンでした〜
秋月真鳥
恋愛
獣の本性を持つものが重用される獣国ハリカリの公爵家の令嬢、アイラには獣の本性がない。
アイラを出来損ないと周囲は言うが、両親と弟はアイラを愛してくれている。
アイラが8歳のときに、もう一つの公爵家で生まれたマウリとミルヴァの双子の本性はトカゲで、二人を産んだ後母親は体調を崩して寝込んでいた。
トカゲの双子を父親は冷遇し、妾腹の子どもに家を継がせるために追放しようとする。
アイラは両親に頼んで、マウリを婚約者として、ミルヴァと共に自分のお屋敷に連れて帰る。
本性が本当は最強のドラゴンだったマウリとミルヴァ。
二人を元の領地に戻すために、酷い父親をザマァして、後継者の地位を取り戻す物語。
※毎日更新です!
※一章はざまぁ、二章からほのぼのになります。
※四章まで書き上げています。
※小説家になろうサイト様でも投稿しています。
表紙は、ひかげそうし様に描いていただきました。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる