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第4章 魔王なら出来て当たり前

60.敵は完膚なきまでに潰すべき

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 数千年かけて統一し、数万年かけて邪魔な異物を排除した。魔王妃リリスを拾った頃から急展開が続いたが、魔の森との意思疎通も図れるようになった今日この頃……ようやく安定してきたのに。こんな場所で、我々の大切な子ども達の魔力を奪おうなど。

 くつりと喉を震わせて笑う。アスタロトの残虐さが口元に滲んでいた。義娘や孫には到底見せられない顔だ。半透明の結界を展開してくれたことに礼を言わなくては。人影程度しか見えないのを確かめて、アスタロトは愛剣を抜いた。

 鞘を収納へ放り込む。この場を破壊するのに必要な魔力量は、全体量のおよそ3割。その程度使っても支障はない。まだ眠りの時期は遠いので、しばらく大きな魔法を使わずにいれば回復する程度の量だった。このまま帰還する道も開けたが、報復しないのは性に合わない。

 敵は完膚なきまでに潰すべきだ。二度と歯向かおうと考えないところまで、徹底的に潰すのがアスタロトの流儀だった。魔力を固めて作った虹色の刃を振りかぶる。大量の魔力を流して、剣の密度を高めた。虹色の輝きが眩しいほど増したところで、一気に叩きつけた。

 パリン……鏡が割れるような音がして、世界にヒビが入っていく。色のない白の世界は、我々の世界と法則が違う。純白の魔王が最強と称されるように、色の淡い者ほど強い法則が適用されていなかった。このこと自体、ここが異世界だと示す材料だ。飽和するほど大量の魔力を注がれ、破裂した。

「異世界に繋がる必要も意味も感じませんね……ああ、でも日本人の知識はとても役立っていますが」

 思い出したように付け足し、満足げに笑う。書類の分類や文官に責任を持たせて役職に応じた分業を命じる方法は、今の魔王城上層部の負担を半減させた。こういった繋がりならば大切にするが、一方的に魔力を搾取する相手は不要だ。

「二度と手出しはさせません」

 繋がった世界にすぐ飛び込んだため、今回は追跡が可能だった。だが一度繋がった異世界が、子どもを内包したまま繋がりを切った場合……二度と追えなくなる。数えきれない無数の世界の中から、子ども達の幼い自我や不安定な魔力を手掛かりに探すのは難しかった。

 今回は運が良かった。だが二度目を防ぐ手立ては必要かもしれませんね。考えながら、再度剣を振るう。ぎりぎりで持ち堪える世界のバランスが崩れた。何かの悲鳴に似た甲高い音がキーンと響き渡る。無意識に音を遮ったアスタロトが、溜め息を吐いた。

「足掻くくらいなら、手を出さなければよいものを」

 何らかの攻撃と判断し、音を完全に遮断する。と同時に、同じ結界をルシファーの結界に重ね掛けした。どうせ音も光も遮っているでしょうが、安全装置はいくつあっても困りませんから。あの結界の中には、命より大切な主君がいる。可愛い娘と孫も……毛筋ほども傷つけさせる気はなかった。

 大きくヒビが広がって剥がれる世界の核を貫くように、アスタロトの剣が突き立てられる。さらに大きな悲鳴が響いたが、誰の耳にも届かなかった。やがて声が掠れて消えて、静けさが戻る。淡く発光する白い世界は、ぼんやりした灰色の世界へ変わった。

「ルシファー様、終わりました」

 こんこんと結界をノックすると、内側から念話が届いた。このまま転移するから、ついて来いと。自分勝手ですね。私を結界に回収してから飛べばいいものを、横着するあたりがルシファー様です。ぶつぶつと文句を並べながらも、眉間に皺はない。

 振り返った後ろは荒涼とした灰色の世界、きっとここはまだ構築中の世界だったのでしょう。新しく何かを作り上げるために、必要なエネルギーを近接する世界から奪った。そこに善悪の判断はなく、ただ魔力を保有する生き物を無差別に選別したはず。

 動物どころか植物すらまだの世界が、我が主君の治める世界に手を出すなど、身分不相応です。そう吐き捨てて、転移する結界に魔力を繋いで飛んだ。消える直前、伸ばされる手に気づく。ローブに触れた手を払うのではなく、肩の留め金を外して脱ぎ捨てた。

 道連れはご免ですからね。
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